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「働き方」「採用」が変化 企業の人事が直面するパラダイム・シフト 次元を変えたレベルで「あり方」見直せ

   少子高齢化による人口の構造変化やグローバル化、ITやAIを利用した自動化、省力化などが社会の中で大きなうねりとなっており、企業は生き残りのために、対応に余念がない。

   これらのことは、人材供給や人員配置にも大きな影響があるため、企業の人事を取り巻く環境に「パラダイム・シフト」と呼ぶような、かつて経験したことがない大きな変化が起こっているそうだ。

「強くて優しい会社 ―人と組織の潜在能力を活かす、現場の人事デザイン」(末永春秀著)クロスメディア・パブリッシング

4つの大きな変化

   本書「強くて優しい会社 ―人と組織の潜在能力を活かす、現場の人事デザイン」は、人事コンサルティングを専門とする著者、末永春秀氏が人事に絞って経営を論じた。人材を大切にし、困難にも力を合わせて乗り越える一体感をつくりあげることが人事の役割。現代のように、大きな変化に見舞われている環境下でこそ、「人事は経営の最優先のテーマ」という。

   著者が指摘する大きな変化とは、(1)働く人の価値観の変化(2)働き方の変化(3)採用の変化(4)定着の変化――。これらの背景にあるのは、少子高齢化がもたらした人口構造の変化であり、テクノロジーの革新や、機器の進化による情報拡散の加速化、市場や労働力のグローバル化、ボーダレス化だ。

   著者の人事コンサルタントの経験から、働く人の価値観の変化として象徴的と考えるのが「管理者になりたくない人の増加」という。著者が、そういう意思を持つ人らに直接聞き取りをしたところ、管理者として何をすればいいかが明確でないまま結果を求められることなどが理由。つまり、環境がないままでは積極的にはなれないというのが実態という。「管理者への登用への環境づくりをすることは、全社施策に一つという前向きな捉え方が必要」と著者はいう。決して「管理者になりたくないというような発言が管理者にふさわしくない」などと、早計に切り捨ててはいけない。

経営と人事の一体化が重要

   「働き方の変化」は、働く時間、勤務の場所、休日などで、「一律仕事形態」から「フレキシブル仕事形態」に確実に変化している。仕事と一体の組み合わせである通勤時間、会議、所属組織などが見直され、従業員はその人固有の成果を出せばいい。

   年次有給休暇の取得率は2016年で50%近いが、政府の計画では2020年には70%が目標。「働くことと休暇を取るバランスが明らかに変化していて、休暇増加がもっと加速し、それを基に仕事を組み立てることになる」のが、新しい姿だ。さらに、男女ともに育児休暇取得の増加が見込まれ、これらのことは、これまで以上に「両性型仕事社会への移行」することを示しており、企業の人事戦略にとっては「大きなパラダイム・シフト」だ。

   企業は「採用の変化」への対応も怠ってはいけない。人口の減少が進み、求人が思うようにいかなくなることが確実視されるからだ。すでに「1名の募集に700人から1000人の応募がある企業もあれば、何回求人を出しても1人の応募もない企業もある」状態。20年代になると「『仕事はあるが人がいない』いうことが普通におこっているだろう」と著者はみている。どうすればいいのか。まず、募集広告を打って漫然と待っているだけでは「間違いなく採用できない」。昨今の人手不足のなか、採用で成功している企業の努力と工夫は並大抵ではないのだ。

   現代はインターネットで同種の複数のモノを簡単に比べられる時代。「採用担当者は、人事センスというより応募者に対して自社で働く動機付けができるかどうかの経営センスが必要」なのだ。採用の変化に対応するためには、人事と経営のコンビネーション化、関係の密接化など、両部門の関係の再構築を検討すべきだ、という。

   「定着の変化」は、経営幹部、管理者らの指導や接し方しだいで「改善」の余地が大いにあるというのが著者の実感。「採用の変化」への対応で、経営との連動が求められているように、4つの変化がもたらす、人事をめぐるパラダイム・シフトは、人事セクションだけでは、適切なポイントが見いだせないほど大規模なものという。「そうであるからこそ、人事のあり方の次元を変えたレベルで見直しが必要となる」と、著者は進言している。

「強くて優しい会社 ―人と組織の潜在能力を活かす、現場の人事デザイン」
末永春秀著
クロスメディア・パブリッシング
税別1480円