J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

飲酒も多様性の時代 「微アルコール」ビールの登場は日本の飲みニケーションに新風を巻き起こすか?

   コロナ禍で飲酒の世界トレンドが変わりつつある。休肝日を設ける、節制するなど、低アルコールのお酒を選ぶ人が増えたのだ。

   そうしたなか、アサヒビール株式会社がアルコール度数0.5%の「微アルコール」ビールテイスト飲料「アサヒ ビアリー」を2021年3月30日、首都圏や関信越エリアの1都9県で先行発売した。

   健康志向の人、アルコールが苦手な人、酔いたくない人に向けて登場した「微アルコール」ビールは、日本の飲みニケーションを変えることができるのか――。

  • 世界中で「低アル」「ノンアル」ビールが人気(写真は「ノンアルコールビール」の陳列棚)
    世界中で「低アル」「ノンアル」ビールが人気(写真は「ノンアルコールビール」の陳列棚)
  • 世界中で「低アル」「ノンアル」ビールが人気(写真は「ノンアルコールビール」の陳列棚)

海外は「低アル」、日本は「ノンアル」

   じつは、世界的な低アルコール嗜好はコロナ禍前から、欧州では健康志向の若者を中心にスモールビール(アルコール度数2~3%)やモクテルと言われるノンアルコール飲料が、ジワリとヒットしはじめていた。

   低アルコールビール市場は、アルコール度数が0.5% 以下の飲料の売上金額が、2013年に58億ドルだったのに対して18年は80億ドルと、わずか5年で20億ドルも伸ばした=下のグラフ参照

   ビール文化の強いヨーロッパでは、2013年から18年でノンアルコール、低アルコールのビールの売り上げが約1.5倍に増えたとの調査結果(出典:Global Data)もある。

   一方、日本は2007年に改正道路交通法が施行された影響で、「ノンアルコールビール」が主流で、健康系といえばアルコール度数よりも糖質オフ(またはゼロ)に特化した商品を主力に認知度が広がっていった印象がある。

   日本国内のビールのアルコール度数は5%~6%がスタンダードだ。ノンアルコールビールは、ビール業界の自主規制によって国内大手メーカーでは0.00%、低アルコールビールは3~4%未満の度数を指すことが多い。

アルコール分0.5%の炭酸飲料「アサヒ ビアリー」、1都9県で3月30日発売
アルコール分0.5%の炭酸飲料「アサヒ ビアリー」、1都9県で3月30日発売

   アサヒビールが「アサヒ ビアリー」で、0.5%という度数を選択した理由は、コロナ禍で、自宅で飲みすぎても酔いにくい低アルコールビールの需要が増えたことを足掛かりに、日本のビール文化の多様性と新しい市場を開拓する狙いがある。

   そのためにこだわったのがビール本来の味とコクだ。従来、ビールテイスト飲料の製造には、アルコールを生成させず原料を混ぜ合わせて仕上げる「調合法」が用いられることが多いが、「アサヒ ビアリー」では「脱アルコール法」を採用している。

   減圧環境下で低温蒸留しながらアルコールを除去する製法で、基礎となるベースビールをつくり、そこからアルコールのみを抜き取る。発酵させる工程は増えるが、ビール由来の香味を損なうことなく、本格的な味わいに仕上げることができるそうだ。

   アサヒビールでは、この「脱アルコール製法」でつくった「アサヒ ビアリー」など、アルコール度数1%未満のカテゴリーを「微アルコール」と呼び、ノンアルコールと低アルコールの中間にあたる領域で新たな選択肢の提供を目指している。

0.5%が広げるビール文化の多様性

   アサヒビールの「月1 回以上飲酒を行う有職者への飲み物に関する実態把握調査」(768人が対象)によると、5人に1人があえてノンアルコールを選択。ただ、約8 割が物足りなさを感じていることがわかった=下のグラフ参照

   具体的には「従来のノンアルや低アルでは物足りない」、「ビールは飲みたいがアルコールが苦手」、「酔いたくない」、「健康には気を使うがビールを飲みたい」など、いわゆる「本物のビール」を求める人が多かった。

   アサヒビールのマーケティング本部 新価値創造推進部の小野祐花里(おの・ゆかり)副課長は、

「アルコールを選択してこなかったシーン、たとえば自宅ならばゲームや家事などの合間に。またブレインストーミングや創作活動をしながらといった、今までにない新たなシーンで上質なリラックス感を味わってもらいたい」

と話す。

   そういった飲み方の多様性を後押しする取り組みが「スマートドリンキング宣言」だ。さまざまな人の状況や場面における飲み方の選択肢を拡大し、自由で新しい飲みニケーションを受容できる社会の実現を目指す。

   スマートドリンキングや微アルコールをしっかりと定着させるため、2025 年までにアルコール度数 3.5%以下の商品の販売数量構成割合20%を目指しており、カテゴリーや種類を増やすことによって商品やサービスの開発・環境づくりを推進していきたい考えだ。

   3月30日からは、缶ビールなどに含まれる純アルコール量をグラムで表示する取り組みをはじめた。ホームページで、6月までに主要商品のすべての目安を示す予定だ。

   消費者が、どれくらいのアルコール量を摂取したのかがわかりやすくする取り組みで、アサヒビール以外の飲料メーカー大手も、年内にはウェブサイト上でアルコール量のグラム表示を行う予定。

   ちなみに、キリンビールは2024年までにビール類や酎ハイ類の缶自体にアルコール量のグラム表示を目指すと発表している。

   日本は海外に比べて、アルコール文化の多様性が低いようだ。たとえば、ランチにアルコールをたしなむ場面は少なく、ビジネスシーンでアルコール飲料をスタイリッシュにスマートに飲む機会が育っていない。現在、コロナ禍で夜の会食が難しいが、今後コロナ禍が終息してもランチを中心としたビジネス交流が定着する可能性もある。そのお供に、酔いにくい上質なビールが選択される機会は増えてくるはずだ。