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「全世代型」社会保障制改革は「自助・共助・公助」で実現できるのか?(鷲尾香一)

   「全世代型社会保障改革の方針」がまとまった。

   注目を集めたのが、少子化対策での不妊治療の保険適用と後期高齢者の医療費の自己負担割合の引き上げ。多くのメディアでも取り上げられたが、報告書の原文のまま説明しているので、非常にわかりづらい。そこで、わかりやすく説明したうえで、問題点を考えてみたい。

  • 高齢者の医療費の自己負担割合はどうなった……
    高齢者の医療費の自己負担割合はどうなった……
  • 高齢者の医療費の自己負担割合はどうなった……

所得制限なし! 不妊治療の保険適用は2022年度から

   政府の全世代型社会保障検討会議が12月14日、「全世代型社会保障改革の方針」をまとめ、翌15日に閣議決定された。ポイントとなったのが、少子化対策での不妊治療への保険適用。方針では以下のように盛り込まれた。

「具体的には、2021年度中に詳細を決定し、2022年度当初から保険適用を実施することとし、工程表に基づき、保険適用までの作業を進める。
保険適用までのあいだ、現行の不妊治療の助成制度について、所得制限の撤廃や助成額の増額(1回30万円)など、対象拡大を前提に大幅な拡充を行い、経済的負担の軽減を図る」

   これは、2022年度から不妊治療の保険適用を開始するが、それまでの期間については現行の不妊治療助成制度を、所得制限なしで1回30万円の助成金を支給するということだ。

   確かに少子化対策として不妊治療の促進は効果があるだろう。ただ、コロナ禍にあって、婚姻数、妊娠届数自体が大きく減少している。先行きの生活不安により結婚を延期したり、子どもを作るのを躊躇ったりしているものと思われる。

   少子化対策には不妊治療の促進とともに、結婚や子どもを作れるような先々の生活安定に資する対策もまた重要だろう。

   方針には、待機児童の解消も盛り込まれている。今年末までに「新子育て安心プラン」を取りまとめ、安定的な財源を確保しながら、2021年度から24年度末までの4年間で約14万人分の保育の受け皿を整備するとしている。

   ただ、2020年4月1日時点での待機児童数は1.2万人となっており、政府が目標としていた「2020年度末の待機児童問題ゼロ」は未達となる見通しだ。

   新型コロナの影響度合いも含め、今後の少子化の進行具合もあろうが、果たして4年間で14万人の新規受け皿で十分なのかは不透明だ。

特例給付の対象外は年収1200万円以上から

   同時に発表されたのが、児童手当の見直し。「高所得の主たる生計維持者(年収1200万円以上の者)を特例給付の対象外とする」と盛り込まれた。これは、子ども2人の専業主婦世帯で年収1200万円以上からを対象に月額一律5000円の特別給付の対象外とするということ。2022年10月支給分から適用に向けて、21年の通常国会に必要な法案を提出するとしている。

   果たして、年収1200万円という基準が妥当かという点については、議論の残るところだろう。

   後期高齢者の医療費の自己負担割合の引き上げでは、次のように書かれている。

「後期高齢者(75歳以上。現役並み所得者は除く)であっても課税所得が28万円以上(所得上位30%)及び年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は、後期高齢者の年収合計が320万円以上)の方に限って、その医療費の窓口負担割合を2割とし、それ以外の人は1割とする。
また、施行に当たっては、長期頻回受診患者等への配慮措置として、2割負担への変更により影響が大きい外来患者について、施行後3年間、1月分の負担増を、最大でも3000円に収まるような措置を導入する」

   2022年度以降、団塊の世代が後期高齢者となり始めるため、医療費における現役世代の

   負担が大きく上昇するための措置として打ち出されたものだ。

仕事でも地域でも国民が個性を発揮して活躍できるか

   では、わかりやすく説明していこう。まず、現在の後期高齢者の医療費の自己負担割合は、現役世代並み所得者が3割負担、その他は1割負担となっている。この現役世代並みとは、課税所得が145万円以上となるが、年収に直すと単身世帯は約383万円以上、夫婦世帯で約520万円以上となる。単身世帯では月収約32万円、夫婦世帯で同約43万円になる。

   なお、1割負担では低所得者世帯(世帯全員が住民税非課税の世帯)は、外来の月額上限額は8000円(一般は1万8000円)とする措置などが取られている。

   自己負担額が新たに2割に引き上げられるのは、課税所得が28万円以上及び年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は、後期高齢者の年収合計が320万円以上)となったが、年収200万円は月収で約16万7000円、年収320万円は月収で約26万7000円となる。

   月収で約32万円(夫婦世帯で約43万円)が3割負担、月収約16万7000円(夫婦世帯で約26万7000円)が2割負担、それ以下の所得が1割負担という基準が妥当かという点については、議論の残るところだろう。

   方針でもっともわかりづらかったのが、「長期頻回受診患者等への配慮措置として、2割負担への変更により影響が大きい外来患者について、施行後3年間、1月分の負担増を、最大でも3000円に収まるような措置」だろう。

   これは、新制度開始から3年間について、自己負担額が2割に引き上げられた人で影響の大きい外来患者についての緩和措置だ。では、1か月の負担増が最大でも3000円に収まるとは、どのようなものか。

   ふつうに考えれば、負担額が1割から2割になり、1割増加した分の上限が月3000円となると思うのではないだろうか。つまり、1割増加分の上限が月3000円であるならば、2割負担の上限は月6000円(医療費では3万円)と考えるだろう。

   だが、正解は自己負担分が2割(月6000円)であり、2割を支払ったうえでこれを超える分については上限が月3000円=1割負担になるということ。つまり、月9000円が上限となる。

   政府は今回について2021年の通常国会に必要な法案を提出し、2022年度後半からスタートしたい意向だ。

   菅義偉首相が目指す社会像は、「自助・共助・公助」。方針では、社会保障制度についても、まずは、国民一人ひとりが、仕事でも、地域でも、その個性を発揮して活躍できる社会を創っていくとしている。今回の改革は、それを実現できるものだろうか......。

(鷲尾香一)