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【SDGsニュース】「吉本興業×SDGs」の転落 テレビ頼みで「エセ優等生」に祭り上げた政府の罪

   「SDGs」(持続可能な開発目標)は、国際連合に加盟する150を超える国・地域が参加する国際的な取り組みです。「持続可能な開発」のために、17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)を定めました。もちろん日本も、安倍晋三首相の肝いりで推進しています。

   「SDGs推進本部」を立ち上げ、安倍首相自身が本部長に着任。副本部長を内閣官房長官、外務大臣が務め、他のすべての国務大臣が本部員となっています。

   SDGsをオールジャパンの取り組みに拡大していくために、SDGs達成に資する優れた取り組みを行っている企業・団体等を、SDGs推進本部が選定して表彰する「ジャパンSDGsアワード」を設けたのです。

   吉本興業は2017年12月の第1回ジャパンSDGsアワードで、「特別賞 SDGsパートナーシップ賞」の表彰を受けました。

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吉本興業のSDGs活動の実態

   吉本興業のSDGs(持続可能な開発目標)活動概要として、「吉本グループ全体でのSDGs意識涵養(かんよう)の共有。吉本興業が実施するイベント、メディア、コンテンツと連動し、多数の所属タレントを起用したSDGsの広範多様な発信啓発。地域と連携した地元振興PRや、被災地への訪問活動など、『誰も取り残さない』ための実践的取り組みを推進する」ことです。

   具体的な活動の内容は、

(1)SDGsの啓発アニメーションやPRCMの製作・上映
(2)SDGs啓発スタンプラリーの実施
(3)SDGsをテーマにしたお笑いコンテスト「SDGs-1グランプリ」
(4)SDGs吉本新喜劇などを幅広く実施するとともに、多様なステークホルダーとの連携活動を展開した

―― となっています(吉本興業の「第1回 ジャパンSDGsアワード」のニュースリリースから)。活動にあたり、社員や所属タレントを対象にSDGs勉強会を実施したともありました。

   表彰から1年半を過ぎた現在、Web上で啓発アニメーションは見当たりません。PRCMはYouTubeに複数ありますが、再生回数は1万以下で少ないものは2000回程度です。SDGs啓発スタンプラリーは沖縄県でのイベントで行われただけ、「SDGs-1グランプリ」は一度しか開催されていません。

   SDGsの日本語訳は「持続可能な開発目標」です。SDGsの事業を立ち上げたのなら、2030年までの継続事業であるべきです。

   国際連合広報センターのホームページにある日本の「持続可能な開発に向けた行動」には、民間との連携事例として「笑いでSDGsを推進」のタイトルで、吉本興業と同センターの取り組みを紹介しています。国としても何らかのアクションを起こすことが求められていたとみられ、こうしたことから、当時のSDGsアワードの評価基準もかなり緩く、ほとんど期待値だったことがうかがえます。

「吉本興業×政府」の深謀遠慮?

外務省の「ジャパンSDGsアワード」のページ
外務省の「ジャパンSDGsアワード」のページ

   現在、先進国の中で日本のSDGs達成度は15番目であり、大きく出遅れています。その原因の一つとして、広く国民に伝わっていないことがあげられます。

   一方、内閣府のアクションプランにおいて、SDGsは大きなウェイトを占めています。経済大国・日本が持続可能な開発目標に対して遅れをとっていることは、国際社会から後ろ指を刺されることにもなりかねません。

   なんとか認知度を上げようとして白羽の矢が立ったのが、吉本興業の「お笑い」の力です。

   ところが、闇営業問題から派生したさまざまな問題が表面化したことで、疑問が生まれてきました。

   SDGsの「17の目標」は、地球温暖化や環境破壊、ジェンダー、労働・働き方、子どもの教育などへの事業を通じての対策、社会貢献活動があります。現在、ビジネスの世界においてSDGsに取り組むことが企業のイメージアップには欠かせないものであり、「ESG投資」(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のこと)などを通して、株価にも影響を与えています。

   政府の「おかげ」で、吉本興業には「SDGsに取り組む企業=いい会社」、CSR(企業の社会的責任)にしっかり取り組んでいるというイメージがつきました。

   その一方で、岡本昭彦社長の会見後、いろいろな問題が噴出しています。ガバナンスはどうなっているのだろうとWEB検索したところ、2010年に上場廃止となって以降、CSRレポートや財務内容などは公表されていませんでした。

   しかし、それはガバナンスやコンプライアンスをないがしろにする、不透明であり、不健全な会社経営の始まりだったのかもしれません。上場廃止により、反社会的勢力や投機家に株式を持たせないことで経営の安定化を図り、厳しい情報開示が不要になったことで、経営陣の思いどおりの会社運営が進められると考えたようにも思えます。

   さらに、上場廃止時の株主比率を見ると、テレビ各局、広告代理店の合計が50%を超えています。この時から吉本興業はテレビ局を中心とするメディアと密接な関係ができ上がり、これまでの、記者会見で泣きながら宮迫博之さんらが語ったテレビ局との「ズブズブの関係」は、おそらくは現在も続いているのでしょう。

ジャパンSDGsアワードの「価値」は下がったか

   政府が吉本興業に目を付けたのか、吉本興業が売り込んだのかはわかりませんが、SDGsの取り組みを多くの人に周知することが急務であったと考えれば、手っ取り早くSDGsの認知度を上げるため、吉本興業を通じてメディアに頼るしかなかったのだろうとの推察はできます。

   また、株主であるテレビ局や広告代理店が吉本興業に広報事業として仕事を回したのではないか、と勘繰りたくもなります。

   しかも、SDGsアワードの表彰も、じつは「既定路線」で国と吉本興業がいかにもSDGsに取り組んでいるかを見せるための、単発的パフォーマンスに巨額な公的資金が流れたとも考えられ、SDGsアワードの価値も下がったと思わざるを得ません。

SDGsの「17のゴール」
SDGsの「17のゴール」

   今回の吉本興業だけではなく、CSRの概念が気薄な企業がSDGsを掲げるだけでは、逆に企業イメージの悪化につながる可能性は大いにあります。吉本興業は、非上場であるがゆえにCSRの基本であるガバナンスを軽視していたことが、SDGsの取り組みをただのパフォーマンスに終わらせてしまった最大の要因と考えます。加えて、SDGsが掲げる達成目標に対しても、何の定量化もなされていないこともあります。

   今回の吉本興業の闇営業、反社会勢力との関わりについて、J-CAST会社ウォッチ編集部がSDGsアワードの所轄である外務省に問い合わせたところ、「SDGsアワードは、2017年当時の受賞団体の活動に対する評価を協議して決めたもので、それ以上でも、それ以下のものでもありません」と、担当者が答えたそうです。

   つまり、評価は未来の事情が影響するものでもなく、今後を保証するものでもないということです。それは、今後はその時の状況で評価・判断していくことを意味しています。「SDGs(持続可能な開発目標)」の活動なのに、です。

   吉本興業は「第1回SDGsアワード特別賞」を国に返上する気はないのでしょうか。政府は「返せ!」とは言わないのでしょうか。これも安倍首相への忖度なのでしょうか。これではSDGsにマジメに取り組んでいる企業・団体に、あまりに失礼ではないかと思うのですが、いかがでしょう。(清水一守)


プロフィール
清水一守(しみず・かずもり)
SDGs研究推進有限責任事業組合 代表理事
愛知商工連盟協同組合 国際事業部参与、英国CMIサスティナビリティ(CSR)プラクティショナー資格/相続診断士
日本大学文理学部を卒業。大学では体育を専攻。卒業後、家業である食品販売店を継ぐも新聞販売店に経営転換。地域のまちづくりとして中山道赤坂宿のブランド化を推進した。
その後CSR(企業の社会的責任)の重要性を学び、2018年7月から名城大学で「東海SDGsプラットフォーム」として月2回の勉強会を開催中。SDGsを広めるための認定資格講習を7月より開始 。現在、一般社団法人SDGs大学(商標登録出願中)を準備中。岐阜県出身、59歳。