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「KOL」の言葉は、なぜ中国人に届くのか?

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   いよいよ東京五輪まで残すところ1年を切った。インバウンド対策を再検討するためにも、SNSを使った中国でのマーケティングやプロモーションで無視できない存在と言われてきた「KOL」について、もう一度見直しておこう。

   「Key Opinion Leader」の略であるKOL。日本のインフルエンサーとどう違うのか。どう活用すればよいか。中国事情に詳しい「クロスシー」(東京・上野)執行役員の山本達郎さんに聞いた。

  • 大塚愛さんが2018年に開いた中国でのコンサートを盛り上げるため、KOLを起用した中国版ツイッター「ウェイボー」の画面
    大塚愛さんが2018年に開いた中国でのコンサートを盛り上げるため、KOLを起用した中国版ツイッター「ウェイボー」の画面
  • 大塚愛さんが2018年に開いた中国でのコンサートを盛り上げるため、KOLを起用した中国版ツイッター「ウェイボー」の画面

中国ではとにかく「口コミ」が効果的!

   KOLを中国語では「網紅(ワンホン)」と呼びます。インターネット上で、場の中心にいる、目立って、頼りになる人といったイメージですね。商品やサービスを購入する際に何が決め手になるかを調べた広告会社ニールセンの調査では、中国では「信頼できる友人」や「自分が支持するKOL」の紹介や推薦が突出しています。

   たとえば、

「75%の人は広告に懐疑的だが、92%の人は口コミのおすすめを信じる」
「口コミは有料広告の2倍の売り上げをもたらす」

というデータもあります。

   マスメディアでの一般広告より、口コミプロモーションが効果的というのは、「仲間・友人に寄せる信頼感がとても強い」という中国人の国民性の表れでしょう。

   では、KOLは友人に近い存在なのでしょうか? 日本のインフルエンサーはどちらかといえば「あこがれの人」で、そんなあこがれの人が買っているものを自分も手に入れたいという購買行動に結びつく傾向にあります。

   KOLも専門分野への知識が豊かで、「何でも知っている人」というリスペクトをファンから受けています。ただ、インフルエンサーよりファンとの距離がずっと近く、この身近さが何といっても最大の特色です。

   SNSのフォロワーがメッセージやコメントを送ると、KOLが返信をすぐに返すこともごく普通にあります。何十万人というフォロワーを持っているKOLでも、とにかくマメにファンと交流することも珍しくありません。

   あるフォロワーが「きょう、私の誕生日なんです」とつぶやくと、すかさず「おめでとう」とメッセージが届いたり、ファンクラブのオフ会があったりする場合も少なくない。北海道に詳しいKOLに、「私、来週小樽に行くのですが、最近の一番のおすすめスポットはどこですか?」とフォロワーが尋ねると、詳しく教えてくれることもあるのです。

家族や友だちに伝えるように......

   KOLとファンとのやり取りを分析していて私が改めて思うのは、中国人ネットユーザーの「おしゃべり好き」という特性です。ある商品やサービスについて、あるいは旅行先について、ネットを通じたおしゃべり、つまりチャットを通じて、あれこれ尋ねたり、聞いた内容を自分なりに検討したりして、購入しようか行ってみようかを決めていく。これが中国人の一般的な消費行動パターンと言えます。

   だから、KOLを「お金を出すことを決める際に欠かせないおしゃべり相手」とイメージすることも可能です。そして、そんな「おしゃべり相手」とのやりとりがSNSを通じて爆発的に増えているのが、いまの中国です。

   日本政府観光局が「訪日客の情報収集源」について行った調査でも、中国人のトップは「SNS」でした。

淡路島の「奇跡の星の植物園」を訪れて魅力を紹介する地元在住の「特派員」の女性。兵庫県のWeChat公式アカウントからコンテンツを配信
淡路島の「奇跡の星の植物園」を訪れて魅力を紹介する地元在住の「特派員」の女性。兵庫県のWeChat公式アカウントからコンテンツを配信

   そのSNSの世界で、中国向けに日本の流行情報を発信する「速報醤」というMCN(マルチチャンネルネットワーク)があります。在日中国人が中心のKOL100人以上で構成された、いわば「KOLネットワーク」。合計フォロワー数は3500万人超、月間閲覧数は15億以上で、海外情報に特化したMCNとしては中国でも最大規模です。その「速報醤」とクロスシーは2019年6月、日本での総販売代理契約を締結しました。

   クロスシーはもともと、北海道から沖縄まで日本各地に長年住む1000人以上の中国人たちを「特派員」としてネットワークし、自分たちが住む地域の魅力、その土地の名産品などを中国向けに発信してもらっていました。最近、中国ではほぼ出回った感のある東京、大阪など主な大都市の情報に代わって、日本の地方のディープな情報が強く求められるようになっています。

   「速報醤」との連携事業では、特派員たちに、たとえば「知る人ぞ知る、夕日がきれいに見える場所」「長年住んでいる地元の人しか知らない、郷土料理のおいしい店」などのおすすめ情報を、動画や記事コンテンツにまずまとめてもらいます。

   それを「速報醤」所属のKOLアカウントたちに広く拡散してもらって、中国内での認知度を高めるのが狙いです。

   全国の「特派員」たちにお願いしているのは、「自分の家族や中国の友だちに伝えるようにコンテンツを作ってほしい」という点です。KOLの大きな特性である「身近さ」を、いわばKOL予備軍の特派員にもしっかり意識してもらうことで、マス広告にはできない、SNSならではのプロモーションを追求していきたいと考えています。

山本 達郎(やまもと・たつお)
1980年生まれ、慶応大卒。2006年に北京でネットマーケティング会社を創業。2015年、中国向けメディアやインバウンド・越境ECプロモーション事業を行う株式会社クロスシーによる買収に伴い、同社執行役員に就任した。著書に「中国最大のECサイト タオバオの正体」「中国版ツイッター ウェイボーを攻略せよ」などがある。