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頭を下げて585件!プロが明かす謝罪訪問の「極意」 高級腕時計着けてはもってのほか!(気になるビジネス本)

   どんな仕事でもトラブルや失敗はつきものだ。ちいさなミスとあなどって対応を間違えると、会社の大きな損失につながりかねない。顧客や取引先を相手に引き起こしたものなら、すぐにとりかからなければならないのが謝罪だ。

   失敗を回復するための謝罪で失敗することは許されず、近年は企業の「危機管理」のなかで重要項目に位置付けられている。謝罪の失敗は火に油のごとしで、炎上を免れず立ち直りのきっかけを失ってしまう。本書は、企業やビジネスパーソンにとって、そうはならないよう、再現性にこだわった成功方式を詰め込んでおり、転ばぬ先の杖となる一冊。

「謝罪の極意 頭を下げて売上を上げるビジネスメソッド」(越川慎司著)小学館
  • 「謝罪」をきちんと行えば信用を得られビジネスの機会も広がる
    「謝罪」をきちんと行えば信用を得られビジネスの機会も広がる
  • 「謝罪」をきちんと行えば信用を得られビジネスの機会も広がる

重ねた謝罪で得たコミュケーション術

   謝罪訪問で持参する菓子折りには、羊羹が選ばれることが多いという。よく知られた和菓子店のロゴのラッピングが厳かな雰囲気を演出し、なによりズッシリとした重量感が「重く受け止めています」という意味を表しているのだそうだ。

   ところが、585件の謝罪訪問を重ね、その経験から謝罪コンサルタントとして活動しているという著者は、羊羹を持参したことがないという。ズッシリ重量感に託した思いが相手に伝わるかどうかが不明だし、ナイフや皿を用意して切り分けるのが面倒だから、もらう側に思いをいたすからだ。「渡す相手のことを考えるのであれば、個別包装になっているもので、思いが伝わり、もらってうれしいものがいい」。著者は、賞味期限がある程度あり常温で保存可能な個別包装のカステラを選んでいたという。

   謝罪訪問は緊張の現場。当事者の振る舞いに注目が集まる。発言や態度によっては悪印象を与えるかもしれない。万全の準備で臨む必要がある。菓子折りもただ用意すればいいというものではないのだ。

   著者の越川慎司さんは、ITベンチャーの起業などを経て2005年に米マイクロソフトに入社。のちに日本マイクロソフトで最高品質責任者(CQO)を務め、このときに計585回の謝罪訪問を経験し「相手に伝わるコミュケーション術と、関係者を巻き込んで複雑な課題を解決する方法を見つけた」という。それらを整理して謝罪方法の「バイブル」に仕上がったのが、本書「謝罪の極意 頭を下げて売上を上げるビジネスメソッド」(小学館)だ。

NGワード忘れるな

   謝罪訪問は普通であれば避けたいところで、複数回経験したことがある人もいるかもしれないが600回近い場数を踏んだ人は多くはないはず。著者は、独自の貴重な経験を基に「当日の立ち居振る舞いと注意点」として、16のチェックポイントを示している。「遅刻しない」などは、そんなことは言われなくても―という類だが、注意していても緊張のあまりやりかねないのがNGワード発言だ。

   その場では、頭をめぐるのは謝罪ファースト。相手の企業が直近で不祥事を起こしたことなど忘れ、最初に出たことばは「このたびは私どもの不祥事で......」。「不祥事」で相手方の心ざわつかせ不快な思いをさせることになる。

   また、顧客への寄り添いを強調しようと中途半端に顧客のサービスや業界に関する用語に触れることは避けるべきという。航空会社での謝罪で「ファーストクラスレベルの品質を...」とか、通信会社への謝罪で「電話回線のような安定したインフラを築き...」など、気を利かせたつもりで述べたフレーズも相手が不快感でそっぽを向きかねない。食品メーカーへの謝罪で「食の安全と同じで......」と発すれば、まるく収まるものにも余計な角が立つかもしれない。

「ダ行」の言葉を避ける

   これらNGワードは顧客企業別となろうが、著者は経験から、謝罪訪問の現場を通じて、できるだけ、会話のなかで「ダ行」(「で」を除く)を使わないようアドバイスする。「私の経験ですが『だ・ぢ(じ)・づ・ど』の音は相手に耳障りな印象を与え、不快にさせてしまうことがあります」。「○○だと思います」は「○○かと思います」に言い換えた方がいいという。また「どうも申し訳ございません」は「大変申し訳ありませんでした」の方がベターだそうだ。

   言葉遣いなどのほか、服装や身に着けるものにも注意が必要だ。このうち忘れがちなのが「腕時計は必ずはずす」ということ。「特に、高級時計を着けているなどはもってのほか」であり、面会中に腕時計に視線を向けたりすれば、まるで「早く終わってほしい」と思っているのではないかと誤解される可能性がある。

   謝罪訪問の際の装いなどについて著者はかつて、謝罪に至るということは緊急事態なので、善処に必死だったことをアピールするため頭髪などは整っていない方がいいのではないかと考えたこともあったそう。だが、その道のプロとなって、実際はその逆であることが分かったという。「顧客は、信用できる会社(もしくは人)なのかを確認したいと思っている場合が多く、しっかり準備して整えられた身なりで来る人を好む」のだ。訪問に赴くメンバー同士で互いにチェックすることを忘れてはならない。

   本書で開陳している「謝罪の極意」を生かして著者は2年前、コンサルタント会社を設立。謝罪コンサルタント、働き方コンサルタントとして活動している。謝罪のプロであることか「アヤマリスト」の異名も。顧客企業の半数は、マイクロソフト時代に謝罪行脚した会社という。このことが示すように、著者は本書で、謝罪の仕方次第で信用を勝ち取ることができ、大きなビジネスチャンスになることを合わせて強調している。

「謝罪の極意 頭を下げて売上を上げるビジネスメソッド」
越川慎司著
小学館
税別1300円