J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

勉強したいと思ったら、手元に! 「独学」の百科事典【4月! 決めるスタートダッシュ】

   4月になり、新たな気分で勉強しようと思っている学生や社会人は多いだろう。何かを学ぶのに遅いということはない。そんな人が買い求めているのだろう。700ページを超える、本書「独学大全」が、2020年9月の発売以来、ベストセラーになっている。

   「何を、どう学べばいいか迷ったときの羅針盤」「独学の百科事典」というキャッチフレーズが支持されたようだ。「百科事典」なので、要約することは不可能だが、その輪郭だけでも紹介しよう。

「独学大全」(読書猿著)ダイヤモンド社
  • 本の読み方はいろいろ、たくさんの付箋を付けて……(写真はイメージ)
    本の読み方はいろいろ、たくさんの付箋を付けて……(写真はイメージ)
  • 本の読み方はいろいろ、たくさんの付箋を付けて……(写真はイメージ)

卓抜なネーミングが人気を博す

   著者は匿名の「読書猿」氏。読書が苦手だったが、2008年にブログ「読書猿Classic」を開設。ギリシア時代の古典から最新の論文、個人のTwitter投稿まで、ありとあらゆる知を「独学者の道具箱」「語学の道具箱」などのカテゴリー別にまとめ、独自の視点で紹介し、人気を博してきた。

   昼間は組織人として働きながら、通勤時間と土日を利用して勉学に励んでいる。著書に「アイデア大全」「問題解決大全」(ともにフォレスト出版)がある。

   本書は4部構成になっている。第1部は「なぜ学ぶのか」、第2部は「何を学べばよいか」の技法と情報、第3部は「どのように学ぶ」かについて、読書法、記憶術など、第4部は国語、英語、数学の3分野について、具体的なケーススタディ、という内容だ。

   「55の技法」が紹介されている。その卓抜なネーミングも人気の理由だろう。

   たとえば、「グレー時間クレンジング」。「クズ時間を生まれ変わらせる錬金術」だ。24時間の行動が書き込める表を用意し、時間ごとに行動を書き込む。完全に自由に使える時間を「ホワイト時間」、完全に行動が拘束された時間を「ブラック時間」とし、一部の行動は制限されるが自由にできることもある時間を「グレー時間」とする。

   そうすると、一日の多くが「グレー時間」であることがわかる。「グレー時間」を学習に使えるよう事前準備をするのがコツだ。通勤時間には本を読んだり、音声教材が使えたりする。

本の読み方にもいろいろある

   学びの基本である、本の読み方にもいろいろあることを知り、驚いた。知らずに使っている最速の読書法「転読」、必要なものだけを読み取る「掬読(きくどく)」、文献と対話する「間読」、決まった時間で読み終える「限読」、ここまでがいわゆる「速読」だ。

   ふつうの速度で読む「平読」には、「黙読」、「音読」、「指読」があり、時間をかけてじっくり読む「精読」には、「刻読」や「段落要約」、「筆写」、「注釈」などがあるという。

   この読書法のところで、ハタと思うところがあった。読みながら、必要なところに「しるし」を残していくのが「刻読」の一つの行為である。その効果について著者は、こう書いている。

「しかし、刻読は学習法以上のものである。というのも、テキストを読み、気になるところに線を引き、線を引いた箇所について考え、コメントを残すことは、およそあらゆる思考術に共通する基盤とも言うべき作業であるからだ」

   そこからもう一歩進むと、抜き書きになる。「抜き書きノートは、あなたの生きた知的財産となる」と書いている。

   評者も本にたくさんの付箋を付け、必要な箇所を引用しながら原稿を書いている。原稿を書く以前の読書と言えば、ただ本を読むのに終わり、すぐに内容を忘れることが多かったが、原稿を書くことにより、紹介した本の内容だけでなく、本相互の関係なども頭に残るようになった。

   原稿を書かずとも、抜き書きを作るだけで自分専用のデータベースが作れるだろう。

   時間の使い方や読書法を書いた本なら、これまでもいろいろあった。本書が支持を集めた理由は、脚注に登場する多くの先人たちの存在だろう。孔子、橋本左内、アンリ・ポアンカレ、ミルトン・エリクソン、親鸞、林達夫、川喜田二郎、レイ・ブラッドベリ......。彼らの知恵が、本書の記述の下支えになっているかと思えば、有難みもあるというものだ。

先人たちの知恵が下敷きに

   正直言って、評者はこの本を買ったはいいが、あまりの分厚さに辟易し、読まずにいた。取り上げようと思い、読み始めたら、あまりのわかりやすさに驚くとともに、多くの人に読んでもらいたいという気持ちになった。

   偉い先生が書いた本なら、梅棹忠夫の「知的生産の技術」、川喜田二郎の「KJ法」、渡部昇一の「知的生活の方法」など、ある。本書は匿名の一市民が自分の体験を基に書き上げたところに意義がある。

   最終章は「ある独学者の記録 数学」となっている。プロフィールには、「・高校時代、文系コースを選んで数学を捨てていた私立大学の新入生 ・第一志望には受からず滑り止めだった大学の経済学部に入学した ・数学をやる必要に迫られて「何からやったらいいのだろう」と途方に暮れている」とある。

   そして、「長岡先生の授業が聞ける高校数学の教科書」というテキストと音声ファイル、解答集が付いた本を買い、勉強を進める様子を書いている。次第に問題が解けるようになり、次に「改訂版 経済学で出る数学」にあたっているところで、本文は終わる。

   最近、書店で高校レベルの教科書、参考書を買い求める社会人が多いそうだ。学び直しをする人が増えているということだろう。

   著者はあとがきで、こう書いている。

「この書物の中で、独学は孤学ではないと繰り返し述べてきた。私の独学は、最初は図書館によって、その後加えてインターネットによって、支えられてきた。両者は、独力では決して出会うこともなかった文献や貴重な資料に、そして無数の先人たちが重ねてきた知的営為に、何度も出会う機会を与えてくれた」

   この本を手元に置き、悩んだときは、いつでも開けるようにしたい、と思った。厚さ5センチ以上もあるから、どこにあるかはすぐにわかるし。(渡辺淳悦)

「独学大全」
読書猿著
ダイヤモンド社
3080円(税別)