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アマゾン、アップルを追え!「伝統的モデル」のトヨタが目指す「プラットフォーマー」とはなにか(気になるビジネス本)

   トヨタ自動車の豊田章男社長は2019年5月8日に開かれた3月期決算の説明会で、今後、「モビリティー・サービス・プラットフォーマー」を目指す考えを示した。

   現代の急成長企業の多くは「プラットフォーマー」であり、いま最も注目すべきビジネスモデル。その代表格はアマゾンやアップルとされるが、両社はともに出発時はトヨタと同じ伝統的モデルだった。「プラットフォーマー」は、転身の場合の方が成長率は高いそうだが、著しい後退から復活を遂げたアップルの軌跡を豊田社長が考えているのではないかとも思えてくる。

「プラットフォーマー 勝者の法則 コミュニティとネットワークの力を爆発させる方法」(ブノワ・レイエ、ロール・クレア・レイエ著)日本経済新聞出版社
  • トヨタ自動車の3月期決算説明会で「モビリティー・サービス・プラットフォーマー」を目指す考えを示した豊田章男社長
    トヨタ自動車の3月期決算説明会で「モビリティー・サービス・プラットフォーマー」を目指す考えを示した豊田章男社長
  • トヨタ自動車の3月期決算説明会で「モビリティー・サービス・プラットフォーマー」を目指す考えを示した豊田章男社長

新ビジネスモデルを理解したいすべての人たちに

   「プラットフォーム」は、基盤や土台といった意味で、デジタル化が進んでからはアプリケーションが動作する環境を指して使われることが多くなった。本書でも評論家らが「技術的基盤」の意味でプラットフォームを用いているため、経済用語として「多種多様なビジネスモデルを含む曖昧な概念にとどまっている」と指摘。著者らはその状況を憂い「経済の原動力になりつつある新たなビジネスモデルを理解したいすべての人たちに向けて」本書を仕上げたという。

   著者の2人は、プラットフォーム型のビジネスモデルに特化した「まったく新しいタイプ」のコンサルティング会社「ローンチワークス」の共同創業者。コンサルティングという仕事柄からか、経営の高度な箇所や踏み込んだ内容のところもわかりやすく書かれている。

   アマゾン、アップルとともに「GAFA」と呼ばれるグーグル、フェイスブックもプラットフォーマーで、日本でもその名前はよく知られている。欧米や中国では、これら以外でも多くのプラットフォーマーがさまざま市場を創造し、いずれも急成長を果たしている。宿泊サービスの「エアビーアンドビー」は2017年、経営するホテルはゼロで約200万室を提供。その年の時価総額は300憶ドルにのぼった。一方、ザ・リッツ・カールトン、ウェスティンなど各国で約5700のホテルを展開する世界最大チェーン、マリオットは同年、計約120万室を提供、時価総額は178憶ドルだった。

   本書ではプラットフォームビジネスを、シンプルバージョンとしては「コミュニティのメンバー同士をつなげ、メンバー間の取引を可能にするビジネス」と定義。より具体的には「2つ以上の顧客グループを誘致し、仲介し、結びつけ、お互いに取引できるようにすることで大きな価値を生み出している企業」として、エアビーアンドビーや配車サービスのウーバーなどを典型例としてあげる。欧州ではライドシェア市場を開拓した「ブラブラカー」が急成長。フランス国鉄が「競合企業」と恐れるほどの人気ぶりという。

「自己強化型エコシステム」を形成

   デジタル時代の新ビジネスモデルであるプラットフォーマー以前の、伝統的企業のビジネスモデルは、1980年代に経営戦略の大家、マイケル・ポーターが命名したことで知られる「バリューチェーン」。企業は原材料を購入して加工(インプット)し、製品やサービスを生産して販売(アウトプット)して利益を得る。

   オンライン書店としてスタートしたアマゾンも、新たなOSやパソコンを開発して急成長を遂げたアップルも創業時は伝統モデルだった。

   アップルはその後、市場のリーダーだったマイクロソフト(MS)のソフトウエアと互換性がなく創業20年ほどして破綻の危機に。だがMSとの提携に転じて同社から出資を受けるなどして盛り返す。新製品の開発に乗り出し、iPod、iTunesを投入。パソコンメーカーからの脱皮をさらに進め2007年にiPhoneを発売し、アプリ販売のアップストアを立ち上げプラットフォーマーへの道を探る。

   そして、アプリ開発業者という顧客グループ、iPhoneやiPadなどの利用者である顧客グループを「誘致し、仲介し、結びつけ」両者が取引できるようにすることで大きな価値を生みだしている状況をつくりあげる。しかも、アマゾンもそうだが、アップルは自社でハードウエアを製造しており、このことで製品のデザインと品質を管理しやすくなるという利点がある。エアビーアンドビーやウーバー、ブラブラカーなどの仲介サービス会社ではできない顧客体験への強い関与が可能であり、このことは転身組のプラットフォーマーの大きな利点といえる。

   本書では、アップルやアマゾン、グーグルなども含めて「破壊的プラットフォーマー」と呼ぶ。そして、いずれもが「伝統的なビジネスモデルを掛け合わせることで、強力な「『自己強化型エコシステム』を形成していることもわかった」という。アマゾンは、オークションサイトのイーベイの開放型マーケットプレイスを採用しつつ、そこに自社のデジタル小売モデルを組み合わせ、グーグルは自社開発した製品やサービスで検索プラットフォームを補完し、エコシステムを急成長さていると指摘している。

   本書のプラットフォーマー解説を読み進めるほどに、トヨタがあと何年後かに、世界最大のプラットフォーマーになっているのではないかと思えてくる。

「プラットフォーマー 勝者の法則 コミュニティとネットワークの力を爆発させる方法」
ブノワ・レイエ、ロール・クレア・レイエ著
根来龍之監訳、門脇弘典訳
日本経済新聞出版社
税別2000円