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異例づくめ、未来がかかる「2020春闘」 労使双方に必要な「時代にあったルール」への更新作業(城繁幸)

   2020年春闘に向けた動きが活発化しつつあるが、今年の春闘は異例づくめと言っていい様相を呈している。

   まず、日本経済団体連合会が「年功賃金の見直し」について明言したことが大きい。

  • 「やる気のない中高年」を生みだした原因は……
    「やる気のない中高年」を生みだした原因は……
  • 「やる気のない中高年」を生みだした原因は……

「貰えるものはリアルタイムで貰っておきたい」

   従来、経団連は終身雇用・年功序列を柱とする日本型雇用を重視し、その維持を最優先させてきた。

【参考リンク】日本経済新聞「経団連、雇用制度見直し訴え 連合と労使トップ会談」(2020年1月28日付)

   1995年に出された「新時代の『日本的経営』」では、非正規雇用でうまく雇用調整しつつ、長期雇用の正社員は手厚く処遇する方針が明確に示されている。今回の発言からは、その方針を抜本的に見直すという姿勢が明確に読み取れる。

   一方で、連合側の動きも異例だ。自動車大手のトヨタ自動車労働組合が出した提案では、やはり従来の横並びでのベアを見直し、個人の働きぶりに応じて差を認めることが含まれている。

   と、書くと「そんなの当たり前だろう」と思う人もいるかもしれないが、労組側からこうした処遇ギャップを盛り込むのは、聞いたことがない。同じ組合員であっても、昇給ゼロの人が出てくることを認めることになるからだ。

   要するに、労使双方に強い危機感があり、いずれも日本型雇用の見直しは不可避だと考えているということだろう。

   その背景には、二つの要因があると筆者はみている。

◆ 年功賃金ではもはや優秀者は振り向かなくなった

   勤続年数に応じて昇給する年功賃金というのは、世界的にみると非常に特殊で、外国人材をこれで採用するのはとても難しい。「(保証はないけど)20年後にはだいたいこれくらいに昇給していて、退職金もこれくらい出せますよ」と言われて、納得する人材などいないからだ。

   近年では新卒を含め日本人ですら年功賃金には難色を示すようになっている。ウン十年がんばっても早期退職や配置転換で冷や飯を食わされる中高年が珍しくない現在、「貰えるものはリアルタイムで貰っておきたい」と考えるのは合理的だろう。

バブル世代以降は過半数が生涯ヒラ社員

◆ やる気のない中高年

   そして、もう一つ看過できない日本型雇用の問題が「中高年従業員のモチベーション低下問題」である。

   「年功序列」といっても、在籍していれば青天井に昇給昇格していけるというものでもない。低成長が続く中で、各社ともポストを減らしているから、課長 → 部長 → 事業部長と出世できる人材などほんのひと握り。バブル世代以降の世代は、すでに過半数が生涯ヒラ社員というデータもある。

   となると、出世レースに白黒がつく40代以降はどうなるか――。それ以上、上がり目がなくなるから、ほどほどに手を抜いて省エネモード化するしかない。

   特に新しいことはなにもせず、ルーチンワークだけをこなす。新しい企画提案にはとりあえず反対から入る。まず「やらなくていい理由」を探す...... etc

   誰でもリアルで思い当たる人がいるはずだ。この低モチベーション問題は、さまざまな調査にも如実にあらわれている。

【参考リンク】日本経済新聞「『熱意ある社員』6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査」(2017年5月26日付)

   フォローしておくと、これは彼らが悪いのではなく、日本型雇用のルールがそういう人たちを生み出してしまっているのが原因である。だから、年功ではなく職務で評価するようにルールを変えましょうと、経団連は呼びかけているわけだ。

   年功を努力で延ばすことは無理だが、担当できる職務に応じて賃金が払われるのであれば、スキルアップでより高給のポジションに就くチャンスは(20代から60代まで)すべての従業員に公平に与えられることになる。

   要するに、年功という物差しから職務という物差しに変えることで、組織内にチャンスと希望をもう一度再生しようというのが、今回の見直しの狙いである。

   おそらく、すべての労組がトヨタ労組のように「ものわかりが良い」対応はしないだろう。こうした見直しの動きは、ごく一部にとどまるのかもしれない。

   ただ、一つだけ確実に言えるのは、時代に合ったルールへのアップデートが行えない労使には、終身雇用どころか10年先の未来すら存在しないということだ。(城繁幸)