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多発する高齢者ドライバーの交通事故 対策は始まるものの、その効果は?(鷲尾香一)

   2019年は、高齢者ドライバーへの交通事故が大きな社会問題になった。そのため、警察庁は新たな運転試験制度を2022年から、国土交通省は新たな安全車両対策を2021年から導入し、高齢者ドライバーによる交通事故の防止強化を実施する。

   しかし、その効果は未知数だ。

  • 高齢者ドライバーの交通事故がが多発している
    高齢者ドライバーの交通事故がが多発している
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高齢者の運転免許更新に運転技能検査

   2019年4月に東京・池袋で87歳(当時)の高齢者が運転するクルマが暴走し、10人が死傷する事故以来、高齢ドライバーによる交通事故は大きな社会問題となり、毎日のようにメディアで報道されている。

   2018年に75歳以上が過失の最も重い第1当事者となった交通死亡事故は前年比42件増の460件発生している。

   こうした事態を受けて、警察庁は運転免許証の更新時に「運転技能検査」を行う、新たな制度を導入する。この制度は、過去3年間に信号無視や大幅なスピード超過など特定の違反歴や事故歴があり、将来的に事故を起こすリスクがより高い75歳以上か80歳以上を想定。合格するまで更新を認めない方針だ。

   同時に、自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)などの安全装置を搭載した安全運転サポート車(サポカー)に限定した免許の導入も行う。警察庁は2020年の通常国会に道路交通改正案を提出し、2022年をメドに施行する方針。

   一方、国土交通省は2022年11月から、新車に衝突被害軽減ブレーキの搭載を義務付けるなどの車両安全対策を実施する。この安全対策では、国際基準発効を受け、衝突被害軽減ブレーキの国内基準を2020年2月に策定。世界に先駆け、2021年11月以降の国産新モデルから段階的に装備を義務付ける。

   また、ペダルの踏み間違いによる急発進抑制装置などの性能認定制度、後付けのペダル踏み間違い急発進抑制装置の性能認定制度の二つの制度を年度内に創設し、2020年4月から申請の受付を開始する。

   同時に、ペダル後付け急発進等抑制装置の先行個別認定の結果を発表。「障害物検知機能付きペダル踏み間違い急発進等抑制装」として2社、「ペダル踏み間違い急発進抑制装」として4社、「ペダル踏み間違い防止装置」として1社の装置を認定した。

   国交省では、衝突被害軽減ブレーキについて、「衝突被害軽減ブレーキが作動すると過信して事故に至ったケースが増加している」とし、注意を呼び掛けた。同省によると、このケースは、2017年に72件、2018年に101件、2019年1~9月に80件発生しているという。

どんなにクルマの性能がよくなっても......

   衝突被害軽減ブレーキは、車両のカメラやレーダーにより周囲の状況を監視し、衝突のおそれがある場合には衝突警報により運転者にブレーキ操作を促し、それでも運転者がブレーキを操作せず、衝突を回避できないと判断される場合に緊急的にブレーキを作動させる装置だ。

   そもそも、衝突被害軽減ブレーキの性能要件は、以下のようになっている。

(1) 静止している前方車両に対して時速50キロメートルで接近した際に衝突しないまたは衝突時の速度が時速20キロメートル以下となる
(2) 時速20キロメートルで走行する前方車両に対して時速50キロメートルで接近した際に衝突しない
(3) (1)(2)のケースで、衝突被害軽減ブレーキが作動する少なくとも0.8秒までに運転者に衝突回避操作を促すための警報が作動する
(4) 時速5キロメートルで横断してくる歩行者に対して、時速20キロメートルで接近した際に衝突しない
(5) (4)のケースで、衝突被害軽減ブレーキが作動する時までに運転者に衝突回避操作を促すための警報が作動すること

   このため、メーカーが定める作動速度を超える場合や暗闇、逆光などのため、カメラにより対象物を認知できない場合、人や自転車の急な飛び出し、クルマの急な割り込み、雨・雪・霧などの悪天候、運転者がアクセルペダルを強く踏み込んだ場合などには、衝突被害軽減ブレーキが作動しない場合があるとしている。

   もちろん、高齢者に対する運転免許制度の規制強化や、技術的なサポートは必要なことで、これによって高齢者ドライバーの交通事故が減少するに越したことはない。

   しかし、「衝突被害軽減ブレーキが作動すると過信して事故に至ったケース」が示すように、技術的なサポートがあるから大丈夫といった「過信」が事故を増長する可能性もある。

   事故に対して、「衝突被害軽減ブレーキが搭載されているのに、ブレーキがかからなかった」という言い訳が増えることがないように、高齢ドライバーへの「高齢ドライバーであることの危険性に対する」しっかりとした意識付けを行っていくことが何よりも必要だろう。

(鷲尾香一)