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コロナ禍は「最悪」ではない 今の日本は「強い薬」の副作用で体力を消耗した患者のようだ(2)(小田切尚登)

   この世には、ごくたまに破壊的な事象が起きる。

   我々の想定の範囲を大きく超える天災や疫病、戦争、テロなどだ。このような事象を、我々は予測することはできない。突然の出来事の発生で甚大な被害が発生し、この世の終わりを感じさせるような悲惨な状況が現れる。

   このような出来事のことを「ブラックスワン」と呼ぶ。これはナシーム・タレブの同名の著書によって有名になった。

  • 新型コロナウイルスの「感染第2波」が日本を襲う
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日本のコロナ被害は欧米に比べて少なくない

   こう見てくると、新型コロナウイルスに対する政府の対応は過大であることがわかる。日本はコロナの感染による直接的な被害は、欧米諸国に比べてケタ違いあるいは二ケタも少ないレベルに抑えられてきた。

   しかし、人々の生活全般に関わる被害は欧米に負けないくらい深刻なものとなっている。飲食店や旅館業、旅行関係など多くの産業が瀕死の状態に置かれているのをはじめ、すべての国民が大変な被害を被っている。そのために政府は、何十兆円もの資金を投入している。

   今後、税収が大きく落ち込むことが予想されるので、財政はますますひっ迫するであろう。企業もとりあえずは給付金や無利息融資などで息をついているが、それが切れていくと倒産が急増していくのではないか。

   文化、芸術、スポーツ・・・についても「不要不急」に分類されてしまい、計り知れない悪影響を受けてしまっている。

   我々の生活は、常にさまざまな危険にさらされている。地震、台風、洪水、火山の噴火、交通事故、火災、原子力事故、テロなど、さまざまである。これらはどれをとってもブラックスワンになり得るものだ。

   この冬に何万人、何十万人の命を奪うような(新型コロナウイルスとは比較にならないような)破壊的な伝染病が発生するかもしれない。あるいは、関東大震災や東日本大震災のような大地震が明日にも起きるかもしれない。どこかの国が日本の領土を侵犯してくるかもしれない。

   本当の勝負はその時だ。その時に十分な資金力、人材、テクノロジー、軍事力、外交力などを発揮できるような体制をとれるかどうかが国の命運を決める。

コロナ禍は悲劇だが最悪ではない

新型コロナウイルス、日本は抑えているほう?(国立感染症研究所提供)
新型コロナウイルス、日本は抑えているほう?(国立感染症研究所提供)

   政府は常に緊急時に備えていなければならず、そのためにふだんは余裕をもって政策を行わなければならない。平時であれば「政府がいくら借金しても問題ない」などと言っていられるが、緊急時でも同じことが言えるだろうか。

   今の日本は、それほどの病気ではないのに必要以上に強い薬を処方してしまい、その副作用で体力を消耗してしまった患者のようなものだ。

   ブラックスワンは、我々が思っている以上に頻繁に起きてしまうことが多い。100年に一度の重大な災害と言われるものが、じつは数年に一度くらい起きてしまったりする。

   コロナ禍は悲劇であるが、我々が想定すべき問題の中では最悪のものでは決してない。もっと悲惨な事が起きる可能性を考慮しつつ、新型コロナウイルスをいわば予行演習として被害を最少にして上手に乗り切っていくこと。これが現下の我々に突きつけられた課題である。(小田切尚登)