政府は継続雇用年齢を65歳以上に引き上げる法改正に向けて、企業に対して70歳までの雇用を促すようです。
昔と違い現代の65歳は元気で働ける年齢ですから社会で活躍していただくのは大歓迎です。しかし、私がお会いするシニアの方からはこのような声もよく聞きます。
「役職定年になりグループ会社で働いているが、元部下たちと顔を合わせるのが気まずいので本社の社員食堂の利用時間はずらしている」
「嘱託社員になった途端、周囲の態度が冷たくなった」
「元部下が上司になり、やりづらい」
「良かれとアドバイスをしたら、『もう●●さんは現役から離れたのですから、後は私たちに任せてください』と部署のメンバーに言われショックだった」
など......。
年齢の区切りをきっかけとした人間関係の変化に戸惑っている様子。もちろんこれらはシニアの方だけが感じることではなく、元部下の方々からも、
「接し方に困る」
「仕事の指示の仕方がわからない」
と悩んでいるのです。
「嘱託社員になった途端、周囲の態度が冷たくなった」ケースを例にとると、嘱託社員のシニアからは「今まで情報共有されていた事柄がされなくなった」=「仲間外れにされた。冷たくなった」と感じるかもしれませんが、元部下たちからすれば「情報共有の範囲」が変わったにすぎません。
会社で定められた範囲内でしか共有してはいけない事柄を、元上司だからと感情的側面から開示してしまえば、ルール違反になります。内心では「教えたい」と思ってもできないのです。
「エイジ(年齢)ハラスメント」という言葉があります。
もともとは、企業内での中高年者に対する年齢を理由にした差別や嫌がらせのことでした。
現在は若手社員に対しても使われます。「若い=スキルが足りない」と決めつけた発言や、体力があるはずと重労働を強要するなど、エイジハラスメントの解釈の幅は広がっています。
今後、65歳以上の継続雇用が一般的になれば、さらに幅広い世代かつ雇用形態の異なる人々が同じ職場で働きます。
「ご隠居組は余計なことは言わず、与えられた仕事だけやればいい」
「まったく若い奴らは効率が悪い。俺ならこうするのに」
と年齢に囚われることなく、お互いのスキルや経験に敬意を表した話し方をすることも職場のマナーです。
前述の例ならば、元部下はあらかじめ「この件については●●メンバー間で情報共有しますが、困った時には相談させてもらえますか?」と言えば、疎外感は薄れるでしょう。シニアの方も「気を遣ってもらってありがとう。私で役立つことがあればいつでも協力します」と感謝の言葉を入れて返せばシニアこその余裕が感じられます。(篠原あかね)