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最大リスクは「左派」 米大統領選で米国株が1万ドル下落する!?(志摩力男の相場展望 その2)

   2020年初から、イランのソレイマニ司令官が殺害されたり、新型コロナウィルスの感染が広がりを見せたりと、まったく予想できない事象が起こり、マーケットを揺らしています。

   これまでの市場予想というのは、経済指標などの分析を積み上げて構築していましたが、そうした分析では予想困難な、「経済」ではなく「政治」がマーケットを大きく動かす時代になってきたなと痛感させられます。

   その意味では、市場予想、分析は無力であり、次々と起こる政治事象に、どのように対応していくかが問われるのが「2020年の為替相場」ということになりそうです。

  • 米大統領選、左派が勝ったら……(写真は、米ニューヨーク証券取引所)
    米大統領選、左派が勝ったら……(写真は、米ニューヨーク証券取引所)
  • 米大統領選、左派が勝ったら……(写真は、米ニューヨーク証券取引所)

「左派リスク」が顕在化する米大統領選!

   2020年の「相場展望 その1」では、トランプ大統領の再選を前提に、比較的穏やかな1年を想定して、予測しました。大きな事件が起こらなければ、高い米国株を背景にリスクオン的な世界が続くでしょう。しかし、米国株は割高な領域に入り、それでも「ロングをやめると他者に負ける」という握力勝負の世界、何か想定外のことが起これば、一気に投げ売りになってしまうリスクをはらみます。

   それでは2020年のリスクはどこにあるのでしょうか――。北朝鮮リスク、中東リスク、中国経済の急減速リスク、貿易合意の伴わない英国離脱リスク、そして現在の新型コロナウィルスによるリスクなど、さまざまなリスクがありますが、私自身は米大統領選挙における「左派系候補」躍進が最大の、しかもかなり現実的なリスクだと思います。

   米大統領選挙は4年ごとに、11月の第1火曜日に投票されることに決まっています。今年の場合は、11月3日です。それまでに各地で予備選挙が行われますが、共和党の候補は現職トランプ大統領に決まっています。

   対する民主党の候補者ですが、現在のところバイデン氏(28%)、サンダース氏(22%)、ウォーレン氏(15%)、ブルームバーグ氏(8%)、ブティジェッジ氏(6.7%)などの、多くの候補者が乱立している状況です(数字は各候補の支持率、米政治サイトReal Clear Politicsから)。

   今のところ、元副大統領であるバイデン氏がリードしています。比較的中立的な立場なので、多くの支持を得られやすいということで、トランプ大統領に対する最も有力な対抗馬となっていますが、高齢であること、そして演説に迫力、気力がないことから、リードを維持できるのか懸念されています。

左派系支持者がバイデン支持を上回るとき......

   しかし、このところバーニー・サンダース氏が支持を伸ばしています。一時、ウォーレン氏の支持率がバイデン氏を凌駕しましたが、急激に失速しています。ブルームバーグ氏が地味に支持を伸ばしていますが、民主党支持者が超大金持ちを支持するのか、今ひとつわかりません。ブティジェッジ氏はもう少し経験が必要でしょうか。

   そのうち候補者が絞られてきますが、注意したいのは左派系候補と呼ばれるサンダース氏とウォーレン氏の支持層が重なっていることです。最終的にはどちらか一人に絞られますが、左派系候補を支持する人が他を支持することはないので、二人の支持率を足したものになり、その時バイデン氏を上回ることが予想されます。

   民主党の大統領候補がコテコテの左派になった場合、少し市場は動揺するでしょうが、当選の可能性が少ないと当初は見られますから、動揺も限定的でしょう。しかし、問題は左派系候補の支持が広がり、当選の可能性が少しでも見えてきた場合です。特にサンダース氏の政策は、まさに社会主義とも言える政策なので、米国株式市場の動揺は大変なものになるでしょう。

   そのシナリオは、まったくありえないものではないと思います。このところの大統領選挙を見ると、オバマ大統領は初の黒人大統領候補であり、「チェンジ」を掲げて戦いました。米国民も変化が欲しかったわけです。

   トランプ大統領は、初めてワシントンに染まっていない、政治経験のない民間出身の大統領候補でした。米国民は変化が欲しかったわけです。

   次の大統領選挙、トランプ大統領は過去の大統領にはなしえなかったほど、多くの政策を実現してきました。株価も3万ドルに近いところにいます。米国経済は他国に比べて好調です。これまでの常識であれば、実績だけを考えるとトランプ再選以外ありえません。

   しかし多くの、社会から取り残されていると感じている人達から見てどうでしょうか――。米国株が3万ドルでも4万ドルでも、自分たちの生活が変わるわけではありません。高額の授業料に悩まされている大学生にとっても、そうでしょう。社会全体が富裕層に有利にできている、それを変えたいと思う人は多いはずです。

米ダウ平均が落ちれば、円高ドル安が必至

   米大統領選挙は、いわゆる「スイング・ステート」と呼ばれる4~6州の結果で決まるということが広く知られています。ニューヨーク州やカリフォルニア州は、常に民主党候補が勝ちますし、テキサス州始め米国の中央の州は共和党が強い。では、スイング・ステートにおける有権者はトランプ大統領の4年間に満足しているかというと、そんなこともないようです。

   中国が大量に農産物を輸入することになりましたが、実行されるかどうかわかりません。製造業の雇用が本格的に戻っているわけでもありません。

   左派系候補、特にサンダース氏が大統領になるという可能性が現実味を帯びてきた場合、金融市場は大揺れに揺れるでしょう。米ダウ平均株価が1万ドル落ちるということも、あながち大袈裟ではないからです。

   金融市場は、左派系候補勝利の確率が30%でもあれば、その30%分を織り込みに行きます。仮にトランプ大統領勝利の際の米ダウ平均株価の適正値が3万ドル、左派系候補の場合2万ドルとすれば、左派系候補が勝利する確率が30%あると考えれば、米ダウは2万7千ドルぐらいで取引されるべきとマーケットは考えます。

   確率が半々となれば2万5000ドルに落ちます。これは、かなりのリスクです。そうなると、為替市場もリスクオフ的な動きとなるでしょう。円高リスクが高まります。

   仮にダウが2万5000ドルを割り込み、2万ドル方向を試すような局面があれば、当然ドル円も100円方向を試すことになり、豪ドル円は70円を割って、さらに下がることになります。

   現在、新型コロナウィルスの悪影響で、市場は揺れています。この影響を十分に見通すことは現状難しいですが、SARSよりも深刻化する可能性が高まっています。SARSの時は3~4か月で終息を宣言しましたが、今回の新型コロナウィルスは感染しても発病しない人がいるという特徴があり、これでは感染拡大を阻止することは難しい。ただ、発病しても軽く済む人も多く、あまり深刻に考えなくてもよいと世の中全体の認識が変わる可能性もありますが、時間はかかるでしょう。

   サプライチェーンが分断され、中国の内需が冷え込み、日本国内のインバウンド需要にも深刻な影響が出てくるとなると、短期的な景気後退は避けられないといえます。ただ、その分のリバウンドは、問題解決後は当然でてくるので、それはそれで楽しみではあります。(志摩力男)