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【SDGs実践編】目標達成をさまざまな「道」からアプローチ 「17のゴール」すべてを目指す大和証券グループ

   SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)には「17の目標」(ゴール)と169のターゲットがある。それが幾重にも重なっていて、企業の取り組みも多岐にわたる。

   大和証券グループ本社は2018年5月に「SDGs宣言」を発表。中期経営計画にSDGsを取り入れるとともに、中田誠司社長をトップとする「SDGs推進委員会」を発足して、会社が一丸となって取り組んでいくことを、国内外に宣言した。

   どのような取り組みを、どう進めていくのか、全社員がSDGsを理解して取り組んでいるのか――。SDGs推進室の川那部瑠理子室長に聞いた。

  • 大和証券グループ本社の「SDGs達成に向けた取り組み」を紹介するホームページ
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本業を通じて経済的価値を生み出しながら、同時に社会に貢献する

大和証券グループはSDGs「17の目標」のすべてを目指す(川那部瑠理子SDGs推進室長)
大和証券グループはSDGs「17の目標」のすべてを目指す(川那部瑠理子SDGs推進室長)

―― 2018年5月に「SDGs宣言」を発表されました。その狙いは、どのようなことなのでしょう。

   川那部瑠理子室長「2018年2月に、社長でCEO(最高経営責任者)の中田誠司をヘッドとしたSDGs推進委員会を発足。その事務局として今年(19年)4月からSDGs推進室を経営企画部内に置きました。経営戦略の中にSDGsを取り込んでいこうというイニシアチブは、そこから始まっています。
そうした中で、『SDGs宣言』は、大和証券グループがSDGsに真剣に取り組んでいくんだということを、社内外に具体的に示したものです。
SDGsは、CSR(企業の社会的責任)からCSV(共通価値の創造)への流れにあるなか、その過程にSDGsがあると説明されています。そうした中で、世界一多くの長寿企業がある日本で、当社も1世紀以上も生き残ってきた。そのことを考えると、やはり社会に貢献してきたからこそ、社会から求められる存在でいられたのだろうと考えました。それを、より本業を通じて経済的価値を生み出しながら、同時に社会貢献も、社会的な価値も生み出そうという『CSV』の考え方に移ってきました。『SDGs宣言』は、そういった方向に舵を切っていこうという会社の姿勢を、明確にしました」

―― 社員は「SDGs=CSRではない」ということを理解していますか。

   川那部室長「社員がそのこと(SDGs=CSRではない)をどれだけ理解しているかというと、なかなか難しいですね。しかし経営の考えとしては、いわゆるビジネスの中で社会に貢献すれば、社会課題の解決そのものも持続的に実践できるわけですね。CSRは、必ずしも業績と連動するわけではありませんが、本業で得た利益の一部で支えるような仕組みですが、我々の通常のビジネスで社会課題が解決できれば、我々が存在できる限り社会貢献も永続的になるだろうと。結果として『ダイワ』の経済的価値、経済活動自体も、世の中からきっと認めてもらえるだろう。巡り巡って本業も持続可能になる。そういったことで、SDGsを推進していますし、少しずつ浸透しています」

ESG投資、いち早く!

―― 具体的な社員への周知や、SDGs研修は実施していますか。

   川那部室長「SDGsの浸透、定着が2019年度の一番の課題ですし、研修は実施しています。新入社員から6年目の社員たちと、それから各階層の役職別に研修しています。今年度から、研修所の集合研修で2日間ほど行う一般的な業務研修に、必ずSDGs研修を組み入れまして、これまでに延べ2500人を研修しました。
もう一つは、いわゆるSDGs推進室が話す座学と、場所を移してディスカッションをする場合と、確保できる時間に合わせての2パターンで実施しています。そうした機会を通じて、なぜSDGsなのか、なぜわれわれがSDGsに取り組まなければならないのか、直接お話しさせていただきました。
それでも役職者など、仕事が忙しくて参加できずに漏れる社員がいますから、座学のときにビデオを回して、それをeラーニングで見ていただくとか、アンケートや課題に取り組んでいただくとか。そういった方法で隈なくやりました。当社では毎朝15分から20分程度の『朝の放送』を、全国津々浦々の支店などで流しています。その時に、当社が取り組んでいること、たとえば子どもの健康問題などを幅広く取り上げる中で、いろいろと紹介してもらったりもしました。放送を通じて、SDGsの社員への浸透が、ある程度進んでいるのではないかと思いますし、おそらく来年度以降も続いていくことになると思っています」

―― 証券会社は「ESG投資」で、本業での取り組みが早かったですよね。SDGsに取り組まれている企業への投資を強めていこうという流れができたといっていいと思います。

   川那部室長「そうですね。ESG投資はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2017年から、本格的に取り組みはじめたところからですね。環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を、みなさんが意識するようになり、SDGsというのはその全体を包含しているというようなところです。
発行体(債券や株式を発行する企業)がそういったきっかけで積極的になってくれば、投資家に商品を提供する証券会社も、おのずとESG投資が主流になっていきますよね。つまり、インパクトインベストメントと呼ばれる、現在では『グリーンボンド』などが、そういった社会課題解決型の商品になります。それがSDGsを体現するビジネスの本流、証券会社としては一つ大きなビジネスの流れではあります」

「若手社員が率先して取り組んでいます」

―― 大和証券の取り組みは、いかがでしょう。

   川那部室長「当社では、2008年に本邦初の個人向けの『ワクチン債』を引き受けていて、個人投資家にその債券を買っていただいています。その資金が発展途上国の方々にワクチンとして提供されるという仕組みなのですが、そういった商品がより注目を浴びています。このところ、債券はあまり金利がよくないので、個人向けには売っていないのですが、機関投資家向けではグリーンボンドが売れ筋です。SDGsへの関心の高さ、時代の潮流を感じています。当社では、そういったインパクトインベスティメントが利益に占める割合が小さく、そうなると、『本業を通じて社会課題を解決している』とは言いづらくなります。今、我々がやらなければならないことは、その割合を拡大させて、本業で貢献している部分をより増やしていこうということです。
社内向けには、取り組みの一環として2018年に『SDGsブックレット 2018 ~社会に役立つお金の流れをつくる~』を全社員に配布。大和証券グループの企業理念とSDGsへのアプローチの仕方を、具体的に取り上げました。たとえば、SDGsの目標の『1 子どもの貧困問題解消へ』の取り組みとして、パブリックリソース財団とともに『こどもスマイルプロジェクト』をスタートしています。証券会社の本業を通じて、法人から個人のお客様まで幅広くお取引していただいています。(SDGsの)17の目標の達成に向けて、さまざまなアプローチの仕方が考えられ、一つでもそのターゲットに向けて取り組んでいきたいと思います」

―― SDGsの取り組みに手応えを感じることはありますか。

   川那部室長「なにができるか、なにをするのか、有志の方々が集まって進めていく機会がもてるようになりました。もの凄いパワーなんですよ。キックオフミーティングでは役員が挨拶に立ったのですが、その熱気に驚かれるほどでした。すでにSDGsを知っている新入社員も少なくありません。我々が教えたわけではなく、ふだんから『こういうことができればいいな』と思いながら仕事をしているんです。そういう若手が集まってくれる。
これまで社内には、『なんかよく知らないけど、やっている』みたいな感じが、よくも悪くもあったと思うんですね。それが、たとえば職場のペーパーレスですとか、ゴミの分別ですとかで、『こうしたら、ああしたら』といったアイデアが出てくるようになりました。それはSDGsに積極的に取り組んでいくんだという話を、機会あるたびにいろいろ方法で伝えていることで、若手社員をはじめとした有志が率先して行動してくれているからだと思います。少しずつ社員一人ひとりの中に根付いて、広がればいいと。浸透してきているな、という手応えは感じていますよ」

(J-CASTニュース会社ウオッチ編集部、2019年2月21日取材)