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社長真っ青、資金ショート! 危機に備える銀行付き合いのコツ(大関暁夫)

   業界情報の収集で、以前からお付き合いのある機械部品メーカーT社の総務課長Kさん宛てに電話を入れてみると、長期の休暇に入っているとの話が。病気なのかと尋ねても電話口の社員からは「詳しいことはわからない」との答えだけで判然としません。

   名刺にメモされていたKさん個人の携帯電話番号に電話をして確認してみると、予想もしない事実がわかりました。

  • 資金繰り悪化で先が見えなくなる……
    資金繰り悪化で先が見えなくなる……
  • 資金繰り悪化で先が見えなくなる……

突然のクビ切り

「社長から突然、しばらく休んでほしいと言われました。さらに、これを機に退職するなら会社都合にして、すぐに失業保険がもらえるようにしてやるとも。理由は業績不振に伴う事業縮小だと言っていましたが、体のいいクビ切りなのかなと。もともと私は中途採用ですから、こういう時は真っ先にクビ切り要員になるのでしょうね。近々、他の中途採用組もあと2~3人、同じ扱いにするような話も聞きました」

   Kさんは大手企業からの転職組で、地味なタイプではありますが仕事は堅く、何より業界大手勤務が長いことから、その人脈を活かした情報網は社内随一と言えます。これまでも人脈を活かした新規取引先の開拓などでの貢献度も高く、社長も何かと頼りになる存在として信頼していただけに驚きを禁じえないところです。

   この処遇が何とも解せない私は、すぐに同社S社長に電話を入れ、急ぎのアポイントを取り付けました。

   久しぶりにお目にかかったS社長は何とも不健康な顔色、顔つきで、ちょっと普通でない様子が、ありありとうかがえました。さっそくKさんの件を尋ねてみると、しばらく黙ったあとに重い口を開きました。

「大口の安定受注先を立て続けになくなってしまい、資金繰りが火の車なのです。今はどうにも苦しく、不要不急の出費は抑えなくてはならない。そんな状況にあります。Kさんには本当に申し訳ないと思っているのですが、一時、部門を縮小して資金繰りが安定するまでお休みしてもらうことにしました」

   「実質解雇ですよね」との質問には、「辞めさせたくはない」と言葉を濁していたものの、部門縮小は表向きで、どうみても会社都合の一方的かつ実質的な解雇勧告と言えるやり取りがあったのは事実のようでした。

   本来であれば、窮地を脱するためにもKさんの人脈や情報網は、むしろ重要な役割を果たすはずなのに、そんなことすらまったく見えていない様子です。話の合間合間に何かにつけて「資金繰りの悪化が......」とばかり繰り返すS社長には、出費を少しでも減らすことしか、今は頭にないようで取り付くシマもありませんでした。

「銀行嫌い」「借金嫌い」の社長

   経営者にとって、会社のおカネの話は最もナーバスな問題であり、資金繰りが苦しくなってくると、他の問題がまったく見えなくなってしまうというのは、じつにありがちな話でもあります。

   そうなってしまうと、特に長期的な視点は失われてしまい、目先の売上確保や経費削減にばかりに気を奪われ、結果的にそれが縮小均衡を招いて袋小路に迷い込んでしまう、そんなケースが多いのです。

   S社長の現状はまさしくその状況です。どうやら、Kさんが言っていた、他にも中途組何人かを同じように雇い止めする予定という話も事実のようで、ここで何とか歯止めをかけないと本当に取り返しのつかないことになりそうな雲行きです。

   資金面に関して言えば、S社長の悪い点として、「銀行嫌い」「借入嫌い」ということがあります。これまでも業績好調時に銀行からたびたび融資の売り込みがあったものの、基本的には無借金経営を貫いてきました。

   そのため決算書も未提出で、現状のような資金繰り難に陥っても借り入れ実績がないだけに、銀行に緊急融資を求めるのは非常に厳しい状況にあります。

   銀行取引の基本は、じつは「借りられる時には借りておく」なのです。銀行側のモノ言いのように聞こえがちですが、要するに借りたい時にはなかなか銀行は貸してくれないので、借りられるときに借りて資金をプールして、有事に備えておくのが賢い銀行との付き合い方ということになるのです。

   「使い途のないお金を借りたら、ムダな金利がかかるじゃないか」というお話もよくあるのですが、そこは万が一、今回のような資金繰り難に陥った時に備えた保険料と考えてもらうのがいいと思っています。

資金繰り悪化は社長の判断を鈍らせる

   さて、T社ですが、残るは社長の個人資産頼りなのですが、本人はまったくそのあたりに無頓着なので個人資産の管理を担当している社長夫人を交えて再度協議し、それなりの個人預金があることを確認しました。

   そこで社長の個人資産を銀行融資の代わりに会社に一時貸し付けることとし、同時にKさんの職場復帰による新規取引の営業強化についても、渋々応諾してもらうに至りました。とにかく技術力はピカイチな会社であるだけに、なんとか新規取引を拡大して、社長が一日も早く資金繰りの悩みから解放されることを祈るのみです。

   資金繰り、おカネに関しては企業を動かす原動力であるだけに、一度この点で問題が起きてしまうと、経営者はあらゆるマネジメント事項に関して判断機能がストップしてしまうことが間々あります。

   どんなにハイスペックの自動車でも、ガソリンが切れてしまえば何も機能しないのと同じです。経営者たるもの経営がいかに好調であっても、万が一資金繰りが悪化した場合を想定して、銀行借入の融資金をプールしておくのか、社長の個人資産を緊急避難手段とするのか、日常から有事に備えておく必要があると痛感させられました。(大関暁夫)