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アナログの逆襲がはじまった 「ポストデジタル経済」は「昭和」が新しい!(気になるビジネス本)

   携帯電話のインターネット接続サービスが始まったのが1999年。この年の日本のインターネットの人口普及率は約20%だったが、同年にはまた、電話回線のデジタル加入者線の一つであるADSLが登場、これ以降、ネットの普及率の高まりが速度をあげるとともに、さまざまなものがデジタル化されていく。

   合理化や利便性の向上を促進するデジタル化は加速度的に進み、デジタルじゃなければモノじゃないとばかりにアナログなものは切り捨てられてきた。ところが、その動きが20年ほどを経過してデジタル化がある程度成熟した感が強まったところで、この間にないがしろにされてきた「アナログの逆襲」が始まったという。「デジタルの先にあるアナログ」が姿を現し「ポストデジタル経済」の訪れを告げている。

アナログの逆襲 ~「ポストデジタル経済」へ、ビジネスや発想はこう変わる ~
(デイビッド・サックス 著、加藤万里子訳)インターシフト
  • 「ポストデジタル経済」はデジタルの先にあるアナログの姿に?
    「ポストデジタル経済」はデジタルの先にあるアナログの姿に?
  • 「ポストデジタル経済」はデジタルの先にあるアナログの姿に?

アナログを知らない子どもたち

   「アナログの逆襲」「ポストデジタル経済」といっても、以前のままのアナログに回帰するわけではない。すでに、ちょっとしたブームがとりざたされているアナログモノにレコードや印刷メディア、リアル店舗などがあるが、それらを裏側から支えているのはデジタルであり、アナログとデジタルが融合したものが「ポストデジタル経済」の内情だ。

   デジタル化が進んで20年以上がたっており、若者の多くは「デジタルネイティブ」といわれる世代だ。生まれたときからいろいろなものがデジタルということで、言い換えれば「アナログを知らない子どもたち」。日本よりデジタル化で先行した米国や英国での近年のアナログ人気を取り上げた「アナログの逆襲」によれば、その人気の盛り上がりは決して過去を振り返って懐かしむノスタルジーからではない。アナログを知らない世代が、その独特の味わいのよさに気づいて使い始めたものだ。

   つまり日本でいえば、郷愁でない「昭和」の発見といえるかもしれない。

   本書では「アナログな『モノ』の逆襲」として、レコードやノートなどの紙類、フィルムなどが、デジタルの記録に比べて五感を刺激するなどの利点があることを指摘。また、ボードゲームが端末を使ったゲームでは味わえない人間的な交流を促すことを指摘する。レコードやボードゲームは日本でもすでにブームが始まっている。

「印刷物」は特定分野で成長中

   もう一つのテーマは「アナログな『発想』の逆襲」。デジタル化の広がりにより、さまざまな産業が影響を受けたものだが、米英ばかりか日本でも共通しているのは、出版や新聞などプリントメディアの企業が大きく揺さぶられたことだ。

   だがデジタル化が進んで以降、デジタルオンリーでベストセラーになった例はなく、新聞、雑誌などでもデジタル版が成功したという例はあっても、デジタル事業に転換して紙媒体並みを実現したなどという例はほとんどないという。

   それどころか、新聞媒体はともかく、「印刷物は持ちこたえているばかりか、特定の分野では成長を遂げ、新しい出版物や、デジタル出版物のアナログ版を生み出している」ほどなのだという。「現時点では定期刊行物で何十億も利益を出す企業はほとんどないが、低コストで即時配信できるデジタル出版物の輝かしい成功物語がほんの一面にすぎないことがますます明確になってきた」ものだ。

   流通や広告をめぐってはまだ、大手出版社に合わせた、いわば、時代遅れの枠組みがそのままで「恐ろしく無駄が多い」まま。雑誌市場のモデルは変わっていないために、かつて部数を誇った雑誌のなかには身売りするものも出てきた。だが市場をつぶさに見てみれば、たとえば米国内では、毎月平均20の雑誌が創刊されているという。「作成と販売の方法が新しいモデルにシフト。ポストデジタル経済で機能するように設計されたモデルに変わっている」のだ。

新聞「紙」はデジタルに太刀打ちできない

   それでは新聞はどうだろうか。雑誌に比べ「新聞の未来はそこまではっきりしていない」のが実情のよう。新聞ビジネスの側が、アナログの「紙」を「最新情報を伝える手段」ととらえ続けるならば「デジタルに太刀打ちできない」のは明らかだ。「新聞が貴重なアナログ手段であり続けようとするならば、新聞という概念を見直す必要がある」という指摘は、その通りに違いない。

   米ニューヨーク・タイムズはデジタル版読者の獲得に成功している数少ない新聞の一つだが、同紙が2014年に読者の日常的な新聞習慣を調査したところ、新規購読者にはかなり多くの若者がいることが分かり、しかも彼らが積極的に紙の新聞を選んでいることが分かった。また、デジタル版読者より記事を読む平均時間が長いことも分かった。

   米英の新聞各社が講じたのは、紙とデジタルの差別化だ。印刷版のニューヨーク・タイムズが支持されているのは、リンクや関連情報なしに読めるからだと編集幹部は考えている。英ガーディアンは、最終的にはうまくいかなかったが、ウェブサイトの情報を利用しながら未来に適応する紙媒体に取り組んだこともある。また英デーリー・テレグラフはデザインなどで紙の方が「高級品」という認知化をすすめ、いまも収益の大半は紙の発行から得ているという。

   ニューヨーク・タイムズなど一部を除けば、新聞のデジタル版では有料だと購読者が伸びないのが現状。インターネットでは無料で公開して広告収入を目指すのが大半だ。ネットでは、グーグルとフェイスブックは、アクセス量の流れをコントロールして広告料を効果的に設定している。一方で、デジタルメディアは、広告料獲得のため数百万の「目線」獲得に動くが、これらは一瞬の増加が多い。ユーザーは一瞬しか広告を目にとめないので掲載料は少なくなるという。新聞にとっては「ポストデジタル経済」も明るいニュースとはいえないようだ。

アナログの逆襲
~ 「ポストデジタル経済」へ、ビジネスや発想はこう変わる ~
デイビッド・サックス 著、加藤万里子訳
インターシフト/合同出版発売
税別2100円