J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

ペンス米副大統領「政権の対中政策」以降のマーケットを考える(志摩力男)

   すでに多くの方が論評しているので、多くがご存知のことでしょう。米国のペンス副大統領が「政権の対中戦略」という講演をハドソン研究所で行いました。

   この講演の内容は広範に及びます。

  • どう転ぶ、米中貿易戦争!?(写真は、中国・天安門)
    どう転ぶ、米中貿易戦争!?(写真は、中国・天安門)
  • どう転ぶ、米中貿易戦争!?(写真は、中国・天安門)

米国が目指すのは中国の「レジーム・チェンジ」か

   その中身は、こうです。1972年に外交関係復活以降、米国は常に中国を助けてきた。自国経済を開放し、留学生を受け入れ、世界貿易機関(WTO)に加盟させました。特にソ連崩壊もあり、中国が自由化することは必然と米国は考えて来た。しかし、口では「改革開放」と言いながら、今ここにあるのは強大な独裁国家、中国だと。

   過去17年で中国の国内総生産(GDP)は9倍になり、世界第2位の経済大国になりましたが、米国が巨額の投資をしたからこそ成功したのです。しかし、中国は関税をかけ、為替を操作し、知的財産を盗み、巨大な製造業基地を構築し、米国との間で巨額の貿易黒字を積み上げてきた。

   そして、それが巨額の軍事費となり、米国に対して挑戦しようとしている。米国は1972年以来の政策を180度転換し、中国が変わるまで戦うと高らかに宣言したのです。

   米国防総省アドバイザーであるエドワード・ルトワック氏が先週(2018年10月7日週)来日し、彼のインタビューが読売新聞や毎日新聞に掲載されました。そこで、米中両国が核保有国なので「軍事衝突することはない」が、「(軍事衝突しないので)対立は長期間に及ぶことになる」「レジーム・チェンジ(体制変革)、すなわち中国共産党政権が崩壊するまで続く」と、予測しています。

   米国が目指していることが「体制変革」であるならば、ペンス米副大統領の講演は、実質的に「宣戦布告」です。

   戦争なので、多少経済やマーケットにダメージが及ぶことは致し方ないと考えているでしょう。最近、米国市場が崩れたのは、米長期金利の上昇等の理由もあったのでしょうが、ペンス氏の「宣戦布告」に恐れをなしてポジションを閉じたプレーヤーが多かったからであるとも考えられます。

中国の基本戦略は「時間稼ぎ」

   実際、リーマン・ブラザーズの経営危機を見抜いて有名になった米ヘッジファンド、グリーンライトキャピタルのデビット・アイホーン氏は「中国による対抗措置を懸念し」長年保有していたアップル株などを売ったと、インタビューに答えています。

   本当に中国からの対抗措置が出てきて、市場を大混乱に陥れるということが起こるのでしょうか?

 

   もちろん、それはわかりませんが、「戦争」なので何でもありと言えばありかもしれません。

   中国の基本戦略は、時間をできるだけ稼ぐことだと思います。

   中国の成長力が米国を上回っているので、時間が経過すれば自然と米中の格差は縮小します。2020年台後半にはGDPの米中逆転もありえると推計されていますが、それまでは臥薪嘗胆、No.1の米国とはぶつからないように、低姿勢でのらりくらりとやっていくのでしょう。

   しかし、今そうした戦略が通用しなくなったのかもしれません。11月のG20の際、トランプ・習近平会談が計画されていますが、米国の姿勢があまりにも強硬であるならば、中国も考えられる限りのことをしなければならなくなります。

   中国は多額の米国債を保有しています。つまり資金を「敵国」に置くのもおかしなことなので、ある程度の資金シフトはあるかもしれません。大量の資金になるので、受け入れ余地があるのはユーロ、もしくは円ぐらいになります。

   可能性が非常に高いとは思いませんが、ある日、大量の米国債の売りと同時に、ユーロ買い、円買いが起こった場合、それは中国の資金シフトであるということもあり得るでしょう。

中国経済が不振で要注意の通貨は?

   日本経済に及ぼす影響はどうなるでしょうか――。米国と中国が対立することは、経済的にいいことはあまりありません。中国は現在、製造業の世界拠点ですが、そこから米国企業が少しずつ抜けていくことになるでしょう。

   日本企業も同様なことを迫られる可能性があります。中国の需要が想定より低下するので、売り上げは低下します。

   この先、日本経済にはオリンピック特需の消滅、2019年の消費増税と経済へのブレーキが2つ見えます。それに、中国経済の不振が加わると、インパクトは小さくなさそうです。

   政治的には日本に好都合でしょう。中国も余計な対立点をつくりたくはないでしょうから、尖閣諸島に中国の船がウロウロすることは少なくなりそうです。

   ただ、中国経済にどの程度、どのようなペースでブレーキがかかっていくかは読み難いものがあります。

   中国も景気対策出してくるでしょう。中国経済が不振となると、影響を最も被るのが豪ドルなどですが、景気対策が部分的に効いたりします。そのため、短期的には不透明ですが、長期的には豪ドルはかなり下げ余地あると思われます。対円では78円の後半を割り込んでくると、次は72円台となり、長期的にはもっと下げ余地があると思います。(志摩力男)