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動き出した地銀 大再編の呼び水になるか、特例法が後押し

   地方銀行の再編の動きが再び活発になってきた。

   主役は大都市圏以外を地盤とする地銀だ。人口減少で地域経済が縮小していても、いまだに100行近くある地銀は「数が多すぎる」(菅義偉首相)として政府が再編を促している。

  • 菅義偉首相の肝いりで進む地銀再編……
    菅義偉首相の肝いりで進む地銀再編……
  • 菅義偉首相の肝いりで進む地銀再編……

みちのく銀に福邦銀、重荷になった公的資金

   上場企業の決算発表が集中した2021年5月14日、地銀再編を巡って青森県と福井県で動きがあった。

   青森県では、いずれも青森市に本店を置く青森銀行とみちのく銀行が合併に向けた経営統合の協議を始めると発表した。2022年4月に共同で持ち株会社を設立して両行が傘下に入り、2024年4月に合併する方針だという。

   両行の頭取は青森市内でそろって記者会見に臨み、みちのく銀行の藤沢貴之頭取は「青森銀行とは地域をよりよくしたいという思いが同じだ。(統合するのが)ベストと判断した」と語った。

   青森県内に本店を置く地銀は両行のみで、他は信用金庫と信用組合があるのみ。両行はいずれも県内を地盤としており、老舗企業や自治体を主な取引先としている青森銀行に対して、みちのく銀行は中小企業の顧客が多い。一定の棲み分けはできていたが、地元経済は新幹線延伸後も縮小傾向が続き、両行は19年から店舗の集約や事務の共通化に向けて協議を進めていた。今回の経営統合は、その議論の延長線上にあった。

   みちのく銀行に注入されている200億円の公的資金も統合の遠因となった。返済期限が24年に迫っており、これまで積み上げてきた資金で返済できるメドは立っているが、返済後のビジョンを描きにくいのが実情だった。返済に向けては両行で協議するという。

   福井県では、福井銀行が同じ県内を地盤とする福邦銀行を2021年10月1日付で子会社にすると発表した。福井銀行は福邦銀行株の52%を取得する。両行は20年3月に包括連携を締結。21年1月には資本提携に基本合意していた。

   当面は両行を存続しながら、本部機能や店舗の統合を進めるという。福邦銀行も公的資金60億円の返済期限が24年に迫っていた。

あの手この手で地銀再編を後押し

   こうした地銀再編の動きを後押ししているのが、20年11月に施行された、地銀の経営統合に独占禁止法を適用しない特例法だ。

   青森銀行とみちのく銀行をメインバンクとする青森県内企業を合わせると、全体の7割に達する。福井県の2行も6割近い。シェアが高まると借りる側に不利益が生じる恐れがあるため、公正取引委員会は同一エリアの地銀の統合に後ろ向きだったが、この特例法の施行で経営統合に向けたハードルが下がった。

   さらに、地銀の合併・統合を補助金で後押しする法律が7月に施行される予定で、日本銀行は再編銀行の当座預金に金利を上乗せする新制度を始めて後押しする。こうして菅首相が旗を振る地銀再編を推し進める制度が整いつつあり、菅首相と親しい北尾吉孝社長率いるSBIホールディングスによる「地銀連合」にも参加が相次いでいる。

   コロナ禍で、企業は手持ち資金を確保しようと動き、多くの地銀が融資件数を増やしている。だが、感染の収束が遅れて経営が傾く融資先が増えれば、貸した側の地銀の経営も大きく傷付きかねない。そうなってから再編に動いても遅いということか。

   銀行の数だけ減らしても地域経済が良くなるわけではない――。そんな「正論」も吹き飛ばさんばかりに、菅政権の地銀への圧力は強まりそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)