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天才創業者の後継に注目! 「ジュリー&タッキー」の二頭体制はうまくいくのか?(大関暁夫)

   ジャニーズ事務所社長であるジャニー喜多川氏が87歳で亡くなられました。

   ジャニー氏がジャニーズ事務所を立ち上げたのは、初代ジャニーズがデビューした1962年。ジャニー氏30歳のことです。以来、アイドルビジネスの生みの親であり、60年弱にわたってプロデューサーとしてアイドル発掘、育成に第一線で携わってきた、まさしくアイドル界のゴッドファーザーです。

   それまでアイドルといえば女性歌手が当たり前という常識を打ち破って、男性アイドルグループという、まったく新しい概念を作り出し、世の中に長く受け入れられる世界を築いた功績は計り知れません。

  • ジャニー喜多川氏は男性アイドルの発掘、育成の天才だった(画像はイメージ)
    ジャニー喜多川氏は男性アイドルの発掘、育成の天才だった(画像はイメージ)
  • ジャニー喜多川氏は男性アイドルの発掘、育成の天才だった(画像はイメージ)

最大の関心はジャニーズ事務所の今後

   ジャニー氏亡き後の最大の関心は、一つのビッグビジネスを生み出した天才創業者の後継体制は果たしてしっかり機能することができるのか。そして、ジャニーズ事務所はこれまでと変わらぬ発展を続けていくことができるのだろうか、ということにあります。

   報道によると、現時点でジャニー氏の後継社長には、姉のメリー喜多川氏の娘であるジュリー喜多川氏が就任し、2018年末にタレント業を引退して関連会社のジャニーズアイランド社長としてタレントの育成、プロデュース役に回った滝沢秀明氏との「二頭体制」で事務所をけん引していくといいます。

   天才創業者の後継体制の構築というのは、一般企業においても大変難しいものです。

   今回のケースでも、第一には一人の天才が長年にわたって作り上げてきたものを、後継が引き継ぐことの難しさ。もう一つは、長期にわたる創業者のカリスマ指導下でアイドルビジネスが知らず知らず成熟期を迎え、個別グループの活動期間が長期化。グループの解散、活動休止、脱退騒動、不祥事の発生などが相次いだことで、ジャニーズ事務所のビジネスモデルそのものの見直しが求められてくるであろう点です。

   後継体制については、後継社長に座ると目される血縁者であるジュリー氏と、アイドルを自ら経験し総勢400人を超えるといわれるアイドルたちのプロデュース面でジャニー氏の後継を自ら買って出たとされる滝沢氏の分業関係が、果たしてうまく機能するのか否かにかかっているといえそうです。

   過去のジャニーズ事務所の成功は、ジャニー氏の天才的なアイドル・プロデュース活動を、姉のメリー氏が会社運営を実務面で支えてきたことにあるといわれています。その関係を、ジュリー氏と滝沢氏が上手に引き継ぎながら、新しい経営スタイルを確立できるか、そこが大きなポイントであると言えるでしょう。

ジュリー氏が「余計な口出し」すると......

   問題は、ジュリー氏がマネージャー経験も豊富であり、その点で母のメリー氏とは事務所における立ち位置が異なっているということかもしれません。

   ジャニーズ事務所におけるタレントの育成・プロデュースは、製造業における開発・製造部門にあたります。まさしく製造業の心臓部です。言ってみれば、創業者で次々新たなヒット製品を生みだす天才技術者であるジャニー氏を、姉のメリー氏が余計な口出しすることなくマネジメント面からフォローしたことが、唯一無二のアイドル生産企業「ジャニーズ事務所」を作り上げたわけなのです。

   SMAPの解散問題では、現場マネージャーとの対立でクローズアップされたジュリー氏の存在は、最大の懸念材料かもしれません。

   技術系とマネジメント系の分業体制は、黎明期のソニーがいい手本でもあります。

   創業者の井深大氏と盛田昭夫氏は共に技術者でありながら、井深氏が技術に専念することで次々画期的な製品開発ができたのは、盛田氏が組織マネジメント・営業に専念したことで分業体制が確立できたからといわれています。

   井深氏が晩年、文化勲章を受賞した際に「嫌なこと、大変なことはみんな盛田さんが引き受けてくれた」と話して、自らの功績の陰にある技術者でありながら、自分を技術畑に専念させてくれた盛田氏を称えたというのは有名な話です。

アイドルの「賞味期限」はジャニー氏も未踏の領域

   マネージャー経験があり、かつ滝沢氏よりも年長者であるジュリー氏が、余計な口出しせずに、ジャニー氏が認めた後継滝沢氏を育成・プロデュースに専念させることができるか否かが、今後のジャニーズ事務所の発展如何には大きく関わってくるように思います。

   もう一つの問題、アイドルビジネス成熟期からの新たな舵取りは、さらなる難題であるかもしれません。「稼ぎ頭」たちが軒並み結成15年を超える現状は、製造業で言うところの製品ライフサイクルを見誤った結果であるとも言えます。

   相次ぐ解散や脱退、活動休止、不祥事の発生は、商品である各グループが「金の成る木」から「負け犬」へ移行したということの証であり、天才がその希に見る才で繋ぎ止めてきた各商品ライフサイクルの終焉に向かう進行は、もはや止められない状況になっていくことでしょう。

   すなわち、適正な商品としてのアイドルグループのライフサイクル再定義と、それに従った適切な旧グループの幕引きと新グループの市場投入という流れを、いかに作り上げていくのか。その点はジャニー氏も未踏の領域であり、後継体制づくりなど問題にならないほど、時間と労力を要する大きな課題となるでしょう。

   これがうまくいかなければ、ジャニーズ事務所は天才の逝去とともに徐々に消え去る運命にあるかもしれません。後継社長となるジュリー喜多川氏には、天才創業者の跡を継ぐということは、業界を問わず企業経営にとって「最大の難問」であるということを肝に銘じた経営姿勢が求められることだけは確かです。(大関暁夫)