J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「クロネコヤマトの宅急便」が生まれたのは逆転の発想だった

   新型コロナウイルスの襲来で明けた2020年。その暮れに向かって感染者数が再び増え、不安が募る。2021年はなんとかコロナ退散を実現し、いい年になりますように――。そう願っている人は多いはずだ。

   本書「人生! 逆転図鑑 山あり谷ありの32人に学ぶ成功の法則」は、社会の激変に翻弄され、時には荒波に飲み込まれながらも逆転を果たし、成功をつかんだ、内外の立志伝中の人物32人の物語集。

「取り上げた人物たちの逆転人生を通じて、困難に立ち向かうヒントにしてほしい」

と、コロナ禍の緩衝に役立てばと送り出された。新年に向けた決意の参考になる一冊。年末年始休暇の読書に格好といえる。

「人生! 逆転図鑑 山あり谷ありの32人に学ぶ成功の法則」(早見俊著)秀和システム
  • 斜めに進むか、タテヨコに進むか…人生の方向も人それぞれ
    斜めに進むか、タテヨコに進むか…人生の方向も人それぞれ
  • 斜めに進むか、タテヨコに進むか…人生の方向も人それぞれ

「逆転」を5つの型に分類

   32人が果たした「逆転」劇を、本書では5つの型に分類。「執念爆発型」、「才気煥発型」、「困難逆転型」、「強メンタル型」、「大器晩成型」で、それぞれ6~7人を取り上げている。

   東急の創業者、五島慶太氏(執念爆発型)やヤマト運輸の2代目社長で「クロネコヤマトの宅急便」の生みの親である小倉昌男氏(才気煥発型)、シンガポールの初代首相で経済的繁栄を実現したリー・クアンユー氏(困難逆転型)、ウォルト・ディズニー・カンパニーの創業者、ウォルト・ディズニー氏(強メンタル型)、それにマクドナルドの創業者、レイ・クロック氏やケンタッキー・フライドチキンの創業者、カーネル・サンダース氏(いずれも大器晩成型)などの名前が並ぶ。

   いずれも立志伝が知られた人物ばかりで、成功をつかむプロセスが逆転に彩られたことを知ると平面的だったプロフィールが立体的になる。それぞれショートストーリ―仕立てだが、味わいは深い。

   どんな「逆転」が紹介されているのだろうか――。たとえば、ヤマト運輸2代目社長、小倉昌男氏。父親の康臣氏の後を継いで社長に就任したのは1971年。運送業界は当時、戦後の道路整備が進むなか、大型トラックによる長距離運送が事業の中心だった。 ところが大和運輸(当時)は、康臣氏が「箱根より西に出るな」と釘を刺し、このことで競合他社に後れをとっていた。坂やカーブが多い箱根の通行で起きかねない事故多発を回避するための方針だったという。

   この康臣氏の経営方針が会社の成長を阻んでおり、小倉氏は苦しい経営を強いられながらの社長就任だった。業績改善策として研究したのが、米国で商業荷物を扱う配送業者UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)の業務。UPSは商業荷物を集荷して宅配を行っていたが、小倉氏が考えたのは、一般家庭から荷物を集荷し、全国の一般家庭に届けるシステムの構築だ。

ヤマト運輸、初日に扱った荷物は11個

   当時は小荷物を送る際には郵便局の窓口に持ち込むことしか手がなかった。運送会社が事業として荷物をピックアップし配送することは、とてもコストに見合うものではないと考えられていた。当時の運送業界においては、いかに大口の荷を任せてくれる顧客をつかむことが営業活動だった。

   大和運輸は業績を改善できないままの一方、日本はオイルショック(1973年)に見舞われた。その煽りをうけて1975年、大和運輸はそれまでで最大規模の赤字を計上。小倉氏は「郵便局と競争して小荷物配送を行う」と挑戦を決意したそうだ。

   長距離の大きな荷物がダメなら、近くで集荷できる小荷物を――。

   どの会社もやっていない集荷事業の先駆者に――。

   こうした逆転の発想をもとに、会社再建のため小倉氏は断固たる決意で「宅急便開発要綱」を作成し1976年1月から営業を開始した。

   実施のために小倉氏は、まず取次店を開拓。当初は手数料を払って酒屋に委託した。そして料金設定をわかりやすくするため細分化せず、運送先をブロック化してブロック内は同一料金にした。

   営業開始初日に扱った荷物は、わずか11個。「この11個の小荷物が、日本の運輸に革命をもたらし、日本人の生活スタイルを変えていくのです」と、著者はいう。小倉氏が始めた事業はのちに大成功となり、次々と運送業者が宅配事業に参入。ECの拡大に伴い、なくてはならない存在になっているのは、周知のとおりだ。

ネコがライオンにかみつく

   宅配便成功で弾みがつき、小倉社長はまたまた大きな決断をする。創業以来の重要顧客であった三越百貨店と1979年に配送契約を解除したのだ。配送費の大幅引き下げ、三越が出資した映画のチケットの大量購入を押し付けられたことに反発してのことだった。

   両社のシンボルに引っ掛け、ネコがライオンにかみついたと、ここでも「逆転」が評判になったという。

   著者の早見俊さんは、1961年岐阜市生まれ。大学卒業後、会社員として過ごす傍ら小説を書いていたが、その後、作家活動に入った。主に時代小説に取り組み「居眠り同心影御用」「佃島用心棒日誌」の両シリーズで第6回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞した。

「人生!逆転図鑑山あり谷ありの32人に学ぶ成功の法則」
早見俊著
秀和システム
2000円(税別)