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ビジネスのキーワード「ESG」「SDGs」 気になる新トレンドをやさしく理解できる(気になるビジネス本)

   ビジネス活動に社会貢献や環境への配慮を組み込む要請が高まっている。海洋プラスチックごみが盛んに取り沙汰されるようになったことも、その動きが少なからず影響している。

   社会貢献、環境配慮を重視する機運は、国際的にはビジネス界ばかりではなく社会全体のなかで高まっていたものだが、企業に対する評価でも大きなウエートを占めるようになり、日本でもこの数年で急速に広がりをもつようになった。こうした背景を理解するうえで欠かせないキーワードが「ESG」と「SDGs」だ。

「1冊で分かる! ESG/SDGs入門」(大森充著)中央公論新社
  • 「ESG/SDGs」の機運の高まりで、プラスチックごみ対策の議論が活発化している
    「ESG/SDGs」の機運の高まりで、プラスチックごみ対策の議論が活発化している
  • 「ESG/SDGs」の機運の高まりで、プラスチックごみ対策の議論が活発化している

国連由来の2つの言葉

   「ESG」は、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=統治)の頭文字をとったもの。2006年、当時の国連事務総長、コフィ・アナン氏が投資家らに「地球が長生きするため」として、これら3つのことを意識して投資をするようよびかけたことがきっかけになって生まれた。

   アナン氏の呼びかけに同意した投資家は「責任投資原則(PRI)」に署名。そして「ESG投資家」となると、投資を行うにあたり、CSR(企業の社会的責任)活動について、より具体的にESGを意識して行っている企業を対象とするよう心掛ける。

   一方、環境破壊や労働者の酷使などの人権問題に配慮していない企業には投資しないし、出資があれば資金を引き揚げる。

   「SDGs」は「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳される。2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている。「飢餓をゼロに」「安全な水とトイレを世界中に」など、2016年から30年までに実現を目指した17のゴールと169のターゲットが示されている。

   企業の社会貢献といえば、これまではCSR活動として寄付やボランティア活動を重ね、それなりの評価を得られたものだが、近年では「持続的な社会をつくっていくうえで、ビジネスそのものを通じて社会課題を解決することが求められるようになったきた」。社会の動きに敏感な企業は、この流れをみて、国連のSDGsに注目。そして、それに追随する動きが強まり、自社のCSRにSDGsを参考にする企業が増えるようになった。

   SDGsは具体的で、その取り組みも目に見えてわかりやすい。ESG投資家は、SDGsについて自社の事業のなかで取り組みを強めて解決しようとする姿勢の企業に投資するようになっているという。

フードロスにプラスチックごみ......

   ESGという概念が生まれたのは、アナン氏が投資家に呼びかけを行った2006年。日本でESG投資の潮流が生まれたのは、その10年後の2016年とされる。同年9月、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GRIF)がPRIに署名し、ESG投資家の仲間入り。これをきっかけに、新聞などのメディアにESGという言葉がしばしば登場するようになった。

   GRIFのESG投資家の仲間入りがきっかけになったかのように、この2年ほどのうちに企業の側ではSDGsへの対応が活発だ。日本経済団体連合会は2017年11月、「企業行動憲章実行の手引き」を7年ぶりに改訂し「国連で掲げられたSDGsの理念とも軌を一にするもの」と宣言。「(情報社会の次の社会である)『Society(ソサエテイ)5.0』の実現を通じたSDGsの達成を柱として企業行動憲章を改訂する」と述べ、SDGsの取り組みは次世代で企業が取り組むべき課題と位置付けている。

   企業のESG/SDGs対応は、当初は投資家による要求が主だったが、内閣府が「一人一人のニーズに合わせる形で社会的課題を解決する新たな社会」と定義する「Society 5.0」に向かっては「あらゆるステークホルダーから対応が求められる」。消費者はもちろん、従業員、供給先や調達先、地域社会にも配慮が必要だ。

   最近では企業が新しい取り組みや事業を発表すると必ず「持続可能な社会の実現に貢献」の言葉が盛り込まれる。それは、SDGsの達成をめざして、全方位に目配りしていることをアピールしたもの。新事業ではないが、問題視されたフードロスに対する取り組みについて相次いで対策が発表されたり、プラスチックごみの議論が盛んになったりしているのは、ESGやSDGsの機運がさらに浸透してきたことによるといってもいいようだ。

   著者の大森充さんは、三井住友フィナンシャルグループでシンクタンク事業やコンサルティング事業を行っている株式会社日本総合研究所のシニアシニアマネジャー。ESG・SDGsなどの社会性のある活動を事業活動に落とし込む新規事業開発などに従事している。ESG、SDGsを理解するのに、最適な一冊。

「1冊で分かる! ESG/SDGs入門」
大森充著
中央公論新社
税別2200円