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伝説の投資家ジム・ロジャーズ「2021年オリンピック開催すべし」 危機をチャンスにする教え

   ジム・ロジャーズ氏は、株式だけではなく商品や通貨などまで幅広く投資の対象にし、先物取引やオプション取引でも名を成した伝説の投資家だ。投資する中で、ロジャーズ氏は徹底した調査を常としてきた。

   投資活動を通して得た教訓は「危機は好機である」。それは歴史を見れば明らかという。現在はまさに、新型コロナウイルスが危機中の危機だ。コロナ禍、コロナ後をどう過ごすべきなのか――。自らの教訓をもとに、ロジャーズ氏がその考えを述べたのが、本書「ジム・ロジャーズ お金の新常識 ― コロナ恐慌を生き抜く」だ。

「ジム・ロジャーズ お金の新常識―コロナ恐慌を生き抜く」(ジム・ロジャーズ著)朝日新聞出版
  • オリンピック開催見送りとなれば競技場も「多額の損失」に
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2020年の「危機」を予言

   リーマン・ショックを予測し、2019年に「2020年に未曾有の危機」と予言したロジャーズ氏。ウォーレン・バフェット氏、ジョージ・ソロス氏と並び「世界3大投資家」と称される。もともと発言や行動が注目される存在だが、2019年の予言では「いったい何が?」と、さらに高い注目を集めていた。

   本書は、週刊朝日に連載した「世界三大投資家ジム・ロジャーズがズバリ予言2020年、お金と世界はこう動く」のうち、2020年1月17日号から9月11日号の掲載分を再構成して、大幅に加筆・修正した。連載は2019年12月から2020年8月に、6回にわたって行ったインタビューに基づいたものだ。

   世界を襲ったコロナ禍だが、ロジャーズ氏は、日本特有の問題の一つとして東京オリンピック・パラリンピックを、まずテーマに取り上げた。大会は1年延期され2021年夏に開催されることになったが、20年夏に感染が再び拡大して延期開催についても心配する声が強まっている。

   開催しても観客が集まるかわからない、各国で代表選考会が開けない、代表が決まっても日本に来られるかはわからない......。クリアしておかなければならない問題が山とある。

   「だが」とロジャーズ氏。「私が日本のリーダーなら東京オリンピックを予定どおり開催するだろう」という。それは、歴史が開催すべきことを教えているからだ。

人は危機を乗り越えようとすることで前進する

   東西冷戦下の1980年に開催されたモスクワ・オリンピックは、旧ソ連(ロシア)のアフガニスタン侵攻に抗議して西側諸国がボイコット。4年後の1984年の米ロサンゼルス・オリンピックでは、前回の報復に、ソ連や東側諸国が参加しなかった。

   両大会とも国際政治の影響を受けて、選手や観客を十分に集めることはできなかったが、規模を縮小して予定どおり開催し、問題を抱えての挙行だけに人々は念入りに準備を重ね状況への適応が進んだ。

   ロジャーズ氏は、こう言う。

「危機をチャンスとして生かさなければならない。なぜか。人は、危機を乗り越えようとすることで前に進むからだ」

   新型コロナウイルス感染症の発生などの問題が起きるかもしれない。しかし、それが「大会の失敗」とはならないとロジャーズ氏。 「最高のレベルの成功は難しくても今から入念に準備をすることでリスクを下げ、失敗を最小限に抑えることができるはずだ」

   コロナ禍という事情に十分配慮して大会を開催すれば、状況への適応や前へ進むという成果が期待できる。一方、中止となればその損害は計り知れない。「日本はオリンピックに1兆円を超える投資をしてきている」のだ。新しいスタジアムを建設し、企業は先進のテクノロジーを組み込んだホテルを数々建てた。大会が見送りとなれば、多額の損失を生む。

   コロナ禍の「今」も、学ぶべき歴史が進行している。たとえば、北欧スウェーデンの感染症対策だ。2020年春に、新型コロナウイルスの感染拡大が世界で顕著になると、各国は学者やメディア、政治家たちが率先して「国を閉じるべき」と声を上げ、そのとおり実行したが、スウェーデンはそうはしなかった。だからといって、同国が他国に比べて突出して深刻な状況になっているわけではない。「危機の時でも、リスクを覚悟して前に進まなければならないことを示す一つの例だ」とロジャーズ氏は言う。

   本書では「2021年東京五輪を開催せよ」のほか、「コロナ恐慌が起きて『借金』が世界をおしつぶす」として債務危機や、「米中対立が本当の戦争になる可能性」に言及。また、ロジャーズ氏が実践してきた投資原則を公開。「日本は衰退するが、買える日本株もある」として注目セクターを挙げ、その理由を解説している。

「ジム・ロジャーズ お金の新常識 コロナ恐慌を生き抜く」
ジム・ロジャーズ著
朝日新聞出版
1400円(税別)