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日本でDXが進まないのは「失敗」を恐れて慎重なせい?【まだ間に合うDXの基礎知識】(久原健司)

   コロナ禍で、テレワークやオンラインで仕事をする企業が増えてきたこともあり、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が、注目されています。実際に、どの企業も「DX」の推進に躍起です。コロナ禍の収束が見えないなか、一方でDXの広がりは加速度がついているようです。

   しかし、あなたの会社のDXは大丈夫でしょうか? 順調に進んでいますか......。

   ITジャーナリストの久原健司さんに、日本でDXが進まない理由について聞きました。

  • 社長!ホントに DXを理解していますか?
    社長!ホントに DXを理解していますか?
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日本企業のDXは本当に進んでいないのか?

   「世界の企業が取り組むデジタルトランスフォーメーション(DX)の95%は失敗に終わっている」と、スイスのビジネススクールIMDのマイケル・ウェイド教授が2019年9月26日、東京都内で開かれた「デジタル・イノベーション・カンファレンス2019」で明かしています。

   この数字から考えるとDXはベンチャー企業を一社創業するくらいの難易度といっても過言ではありません。

   世界でも95%失敗しているのであれば、日本だってDXは進まないのは当たり前と考えてしまいがちですが、失敗しているということはDXを進めるために企業が積極的に動いているということです。

   日本の場合は、421万企業のうち99.7%を占める日本の中小企業において、DXに対する取り組みができておらず、業務の効率化を行うツールの導入で終わってしまっている企業が多いというところが、私は問題であると考えています。

   進まない理由は、いくつかあります。

・失敗する前提で取り組むことができない
   日本は海外と比べて、何事においても失敗が許容されにくいという風潮があると感じています。欧米では「失敗してもいいからスピードが命」であり、次々と新たな事業が生まれては消えていきます。
   たとえば、これは世界的な巨大IT企業である「GAFAM」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)などがよい例でしょう。10個の挑戦のうち1個当たれば大成功、という考え方です。
   しかし日本企業は、「失敗してはいけない」「必ず一度で成功させよう」という前提で取り組もうとするため、どうしても及び腰で保守的な姿勢が抜けません。
   失敗を未然に防ぐための、何重もの承認フローが存在し、成功の前に取り組みの開始にすら漕ぎ着けられません。
   一般的にIT投資額は、日本では「売上高の1%」を目標にして予算に計上することが良いとされていますが、海外ではIT投資額がもう少し多いデータも出ていますので、経営者側としてしっかり予算を組み、ある程度の失敗は許容して失敗から学ぶといった、チャレンジしていく文化が浸透していく必要があるのではないかと感じています。

社長! DXを理解していますか?

・経営層がDXを本質的に理解していない
   DXは、決して企業活動の単なるデータ化、デジタル化ではありません。デジタライゼーションを通じて、企業のあり方すら変革させることが本来のDXです。
   経営層の理解が、ここに至っていないことが多いことが進んでいない理由であると考えます。経営者がそうであれば、実際に手を動かすことになる社員もDXの本質を理解することができていません。
そんな状態でDXを進めてしまえば、当然ながら途中で止まってしまうのは明白です。
   もちろん、始めはデジタイゼーションによる業務の効率化から始めてもらうのは、まったく問題ありません。しかし、DXで企業のあり方すら変革するためには、自社に対する内向きの視点だけではなく、顧客に向けた外向きの視点が必要で、特にユーザーエクスペリエンスといった、顧客に新しい体験を提供することがポイントになってくると考えます。

・DXを推進するための人材が社内にいない
   当然のことですが、DXの推進に必要な知識やスキルを最初から持った人材が社内にいることとはほとんどありません。すでにいる社員がDXを深く理解し、積極的に進められるようになれれば最高ですが、そう簡単ではありません。
   その場合、日本の企業はDXの実績にある人材を採用すべく動くかもしれませんが、正直、DXを進められるような人材は多くなく、非常にコストもかかってしまうので断念するということが多いのではないでしょうか。
   また、採用ではなくコンサルティング会社に依頼するという選択肢もありますが、こちらも成功するかわからない段階で膨大なコストをかけることを、日本の企業は躊躇してしまいます。その結果、DXは進まないということになります。
   外部からのDX人材だけでは、自社のサービスや既存顧客に対して深い知見がなく、小手先のDXになることが予想されます。企業のあり方すら変革してしまう、本来のDXにならない可能性があります。
   新たに雇用するといった観点でも問題はないのですが、自社のサービスを熟知している既存の社員の中からDX人材を育てていくのも、一つの方法だと考えています。

システムを導入するだけなら、それはDXではない!

・システムの導入がDXのゴールとなっている
   DXを推進するうえで、新たなシステムを導入することも多くなります。これはDXに限りませんが、企業の変革を進める中で、新しいサービスやシステムを勝手に導入して、あとは社員に丸投げという経営層は少なくなくありません。
   丸投げされた社員は何のためにシステムを導入したのか、本当にこれが一番いいのかもよくわからず使い始めますが、結局、単なる手間になってしまうという結果になります。知っておいてほしいのは、システム導入はあくまで「手段」に過ぎないということです。システムを導入するだけなら、それはただのデジタル化であってDXではないのです。
   新しいサービスやシステムに、企業のあり方すら変革させる本来のDXのヒントがある場合があります。新たなシステムを導入することは悪い事ではないのですが、そこを「ゴール」にしてしまうと、本来のDXが進まなくなってしまう可能性が高まります。

   今回は、日本ではDXが進まない理由についてお話させていただきました。進まない理由だけを読んでしまうと、日本でDXが進むということは不可能なのではないかと思われる方もいるのではないでしょうか。

   しかし、そんなことはありません。日本でもDXを進める方法はあると、私は考えています。次回は、私が考える日本でDXを進めるための方法について、お話したいと思います。(久原健司)