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【10連休は本を読む】「アマゾン」をGAFAの一角に押し上げた問題解決法(気になるビジネス本)

   「GAFA」と呼ばれる4社のなかで「アマゾン」は、その業務が「小売り」や「流通」と、IT業界出現以前からある従来型の産業の進化バージョンとみることができ、グーグルやアップル、フェイスブックなどのIT大手とひと括りにされると、1社だけ異質な印象だ。

   GAFAは、グローバル化により世界の市場で圧倒的な規模の個人データを集めて君臨し、そう総称されるようになった。出自が異なるアマゾンがその一角を占めるほどの成長を遂げたのは「本質的問題解決思考」ができたからという。

『アマゾンのすごい問題解決』(佐藤将之著)宝島社
  • 書籍通販から世界有数のIT企業に成長
    書籍通販から世界有数のIT企業に成長
  • 書籍通販から世界有数のIT企業に成長

立ち上げから15年間アマゾンジャパン勤務

   『アマゾンのすごい問題解決』(宝島社)は、アマゾン独特という問題解決思考について詳しく述べたもの。著者の佐藤将之さんは、アマゾンジャパンの「17番目の社員」としてその立ち上げに参加し、15年間を同社で過ごした。その後は、アマゾンなどでの経験を生かして経営コンサルタントとして活動中。昨年4月には『アマゾンのすごいルール』(宝島社)を刊行しており、本書はその続編だ。

   アマゾンジャパンは米アマゾン創業6年後の2000年11月、書籍通販の日本語サイトとして開始。米国外では独、英、仏に続く世界で4番目の通販サイト立ち上げだった。グーグルのスタートが検索エンジン、アップルはパソコン、フェイスブックがSNSサービスであり、あらためて比べると、共通項にインターネットがあるが、アマゾンはやはりちょっと違う感じが濃い。

   佐藤さんは、通販サイト時代から、IT企業に仲間入りする過程のアマゾンに勤務しており、本書は、アマゾンの成長史序章の外伝ともいえそう。その内容は9章で構成。それぞれ「数値目標を設定していますか?」「教育体系は存在していますか?」「評価制度は整っていますか?」「仕組みを考えていますか?」「新しい時代への適応は進めていますか?」など、問いかけの格好でテーマが掲げられている。小売り業の会社として泥くささに徹し、ITの進化をとらえて「新しい時代」に応じて、現在の成功を果たしたと読めなくはない。

   こうした構成になっているのは、主な読者に企業の中間管理職を想定し、アマゾンの問題解決方法がマネジメント業務をめぐって何らかのヒントになるだろうと考えたうえでのことという。各章では、そのテーマに関連する質問が3~5項目設定され、それらに対してアマゾンでの解決法が提示される。各章末にコラムを配置。アマゾンの人事評価制度や国際規模での社員合宿、社内ルールなどについて述べられている。なかには、そこまでやるのかと感心することがある一方、ほかの企業の物語でもみられることもある。中間管理職にとってばかりでなく、アマゾンを就職先や転職先の候補として考えている人にも有益な情報、データ集だろう。

「すべてテクノロジーに置き換える」スタンス

   アマゾンの問題解決のアプローチの拠り所になっているのは創業者、ジェフ・ベゾス氏の考え方や言葉だ。ベゾス氏は、GAFAの他の企業の創業者と同じく電気工学などを学んだエンジニア。実業家のプロフィールも共通だが、ベゾス氏が社会に出てから選んだのは金融業界で、ひとり別の道を進んだ格好だ。金融サービス会社で資産運用に携わり、ヘッジファンドでマネジャーなどを務めたのちにアマゾンを創業。その過程で学んだことをアマゾンの運営に生かすことで成長を加速化させたものだ。

   ベゾス氏の言葉の代表的なものの一つに「『善意』は働かない。働くのは『仕組み』だ」というのがあり、佐藤さんら社員にしばしば語っていたという。その意味は「『善意』だけで、社員は働き続けられない。『仕組み』の土台の上で、社員の『善意』が発揮される」ことだと社員らは理解している。顧客体験を快適なものとするためには社員の善意が欠かせないが、その機能のためには仕組みがなければならない。著者によれば、仕組みを充実させることはIT化と同義であり、このことが原動力の一部となってアマゾンを有数のIT企業に押し上げた。

   「仕組み化の際、有効活用したいのはテクノロジー。コンピュータは基本的に言われたことしかできないが、ときとして人間が犯しがちなケアレスミスを防ぐ。アマゾンは創業当初から『テクノロジーに置き換えられるものはすべて置き換える』というスタンスで改善を進めている。アメリカのアマゾンの倉庫はその主要プロセスをロボットが担うようになったが、これも当然の考え方」と佐藤さん。「すべてテクノロジーに置き換える」スタンスはまた、他のIT企業と比べて、より近い距離で顧客を相手にするビジネスを営んでいるからでもある。「『私たちが手間暇かけたからといって、その手間暇にお客様はお金を払いたいわけではないでしょう?』という考え方があるから」という。これらがアマゾンの「本質的問題解決思考」というものだろう

   もちろんIT関連ばかりでなく、人材育成の不調、社内モンスターの存在、離職率の上昇、世代間での価値観差、進まぬ働き方改革など、企業が抱えているとみられるさまざまな問題についてアマゾン流の解決方法を提示している。それらのベースになっているのもベゾス氏の考え方だ。

   評者はパソコンで数日前、アマゾンのロゴ入りではあるが、詐欺とすぐ分かるメールを受け取った。アマゾンはしばしば利用することだし、重ねて送られてきて事故の元になりかねないから、アマゾンに知らせておこうと、その窓口をさがしたのだがなかなか見つからない。結局は、しばらく捜索したのちメールを送ることはできたのだが、このあたりもテクノロジーに置き換えてもらって窓口がすぐ見つかる客としての体験はグンと向上するに違いない。

『アマゾンのすごい問題解決』
佐藤将之著
宝島社
税別1500円