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味の素の「働き方改革」はなぜできたのか? 業務の進行を妨げていた「時間泥棒」の正体はこれだ!

   食品メーカー大手の味の素は、「働き方改革」という言葉が広まる前から、残業削減などに取り組み成果をあげている。

   本書「味の素『残業ゼロ』改革」は、現場から「絶対無理」と反対された営業、生産部門でも残業削減を果たした同社の業務改革について、余すところなく解説した一冊。

「味の素『残業ゼロ』改革」(石塚由紀夫著)日本経済新聞出版社
  • 「ノー残業エブリデイ」は可能(写真はイメージ)
    「ノー残業エブリデイ」は可能(写真はイメージ)
  • 「ノー残業エブリデイ」は可能(写真はイメージ)

政府の「働き方改革」以前から

   味の素は、年間総実労働時間を2000時間前後から180時間減らしてグローバル基準並みの1800時間に4年で近づけた。先進国の中で日本の働く時間の長さは「トップクラス」。フルタイム正社員の場合、年間総実労働時間の2000時間オーバーは30年間変わりがない。そうした状況の中で偉業といえる。

   味の素では2008年度からの「ワーク・ライフ・バランス活動」に始まり、2015年度から本格的に残業時間の縮減をスタートさせたが、もちろん初めからスムーズに進んだわけではない。

   ところが改革を担当する営業企画部の綿密な調査により、「時間泥棒」の存在が見えてくる。ワーストの1、2位は「移動」と「会議」。移動は全労働時間の25%を占めており、会議の方は参加の時間と事前の資料作りを含め20%。勤務時間のおよそ半分が移動と会議に費やされている実態に、そのことを知らされた営業部門の当事者らが驚いたという。

   営業オフィスから離れたエリアを担当している社員の場合でも、社内会議や営業報告会に出席するため片道1時間以上をかけて帰社。会議後にまた1時間かけ担当地域にとって返す。重要な会議ならそうした時間をかけるのも仕方がないが、見直してみると、それほどまでに重要な会議ばかりではなかった。

    課題が分かり、改革は移動と会議をターゲットにスタート。地方支店では営業車を使った顧客回りを、公共交通機関とレンタカーにシフト。持参していたサンプルや宣材は現地受け取り指定の宅配便を使うようにした。

   経費精算や営業報告書はスマートフォンなどを使ってできるようオンライン化。コワーキングスペース利用や社員寮を活用したサテライトオフィスを設けた。こうした取り組みが成果を挙げ、年間総実労働時間は18年度1890時間となり、およそ3年間で約150時間減らした。

「2020年には1日7時間労働を」

   味の素の西井孝明社長は2015年の就任と同時に働き方改革をスタート。南米ブラジルでの勤務経験などから、残業を前提とした日本の就労スタイルが世界の中では特殊であることに気づいた。「欧米企業では、同じパフォーマンスを上げても長い時間働く社員は能力がないとみなされる。その上司も、マネジメント能力がないとマイナスに評価される。生産性に対する目が厳しい中で雇用が成り立っているので、個人も時間管理がきちんとできている」という。

   高度経済成長期には人口が増えていたので、一定の品質の製品を大量に作ることで企業は売上を確保できた。生産量は労働時間とほぼ比例しており、残業して生産量を増やせば、その分、売上も伸びる。大量生産、大量消費時代は長時間労働が経営に有効だった。そうした時代には人材の多様性は求められていなかったが、現代では、商品や販路などの開発は欠かせない。欧米など国外のメーカーも競争相手となり、そのニーズは増すばかり。西井社長は、グローバル企業と戦うには、日本式では通用しないことを実感して改革の号令をかけた。

   労働時間縮減で、営業部門以上に困難とみられた、24時間稼働の生産部門でも、勤務内容の見直し、ITの活用で時短は可能な見込みが立っているという。西井社長は「2020年には1日7時間労働を目指したい」と述べ、残業を前提とした日本型の働き方から間もなく、定時退社が通常のグローバル基準の働き方に転換する計画を示している。

「味の素『残業ゼロ』改革」
石塚由紀夫著
日本経済新聞出版社
税別1600円