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ハシャぐ場合か? 「日本が教えを乞いに来た」韓国メディアが得意になる意外な日韓協力がスタート【日韓経済戦争】

   日韓対立がいっこうに収まる気配がない現在、意外な分野で日韓の協力が進んでいる。しかも、日本側が韓国側に「教えを乞うてきた」と、韓国メディアがやや得意げに報じている。

   新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、日本で女性の自殺が急増しており、「自殺大国」である韓国側に自殺防止対策について、情報交換したいと申し出てきたというのだ。

   じつは自殺防止という「命の分野」では、日韓には昔から経済・政治対立など、ものともしない深い絆があった。いったいどういうことか。日韓のメディアから読み解く――。

  • 新型コロナによって日韓ともに女性の自殺が急増している(写真はイメージ)
    新型コロナによって日韓ともに女性の自殺が急増している(写真はイメージ)
  • 新型コロナによって日韓ともに女性の自殺が急増している(写真はイメージ)

女性の自殺急増で日本が「自殺大国」韓国に相談

   意外な分野での「日韓協力」が始まったことを報じるのは、韓国のニュースサイト「WOW!KOREA」(2020年10月9日付)の「『同病相憐れむ』日韓、新型コロナ自殺が増加する中、意外な分野で協力がスタート」という見出しの記事だ。

「今年(2020年)8月の日本の自殺者数は昨年の同月より15%も増えた。自殺者の中で女性は昨年同月比の40%も増えた。特に若い女性の自殺者数が急増し、30代以下の女性に限定すると増加率はなんと74%だったそうだ。この背景とされているのは、新型コロナウイルスによる不況で先行きが不透明になり、生活の困窮が増えているという分析がある」

   日本の「バブル崩壊」の混乱の際もそうだったように、今回のコロナ禍においては、今後も自殺者が増える可能性が大きいという懸念が出ている。特に若い女性の驚くほどの自殺増加率の背景には、新型コロナウイルスによる在宅勤務や休校により、家事や育児の負担が増えたことが、致命的な結果をもたらしたと思われる。

   「WOW!KOREA」が続ける。

「そこで日本の自殺対策の関係機関は衝撃的な状況を受け、韓国に協力を求めている。日本の厚生労働大臣指定法人『いのち支える自殺対策推進センター』が韓国の同種の団体『中央自殺予防センター』に、日本で女性の自殺者が急増している状況に対し、原因分析などを尋ねているとのこと。日韓関係が冷え込んでいるなか、意外な分野で日韓協力が行われたのだ」

   それにしても、相談相手がなぜ韓国なのか――。

   それは韓国が「自殺大国」だからだ。韓国は現在、経済開発機構(OECD)諸国の中で自殺率1位の国である。2019年の統計で人口10万人あたりの自殺者は27人で、加盟国の平均の11人の約2.5倍だ。しかも14年間不動の1位を続けている。これは、日本より早く「年功序列」が撤廃されたものの、社会の急激なデジタル化と共に「無限競争」や「所得格差」による深刻なストレス状態になっている結果だ。ちなみに日本は15人で7位だった。

   そこで、文在寅(ムン・ジェイン)政権は2018年1月23日、「自殺予防国家行動計画」を発表。2022年までに自殺者50%減らすという目標を掲げた。そこに大きく貢献している団体の一つが「中央自殺予防センター」だった。

無関係の芦名星さん、竹内結子さんまで持ち出して...

じつは「自殺予防の国家プロジェクト」では日本を大いに参考にした文在寅大統領
じつは「自殺予防の国家プロジェクト」では日本を大いに参考にした文在寅大統領

   そして、「WOW!KOREA」は、最近の日本の女性芸能人の相次ぐ自殺事件を取り上げ、今回の動きと関連付けている。

「韓国に対し、日本の関連機関がノウハウを聞いてみることは当然かもしれないが、近年の日韓関係の冷え込みを考えると、かなりの勇気が必要だったはずだ。 日本では5月に女子プロレスラーの木村花さん、9月14日に女優の芦名星さん、9月27日に女優の竹内結子さんが『極端な選択』をして話題となったからだ」

   「極端な選択」とは、有名人の「自殺」という表現が、模倣自殺を誘発しかねないため、韓国メディアの多くが使っている言い換えの言葉だ。しかし、芦名星さんや竹内結子さんのことまで出した「WOW!KOREA」の記事は「書き過ぎ」と言っても過言ではない。

   記事の元ネタとなっているのが、日本メディアの産経新聞(9月20日付オンライン版)の「女性の自殺急増 コロナ影響か 同様の韓国に異例の連絡」というスクープ記事だからだ。それによると、日本の「いのち支える自殺対策推進センター」が韓国の機関に問い合わせたのは、今年8月中旬である。芦名星さんや竹内結子さんが自殺する前なのだ。

   産経新聞は、こう伝える。

「国内の女性の自殺者が増加し、8月は前年より4割増えた。韓国も同様の傾向がみられたため、『いのち支える自殺対策推進センター』が8月中旬、韓国の『中央自殺予防センター』の白宗祐(パク・ジョンウ)センター長へ連絡。日韓で女性の自殺者が急増している事態について、背景などを尋ね意見交換した。自殺傾向の分析で日本の機関が韓国機関に意見を求めるのは異例だ」
「韓国の現地報道は、新型コロナの影響で、非正規雇用など不安定な雇用の職業に就く女性の経済的困難が高まったほか、育児などの負担が増大したことなどが背景にあると指摘。日本でも同様の原因があるのか、詳細な分析が進められる」

   そして産経新聞は、女性の自殺が急増した背景について、新潟青陵大大学院(社会心理学)の碓井真史教授のこんな分析を紹介している。

「新型コロナの影響によって、休校や在宅勤務、買い物の制限など、家事や育児などの女性の負担が増え、本来ならストレスにならなかったこともストレスになっている。ストレスを発散することも難しくなっている」

文大統領の「自殺予防国家プロジェクト」は日本がお手本だった

   ところで今回は、日本側が韓国側に「相談」した形だが、じつは文在寅政権が2年前に掲げた大プロジェクト「自殺予防国家行動計画」では、日本がお手本になっているのだ。韓国のニュースサイト「S-KOREA」(2018年3月15日付)は「日本と韓国はなぜ自殺率が高いのか 『責任を取って死ぬ』文化が関係か」という記事で、韓国自殺予防協会のオ・ガンソプ会長をインタビューしている。その中で、オ・ガンソプ会長は、こう語っているのだった。

「私たちは日本(イルボン)から多くのことを学んでいます。というのもひと昔前、日本は韓国よりも自殺率が高かった。しかし日本はここ5年ほどで大きく改善しています。韓国も改善傾向にありますが、それでもOECD加盟国のワースト1位を続けています。日本がどうやって自殺率を下げたのかを知るために、日本で多くの関係者に会って、さかんに勉強しました」

   その成果の具体的な対策の一つが、猛毒性の高い農薬の生産や販売を禁止にしたことだ。

「日本と同じく韓国も高齢者の自殺が多いのですが、特に農村などの地方で目立ちます。孤立している高齢の多くが、農薬を使って自殺しています。そのため私たちの協会では、猛毒性の高い農薬の生産や販売を禁止しました。衝動的な自殺を防ぐためです」

   日本の自殺予防のボランティア相談員を参考にした「自殺予防ゲートキーパー」の養成も進んでいる。100万人に増やす計画だ。また、「後追い自殺」を減らすメディア対策も日本から学んだ。

「韓国では有名人が自殺すると、それを追った後追い自殺が少なくありません。有名タレントが自殺すると、翌月の自殺者が増加するのです。その大きな原因に、メディアの影響力がありました。(日本で報道機関が自殺報道のガイドラインを作っているように)言論報道指針を打ち出して、韓国記者協会と協力しながら修正・補完しています。セミナーを開き、記者への教育も行っています。記者たちも当初は『国民には知る権利がある』と理解をしてくれませんでしたが、今では改善されてきました」

   こと、命の大切さに関する分野で、政治や経済の対立と関係なく日韓交流が進んでいるのは、とてもいいことではないか。

(福田和郎)