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学習塾もない...... 県内で2番目に小さい村が「学力日本一」に(気になるビジネス本)

   文部科学省が2007(平成19)年から実施している全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)で、秋田県は開始以来ずっと、トップクラスの成績を維持して注目を集めている。なかでも、県内の市町村のなかで2番目に小さいという東成瀬村は、好結果をけん引する役割を担い「学力日本一の村」として知られるようになった。

この村で、子どもたちが高い学力を発揮する秘密をさぐってみると......。

「『学力日本一!』秋田県東成瀬村のすごい学習法」(主婦の友社編)主婦の友社
  • 秋田県東成瀬村の冬の登校風景。東成瀬村は県内でも屈指の豪雪地として知られる。
    秋田県東成瀬村の冬の登校風景。東成瀬村は県内でも屈指の豪雪地として知られる。
  • 秋田県東成瀬村の冬の登校風景。東成瀬村は県内でも屈指の豪雪地として知られる。

村内にコンビニ1軒だけ、学習塾などとんでもない

   東成瀬村があるのは秋田県南東の一角。東側は岩手県と、北側を宮城県と境を接する山間部だ。県内でも屈指の豪雪地で、村内にはコンビニは1軒あるが、スーパーや書店などはない。もちろん、学習塾もない。村の内外を結ぶ道路のほとんどは冬期には通行止めとなり、1本の国道だけが唯一のアクセスルートになるという。

   交通の便が良いとはいえない東成瀬村だが、いまでは国内外の教育関係者からは熱い視線を向けられており、年間400~600人ほどが視察などで訪れるという。成績アップのコツを授けてくれる塾などない山村が「学力日本一」を勝ち取れるような教育現場を、どのように実現しているのか確認することが目的だ。

   中学校のデータを例にみてみると、秋田県は07年と08年に続けて、国語(AB平均)で2位、数学(同)で3位、09年には国語1位、数学で2位と上位にランクイン。小学校と合わせて高い正答率は学力テストが始まって以来続いている。東成瀬村への注目が高まったのは、08年のテストの結果を受けて。当時の寺田典城(すけしろ)県知事が「中学校は東成瀬村が県で一番。小学校もいい」と述べたと地元紙が報じ、これが国外にも転電されて村への注目が国内外で高まったのだという。

ひみつのノート

   秋田県の子どもたちが高い学力を発揮する背景には、学校で授業に工夫が凝らされていることのほか「家庭学習ノート」の存在がある。県内の多くの小学校、中学校で採用されており、学校によって「ひとり勉強ノート」「自由学習ノート」など、さまざまに呼ばれている。子どもたちは毎日、自分で学習内容を決めるよう促されており、計算問題、漢字練習、都道府県の特徴調べなど、それぞれのやり方で取り組むことが学習習慣として定着している。それに使うのが、このノートだ。

   東成瀬村でもノートを使っており、同村で「自主学習ノート(自学ノート)」と呼ばれる。他の市町村以上にその活用を徹底化しているという。主婦の友社では3年前に『最新版 秋田県式家庭学習ノート』を刊行。その存在をクローズアップしたものだが、後の取材で、東成瀬村に注目すると、この自学ノートと、授業の復習に役立つ作りになっている「授業ノート」の重要性が浮かび上がってきたという。そこで、同書の続編として今回の出版となったものだ。

   「民営の塾がない東成瀬村の子どもたちの高い学力を育んでいるのは、自学ノートと授業ノートなのではないか? 『秋田県式家庭学習ノート』の進化形ともいえる、東成瀬式学習ノートのノウハウを知りたい」と、取材班は同村に乗り込んだ。グラビアを使ってビジュアルでも紹介されているノートの中身は、小学生、中学生のものとは思えぬほどわかりやすい記録になっている。どういうノートかご興味があれば本書でご確認を。

   ノートだけではない。子どもたちに読書の時間や新聞と接する時間を豊富に設け、子どもたちは同じテーマを扱う記事を全国紙と地元紙で読み比べなどもする。また、授業で全員が発言機会を持てるようにと、内容がわからないときには「こまった」と意思表示できるように、など挙手の際のハンドサインをいくつも考案、塾なしを補ってあまりあるような創意工夫がいたるところにみられる。

「つぶやく」の意味は「タニシを焼く」

   いまでは子どもの高い学力で知られるようになった秋田県だが、平成の学力テスト以前、1956年(昭和31年)に初めて実施された一斉学力調査では成績はまったく振るわなかった。本書によれば、秋田県はその後、学力向上に懸命に取り組み、平成の学力テストでその努力が実を結んだものという。

   秋田銀行系列のシンクタンク、秋田経済研究所の機関誌「あきた経済」(2017年5月号)のコラムで、あきた文学資料館名誉館長、北条常久さんは「昭和31年当時、学力最下位であったものが、60年後の今日、最上位になるものだろうか」と、そのナゾ解きを行っている。

   昭和31年の問題を確認した北条さんの結論は「都会と地方の学力差は明確になったが、それはとりも直さず文化、生活の格差でもあった」というもの。たとえば国語の問題で「つぶやく」の意味を問う問題に対し「タニシを焼く」と回答した秋田県の生徒がいた。また「文法の問題では『くつづれができた』の『づ』という仮名の正否を問う問題があったが、地方ではまだ靴を履かない子どもが多かった時代ではなかったか」と疑問を呈す。「小学生の算数では、時計秤の目盛を読む問題があったが、当時の秋田は棒秤で時計秤を見たことがない子どもも多かったに違いない」とも。

   秋田県の子どもたちの学力の向上は、学習法の創意工夫による成果が、都会と地方の文化、生活の格差解消により加速したからに違いない。

「『学力日本一!』秋田県東成瀬村のすごい学習法」
主婦の友社編
主婦の友社
税別1300円