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2030年「CO2 46%削減」目標 原発に縛られる政府、再生可能エネルギーは大丈夫か?

   政府は二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を、「2030年度までに13年度比46%削減」とする新たな目標を決定した。

   菅義偉首相は昨年10月、温室効果ガスの排出量を「2050年までに実質ゼロにする」と宣言しており、これに合わせ、途中経過の目標も上積みした。

   ただ、これでも不十分との指摘がある一方、新たな目標の達成は容易ではなく、具体的な措置の裏付けは今後の課題。なかでも、運転中にCO2を排出しない原発の扱いが焦点になる。

  • 再生可能エネルギーでCO2削減!(写真はイメージ)
    再生可能エネルギーでCO2削減!(写真はイメージ)
  • 再生可能エネルギーでCO2削減!(写真はイメージ)

2019年度のCO2削減、13年度比14%しかない

   2021年4月22日開いた政府の地球温暖化対策推進本部(本部長・菅義偉首相)で決め、同日夜に開幕したオンラインによる「気候変動に関する首脳会議(気候変動サミット)」(米国主催)で表明した。推進本部で首相は、「50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と、今後の上積みの可能性にも言及した。

   菅首相が「50年までに実質ゼロにする」と宣言したのが20年10月26日の就任後初の所信表明演説。従来の政府方針である「50年に80%削減」から引き上げたもので、「世界の潮流からは周回遅れ」などと批判はあるが、まずは重要な一歩を踏み出した。

   この新目標に合わせ、2030年時点の「中間目標」を、従来の「13年比26%減」からどこまで高めるかが注目されていた。

   「〇%削減」といっても、もう一つピンとこないので、もう少し噛み砕いた数字で見てみよう。

   環境省によると、19年度の国内の排出総量は、CO2換算で12億1200万トン。これは13年度比では14%減になる。46%減を実現させるためにはあと10年で32%分積み増さなければならず、19年度より年間約4億5000万トン、さらに削減しなければならない。乗用車や貨物車、航空など国内の「運輸部門」からの年間総排出量は19年度で2億600万トンになり、4億5000万トンという数字は、その2倍以上だから、その大きさがわかるだろう。

   こうした数字の策定では、国内外の世論にも押され高めの数字を主張する環境省と、所管業界の実情を踏まえ実現可能性な数字を訴える経済産業省(他に国土交通省なども)が、激しい議論を戦わせてきた。今回も、経産省などは「40%削減」までと主張していたとされ、最後は菅首相がトップダウンで決めた。

小泉環境相「46%がおぼろげながら浮かんできた」

   小泉進次郎環境相は4月23日のTBS「ニュース23」に出演し、46%という目標について、「くっきりとした姿が見えているわけではないけど、おぼろげながら、浮かんできたんです。46という数字が」と説明してネットなどで「炎上」したように、確固たる積み上げの数字ではないということだ。

   よく言えば思い切った政治決断、悪く言えば裏付けに乏しい数字ということになるが、いずれにせよ、国際的な動向を無視できなかったのは間違いない。

   バイデン米大統領はトランプ前政権が一方的に離脱した地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰を就任当日に決め、今回のサミットも主催したように、温暖化防止を重要な政策の柱に掲げ、サミット初日、30年に50~52%減(05年比)と打ち出した。欧州連合(EU)は20年、30年の目標を55%減(1990年比)と掲げ、英国も20日、35年までに78%減(同)という高い目標を公表している。

   各国政府に加え、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(18)に代表される世界の市民社会からもCO2削減への取り組み強化を迫られる。ドイツなどの研究者らで構成する国際NGO「クライメート・アクション・トラッカー」は3月、産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えるとする「パリ協定」の目標達成には、日本は13年度比62%削減する必要があるとする報告書を公表している。こうした圧力もあって、今回の削減率引き上げになった。

福井県知事が原発再稼働に同意

   では、目標を達成していくために、何が必要か。メニューは明らかだ。(1)火力発電、とりわけ石炭火力を減らす(2)再生可能エネルギーを増やす(3)省エネ、CO2回収・貯蔵技術、CO2を出さない新たな発電など技術革新を進める――など。原子力発電の扱いをめぐっては世論が割れる。

   具体的に焦点になるのが、温室効果ガスの排出量の約4割を占める電力だ。その電源構成は、19年度で火力75.7%、再生エネルギー18.1%、原子力6.2%で、火力の半分近くが石炭だ。

   現行のエネルギー基本計画(18年策定)は、30年度の電源構成を、再生エネルギー22~24%、原発20~22%、火力56%としており、これがCO2排出量を「30年に26%減」のこれまでの目標の「裏付け」。「46%減」にするためには、電源構成も見直す必要があり、政府は主要7か国首脳会議(G7サミット)が開かれる6月に、基本計画の改定案をまとめる方針だ。

   梶山弘志経産相は4月23日の記者会見で「再生エネルギーを最大限伸ばしていく」と述べた。今のところ、政府内では再生エネの構成比を30%台後半に、現行計画より10ポイント以上上乗せする方向と伝えられる。

   原発をめぐっては、現行計画の構成比20~22%を維持する方向で議論されている。自民党内では原発推進を目指す議員連盟が安倍晋三前首相を顧問に迎え、休止中の原発の再稼働のほか、新増設やリプレース(建て替え)も訴えているなど、活動を活発化。折しも、運転開始から40年を超える原発としては初めて、福井県内の3基(美浜3号機、高浜1、2号機)について、同県の杉本達治知事が4月28日、再稼働に同意すると表明した。

   ただ、他の休止中の原発は活断層があったり、福島第一原子力発電所の事故を受けた規制強化に伴う工事が遅れたりするなど、簡単に再稼働できるわけではなく、2030年度に原発の構成比20%達成は困難との見方が強い。

   いずれにせよ、再生可能エネルギーの比率を飛躍的に高める政策が最大のポイントになるのは間違いない。(ジャーナリスト 岸井雄作)