J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

コーヒーはワインと同じ「いいモノをいいと評価する」文化を育てたい

   コーヒー業界で、サードウエーブ(第3の波)といわれている「スペシャルティコーヒー」。品質のよいコーヒーを、焙煎や淹れ方にこだわって飲むスタイルのことで、日本では、2015年の「ブルーボトルコーヒー」(米国)の上陸で、一気に認知が高まった。

   そんなスペシャルティコーヒーに早い時期から注目し、生産国で開催されるコーヒー豆品評会カップオブエクセレンスのトップテイスターとして知られる「丸山珈琲」の創業者で社長の丸山健太郎氏に、創業秘話やコーヒー豆の生産者との出会い、会社の取り組みを聞いた。

  • バリスタが淹れてくれるコーヒーが愛好家にはたまらない(「丸山珈琲 西麻布店」で、丸山健太郎社長)
    バリスタが淹れてくれるコーヒーが愛好家にはたまらない(「丸山珈琲 西麻布店」で、丸山健太郎社長)
  • バリスタが淹れてくれるコーヒーが愛好家にはたまらない(「丸山珈琲 西麻布店」で、丸山健太郎社長)

「凝り性」がコーヒーを極めるきっかけに

――丸山珈琲を創業された経緯について教えてください。

丸山健太郎社長 私は、小学生の時に比叡山の千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)の特集番組をテレビで見て感動し、「ヒトはなぜ行(ぎょう)をするのか」という題で作文を書くような少し変わった子でした。
   高校卒業後は、米国やインドなどを放浪して、お金がなくなると帰国する生活が2~3年続きました。現在の妻と一緒に暮らしはじめ、社会復帰を目指していたとき、妻の実家が軽井沢で営んでいたペンションを畳むというので、その夏だけ、そこで喫茶店を開くことになったのがコーヒーとの出会いです。
   接客業もコーヒーも、まったくの門外漢でしたが、もともと凝り性な性格で、焙煎方法や淹れ方を追求していくうちに、自家焙煎のお店をオープンすることに。1991年のことでした。
「もともと凝り性な性格」という丸山社長
「もともと凝り性な性格」という丸山社長

――スペシャルティコーヒーとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。

丸山社長 米国では1990年代後半、インディペンデント系と呼ばれる、ひと握りの若手経営者たちがコーヒー豆の産地に実際に足を運び、品質のよいコーヒーを仕入れて提供するという新しいコンセプトで、成功を収めていました。
   2000年ごろ、このスペシャルティコーヒー事業の話が日本に来たときに、大手メーカーや商社は既存ビジネスですでに成功していたため興味を示さず、私のような末端の自家焙煎のコーヒー店にまで話が下りてきたのです。米国でヒットしたら、遅かれ早かれ日本でもヒットするという方式が頭にありましたし、当時ビジネスの視察で訪米したときに現地の会議で「サステナビリティ(継続可能性)」など、まだあまり日本では認知されていなかった考え方が飛び出し、その先進的で本質的な考え方に共感して参入を決めました。

コーヒー豆の産地はキラキラして美しい

――海外のコーヒー豆の品評会で、当時、史上最高価格で豆を落札した逸話が残っているそうですね。

史上最高値で落札したコーヒー豆に、バイヤー仲間からは白い目で見られたことも(丸山社長)
史上最高値で落札したコーヒー豆に、バイヤー仲間からは白い目で見られたことも(丸山社長)
丸山社長 ビジネスのスタートと時を同じくして、カップ・オブ・エクセレンス(COE)という生産地の品評会が始まりました。この品評会は、ブラインドテイスティングし、採点して評価が高い豆をオークションで落札できるシステムで、私は2002年にブラジルCOEで1位になった「アグア・リンパ」というコーヒー豆を当時、史上最高価格で落札しました。
   同じバイヤー仲間からは「そんな高い価格で買うなんて」と、白い目で見られましたが、それがきっかけで「日本にいいバイヤーがいる」という話が生産者のあいだで広まり、次々といい生産者と知り合えるようになったんです。
   その後、生産者が数百人集まるイベントに呼ばれ、スピーチを頼まれたときに、自虐的な意味を込めて「『アグア・リンパ』を、史上最高価格で落札してしまった...... 者です」と自己紹介したら、生産者がスタンディングオベーションで迎えてくれたんです。その時、「ああ、こんなに生産者の方たちが喜んでくれるなら、これでよかったんだ」と、そう思ったんです。
   出会いが出会いを呼び、今では18か国、数百人の生産者から生豆を直接仕入れています。

――「Discover coffee=豆生産者との出会い」というコンセプトを広めているそうですね。

丸山社長 私は、コーヒーはまだ過小評価されていると思っているんです。自分で豆を配達していたころ、「コーヒーなんてどれも同じ」と言われたり、「適当にその辺に置いておいて」と粗末に扱われたりしたこともありました。実際には、コーヒーにも品質はあるし、土壌によって味も変わります。
   ワインやシャンパンも同じなのに、扱いがまったく違うことに違和感があるのです。年間に約半分は、生産者のもとを訪ねていますが、私の見る産地は、美しくてキラキラしていてとても魅力的です。そんな素敵な産地を、ビジュアルや言葉、映像を通じて表現したい。そんな思いで、この「Discover coffee」というコンセプトを広めています。
   当事者である生産者は、なかなかそのよさを伝えきれないので、生産者に代わって伝え、コーヒーに正当な評価や対価をもたらしたいと思っています。

――今後の会社の方向性を教えてください。

丸山社長 現在、当社は店舗、通販、卸の3つのビジネスから、ほぼ同じ収益が上がっていて、バランスよく運営できています。店舗数は長野と関東圏に計11店舗。おかげさまで、スペシャルティコーヒーの専門店ということで、わざわざお店を探して来てくれる海外の人もいます。店舗数は状況を見ながら、徐々に増やしたいと思っています。いずれは、お客様に「品質のいいコーヒーなら丸山珈琲だよね」と言っていただき、日本各地でコーヒーを手に入るようにしていきたいですね。

(聞き手 戸川明美)