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【新春対談】社員が幸福な会社は強い会社になれる! なぜカルビーは働き方改革に積極的なのか(2)

   「社員の幸福度で会社の業績が変わる」――。「しあわせ経営」と呼ばれる、こうした考え方が企業で注目されるようになってきた。

   いち早く着目したカルビー株式会社は、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえたニューノーマルな働き方を掲げ、2020年7月にモバイルワークの標準化やフルフレックスタイムの導入、単身赴任の解除など、社員にとってより柔軟で働きやすい仕組みを構築。9月には、働く人を幸せにする商品ラインナップも用意するなど、進化している。

   幸福学研究の第一人者である慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授と、カルビーの人事・総務を担当する武田雅子常務執行役員(CHRO 人事総務本部長)に、幸せな経営や新たな働き方について、語ってもらった。

  • カルビーは「大企業でも『幸福度の高い経営』を目指せる」ことを証明した(カルビーの武田雅子常務・左と慶応義塾大学大学院の前野隆司教授)
    カルビーは「大企業でも『幸福度の高い経営』を目指せる」ことを証明した(カルビーの武田雅子常務・左と慶応義塾大学大学院の前野隆司教授)
  • カルビーは「大企業でも『幸福度の高い経営』を目指せる」ことを証明した(カルビーの武田雅子常務・左と慶応義塾大学大学院の前野隆司教授)

コロナ禍は「柔と剛」を兼ね備えたリーダーが必要

―― このコロナ禍における必要なリーダーシップとはどのようなものでしょうか。

前野隆司さん「会社経営のあり方は、以前はピラミッド型の統率組織が良いと言われていたんですが、ティール組織という組織論の中では、先の見えない時代には賢いトップだけが考えるよりは、皆が考えて試行錯誤しないと新しい時代に対処できないとされています。まさにカルビーさんもそうで、『私、時短じゃなくても働けます!』とか『単身赴任ってホントに必要ですかね?』と言えるような、一人ひとりが考えて、声を挙げて、改善していく雰囲気づくりというのは、今の時代の経営のあり方として相応しいと思います。
コミュニケーションがとれて、社員もやりがいを感じるので、『しあわせ経営』から見ても妥当ですね。トップダウンがいけないわけではありませんが、柔と剛を臨機応変に使い分けるというのが、このコロナ禍における良いリーダーで、それが幸福度を高める経営といえるのではないでしょうか」
前野教授は「コロナ禍では一人ひとりが考えて、声を挙げて、改善していく経営が相応しい」と言う。
前野教授は「コロナ禍では一人ひとりが考えて、声を挙げて、改善していく経営が相応しい」と言う。
武田雅子さん「なるほど。2020年7月に新しい働き方を提言した『Calbee New Workstyle』の内容も私のアイデアはほとんどなく、社内にすでにあったものや社内からやってほしいと意見があったものを、私がとりまとめただけという感覚です。
新しい働き方をとりまとめるにあたって、4月ごろに社員に任意でZoomの場で集まってもらい意見交換をするワークショップを開催しました。リモートでの大規模ミーティングも、グループディスカッションもすべてが初めてでドキドキだったのですが、結果的にはとても活発な議論と意見交換ができました。早めのタイミングで皆からの意見を聴くことができたので本当によかったと思いましたね」
前野さん「それがまさに創造力なんですよ。前回の『しあわせ経営』で『幸せな社員は、不幸せな社員より創造性が3倍高い』とお話ししましたが、『あ、ここでZoomミーティングしよう』とか『きちんと顔を見て話そう』といった発想が思いつくということが、創造力が高いということなんです。一見当たり前に思えても、なかなか思いつかないし行動できないものです」

円滑なコミュニケーションのための「しあわせな商品」

「リモート飲み会では『otomo pack』持参がカルビーの『スナックコード』です」(カルビーの武田常務)
「リモート飲み会では『otomo pack』持参がカルビーの『スナックコード』です」(カルビーの武田常務)

―― 2020年9月にカルビーが発表した新しい商品ラインナップは、「働く人を幸せにするお菓子」を意識して開発されたとうかがいました。

武田さん「昨年9月に新しいラインナップ『otomo pack(オトモ パック)』を発表しました。机の上に置きやすく、持ち運びに便利なチャック付きのスタンドパック包装になっていて、中身は従来の商品と同じですが、食べやすいひと口サイズで手軽に楽しんでいただけます。仕事や家事などをしながら、ちょっとひと息ついてリラックスする時のお供(オトモ)として選んでいただくことを想定しています。たとえば、『大人のじゃがりこ』は手が汚れないように特殊なコーティングで仕上げているので、仕事しながら食べられます。チャック付きなので、食べる量も自分でコントロールできるのもポイントですね」
前野さん「昨年(2020年)、パーソル総合研究所さんと私で研究した『はたらく人の幸せの7因子』のひとつ、『リフレッシュ因子』(ほっとひと息)に、ぴったりはまっている商品だと思います。手軽に開け閉めできて、持ち運べて他の人と一緒に食べることもできるので、さらにチームワーク因子や他者承認(見てもらえている)因子にもつながります。結局は、人間関係が良好だと幸せだといえるので、コミュニケーションや円滑な人間関係を高める仕組みもあって『幸せな商品』といえるのではないでしょうか」
武田さん「リモート環境にあって、ちょっと食べながらミーティングしようかといった流れになった時にも、ほどよい大きさで持ち運べて便利だということはありますね。実際に、カルビーの役員がZoomでリモート飲み会をした際には、各々がお気に入りの『otomo pack(オトモ パック)』を持参するというのがドレスコードならぬスナックコードでした(笑)」

中小企業ほど幸福度が高い会社が多い!?

まだまだカルビーは変わる!「知らない同僚と話したり、会社に来たくなるようなイベントを仕掛けたり......」(カルビーの武田常務と慶大大学院の前野教授)
まだまだカルビーは変わる!「知らない同僚と話したり、会社に来たくなるようなイベントを仕掛けたり......」(カルビーの武田常務と慶大大学院の前野教授)

―― 今後、働き方や会社のあり方として、さらに充実させたいところはありますか。

武田さん「自宅の中での働き方はなるべく社員自身で工夫してもらいたいと思っていますが、今後、計画的に出社をしたときに、会社がどのような体験を社員に提供できるかというところはいつも考えています。せっかく会社に来ているので、知らない同僚とも一緒に話せる場だったり、会社に来たくなるようなイベントを仕掛けたり、お客様を案内したくなるようなスペースづくりだったりができるといいですよね。
リモート勤務では、雑談する場とかゆるくつながることができるような機会をつくっていきたいですね。すでに趣味のサークルや部活とか会社の福利厚生でサポートしている活動もありますが、こういう仕事と関係のないつながりについても、もっと活性化させるサポートをしたいと思います」
前野さん「幸せな経営や幸せに生きることは、キリがありません。ここまで行けばゴールといったところがないので、いくらでも上を目指せると思います。カルビーさんは大企業の中ではトップクラスの幸せな企業だとは思いますが、もっと幸せになっていくと思います。
私は全国の幸せな企業の視察に行くことがありますが、そうした会社はだいたいが社員数50~100人、多くて数百人くらいの中小企業です。会社が大きな家族のようで、社員は毎日仕事に行って、その会社で働くことが生きがいだと思っている人ばかりなんですよ。ぜひ、カルビーさんには、大企業でも中小企業に負けない幸福度の高い経営を目指せるんだという、お手本になってほしいですね」

(聞き手:戸川明美)


プロフィール

武田雅子(たけだ・まさこ)
カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO 人事総務本部長
1968年東京生まれ。1989年、株式会社クレディセゾン入社。全国のセゾンカウンターでショップマスターを経験後、営業推進部トレーニング課長、戦略人事部長などを経て、2014年人事担当取締役就任。2016年には営業推進事業部トップとして大幅な組織改革を推進。
2018年5月にカルビー株式会社に入社。2019年4月より現職。
2018年 日本の人事部HRアワード個人の部最優秀賞受賞

前野隆司(まえの・たかし)
1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務。博士(工学)。
著書に、「幸せな職場の経営学」(2019年)、「幸福学×経営学」(2018年)、「幸せのメカニズム」(2014年)、「脳はなぜ『心』を作ったのか」(2004年)など多数。
日本機械学会賞(論文)(1999年)、日本ロボット学会論文賞(2003年)、日本バーチャルリアリティー学会論文賞(2007年)などを受賞。専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、イノベーション教育など。