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今春復活!「半沢直樹II」に期待する「脱日本的金融」へのヒント どう築く? 新たな銀行との関係(大関暁夫)

   2020年春、かつて40%以上という驚異的な視聴率を叩き出した人気ドラマの続編、「半沢直樹II」が放映される予定と聞いています。

   新年にその予告編的な番組が放映されていたので少しのぞいてみたのですが、どうやら今回のドラマの舞台は主人公の半沢直樹が前シリーズで勤務していたメガバンクの系列証券会社になる模様。前シリーズの最後に、系列証券会社への出向を命じられた半沢ですが、7年の時を経て、同社営業企画部長としての活躍にスポットが当てられるようです。

  • 銀行の「日本的金融」の犠牲になった中小企業は少なくない(写真はイメージ)
    銀行の「日本的金融」の犠牲になった中小企業は少なくない(写真はイメージ)
  • 銀行の「日本的金融」の犠牲になった中小企業は少なくない(写真はイメージ)

池井戸作品の真骨頂は「裏銀行モノ」にあり!

   作者の池井戸潤氏は、バブル期入行の旧三菱銀行の元行員です。私は彼より少しだけ年長にあたりますが、同じ時代を同じように銀行員として東京都内の店舗で過ごし、バブル期からバブル崩壊後に至る銀行経営の洗礼を受けたので、彼の描く「知られざる銀行内部事情」や「銀行員だから知り得る企業内部の問題や苦悩」には思い当たるフシも多く、毎度興味深く原作を読んだり、ドラマや映画を見たりしています。

   そんな元銀行員の私からみた彼の作品の読み方を、少しだけ解説しておきます。

   彼の作品は大きく分類して、銀行そのものを舞台としてストーリーが展開する「銀行モノ」のシリーズと、銀行には直接関係なく、ふだんは部外者からは見えない企業内部のドロドロした問題を取り上げた「企業モノ」が存在します。「銀行モノ」は「半沢直樹」シリーズと、女子行員を主役に据えた「花咲舞」シリーズがそれにあたりますが、銀行員である主人公の活躍を通じて銀行組織内部の問題点を暴く、いわば勧善懲悪もののドラマです。

   一方、「企業モノ」は、過去に花形の時代があった企業スポーツ運営のその後の苦悩を描いた「ルーズベルトゲーム」「ノーサイドゲーム」。あるいは、業務上の事故対応などをテーマとして企業悪を糾弾する、「空飛ぶタイヤ」「七つの会議」などがそれにあたります。

   さらにもう一つ、この銀行モノと企業モノの間に位置する作品があって、それは銀行員が悪者的に登場し、主人公である企業経営者が銀行の協力をなかなか得られずに苦労するという物語です。「裏銀行モノ」とでも言っておきましょう。

   じつはこの「裏銀行モノ」が、現実社会における銀行と企業の関係を最も赤裸々に描いていて、個人的には大いに注目に値する作品群ではないかと見ています。具体的には、世界に通用する技術力はあれど資金力に欠ける佃製作所にスポットを当てた「下町ロケット」や、ジリ貧業績を続ける衰退産業の老舗足袋屋の「こはぜ屋」が将来展望に向けてスポーツシューズを開発するという挑戦を描いた「陸王」が、この「裏銀行モノ」にあたります。

「日本的金融」に苦しめられた佃製作所やこはぜ屋

   この「裏銀行モノ」にこそ、半沢直樹が対峙する昭和から脈々と続いている銀行が抱えてきた問題点の集約を、みることができます。それはまた、ここ数年来、銀行改革を声高にアナウンスしている監督官庁である金融庁が指摘している銀行業務における重要な改善点でもあり、企業人はじめ一般の人たちに銀行が抱えている問題点を正しく理解してもらうヒントをはらんでもいる、と言っていいでしょう。

   この点に関する金融庁の具体的な物言いは、「脱日本的金融」という言葉で表現されています。「日本的金融」とは何か――。金融庁の定義では、「決算書や担保や人的補償に依存した融資審査姿勢」です。

   まさに半沢直樹の父親が自殺した原因は、この融資審査姿勢であり、「日本的金融」の犠牲になった父の恨みを晴らしに、彼は銀行に入ったというのが、大ヒットした前回シリーズでのストーリー背景でもありました。

   金融庁が主張する「脱日本的金融」の方向感はすなわち、これまでの銀行審査の常識は今後変えなくてはいけない、ということなのです。つまりは、「下町ロケット」の佃製作所も「陸王」のこはぜ屋も、この「日本的金融」に苦しめられ、そこからいかに脱するのかを模索する中で、「脱日本的金融」に則った融資審査に持ち込むことで一定の到達点に至ったという物語であるわけなのです。

   本来、銀行は企業とどのように付き合うべきなのか、あるいは企業は旧態然とした銀行の風土をいかにして変えていくべきなのか、そんなヒントがこれらのドラマからは感じ取ることができたと私は感じました。

銀行員を現場に引きずり込む

   具体的には、決算書や担保、人的補償に依らずとも、明確で説得力のある成長戦略をいかに描き、いかに銀行をその戦略づくりに引き込むか、ということがポイントであるとみています。

   過去の銀行員は、デスクワークで取引先の善し悪しを判断するという文化が根強くあり、ややもすると取引先の現場を見たことがないとか、さらには取引先が具体的にどのようなものを作って、それが社会的にどのような優位性をもっているのか、それすら知らないということも、現実にはあるのです。だからこそ、支店長はじめ銀行のスタッフを積極的に現場に引きずり込んで、数字に現れない自社の実態を知ってもらうことが重要なのです。

   半沢直樹は、「日本的金融」の犠牲になった父の恨みを仕事で晴らしていくということを大前提として描かれる物語です。したがって、その物語を通じて、「脱日本的金融」のあるべき姿を示唆していく、そんな作者の思いを感じ取ることができるのです。

   春にスタートする「半沢直樹II」が、今度はグループ証券会社を舞台にいかなる「脱日本的金融」を描き出すのか。そこから今後大きく変わっていくであろう、銀行とのあるべき関係のヒントが、何か得られるのではないかと期待しています。(大関暁夫)