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成長する会社には多様な人材が必要 I&D実現にNECが実施した施策とは?(NEC 人材組織開発部 杉崎真美さん)

   IT大手の日本電気株式会社(NEC)は、社員の勤続年数、平均年齢で男女差がほとんどなく、新入社員の離職率も低く、働きやすいとの評価が高い。最近では、日本人男性中心のモノカルチャー的風土から、多様性や社員の主体性を重んじる企業文化の醸成に舵を切り、「働きやすさ」から「働きがい」へと意識面での変革も進められているそうだ。

   しかし、そんなNECでも女性活躍の推進では、女性のキャリア志向や管理職登用といった面が課題になっているという。NEC人材組織開発部シニアマネージャーでInclusion & Diversity推進を担当する杉崎真美(すぎさき・まみ)さんに、現在の取り組みについて聞いた。

  • Inclusion & Diversity推進を担当する杉崎真美さんはNECにシステムエンジニアとして入社した
    Inclusion & Diversity推進を担当する杉崎真美さんはNECにシステムエンジニアとして入社した
  • Inclusion & Diversity推進を担当する杉崎真美さんはNECにシステムエンジニアとして入社した

育児休職後の復帰社員はほぼ100%

―― ダイバーシティやワークライフバランスの取り組みが進んでいます。現状を教えてください。

杉崎真美さん「当社の特徴として、正社員の平均年齢、勤続年数、給与で男女の差がなく、新入社員の3年後の離職率も約3%と低い傾向にあります。これは、育児時短勤務制度や育児休業の延長の制度など、出産や育児を経ながらも仕事を続けることができ、男女ともに働きやすい環境や制度を、国の制度に先駆けて導入してきたことがあると思います。実際に、2020年度に育児休職を終えて復職した社員の比率はほぼ100%ですし、男性の育休取得者も増えてきています」

―― 子育て支援のほかに導入された制度はありますか。

杉崎さん「2020年には『カフェテリアプラン』というポイント制で選択型の福利厚生制度を導入しました。社員は、利用したいサービスを自ら選び、付与されたポイントを使って利用することが可能になりました。子どものシッターサービスや応援に来てくれる祖父母の交通費に使う社員もいれば、親の介護用品レンタルなどに利用する社員もいて、一律同じではなく、社員自らが選択できるような制度になっています。ほかにも、自分で働く場所や時間をデザインし、それにあった服装を選ぶ『ドレスコードフリー』の推進など、より社員の主体性を重んじる制度や企業風土に変わりつつあります。テレワーク率も70%以上と高く、時短勤務を選択しなくてもよい社員が増えました。」

自らキャリアをデザインし、挑戦できる企業風土をつくる

杉崎真美さんは「自らがキャリアについて考え、希望して自由に異動できる制度で人事系の部門に異動した」と話す
杉崎真美さんは「自らがキャリアについて考え、希望して自由に異動できる制度で人事系の部門に異動した」と話す

―― 伝統ある大手メーカー企業で、主体性を重んじる社風はどのように創られてきたのでしょうか。

杉崎さん「一つには、2018年にカルチャー変革本部が立ち上がり、変革をリードする役員を外部から招聘したことがあります。このカルチャー変革の3つの柱である『人事制度改革』『コミュニケーション改革』『働き方改革』の推進が、社員の意識を変えるきっかけとなっています。
たとえば人事制度改革では、定期異動ではなく、自らがキャリアについて考え、希望して自由に異動できる制度ができました。私もこの制度を使った一人で、1995年の入社以来、SE職やマーケティング部門で働いてきましたが、産休・育休などを経て、2019年に自ら手を挙げて人事系の部門に異動しました。『働き方改革』ではテレワークはもちろんのこと、オフィスフロアのリノベーションや、各事業場にコワーキングスペースが完成しました」

―― マーケティング系から人事系部門のInclusion & Diversity担当という、大きなキャリア転換をされたのは、どのような経緯があったのでしょうか。

杉崎さん「2004年に一人目、2006年に二人目の子どもを出産し、併せて約4年間の産休・育休をとりました。復職後は、商品やサービスのマーケティングや販売促進、人材育成や新規事業企画なども担当しました。新規事業開発の人材育成を担当していた時に『同じ顔ぶれのようなメンバーばかりで話していてもイノベーションは生まれない』と実感することが何度かありました。『会社の成長には、もっと多様な人材が集まることが必要だ』と強く感じた経験でした。
もう一つは、私自身が、母として働く中で『無理せず仕事と家庭を両立して働けたらいい』、『両立には現在のポジションが限界だから、キャリアップはしなくていい』という『マミートラック』に、無意識のうちに乗りかかっていたことに気が付いたことがあります。その当時は課長クラスでしたが、自分の気持ちと向き合ったときに、『現状維持で本当に良いのか?』と思いを新たにしました。人事への異動という挑戦の背景には、『以前の私のような思いを、これからの若い世代にはさせたくない』と思ったことも大きかったですね」

トップダウンとボトムアップの「両輪」でI&Dを実現

オフィスフロアのリノベーションや、各事業場へのコワーキングスペース設置が進む
オフィスフロアのリノベーションや、各事業場へのコワーキングスペース設置が進む

―― 女性の登用や活躍についての現状と数値目標について教えてください。

杉崎さん「当社は女性登用という面では改善の余地が大きいと思っています。IT業界という特性もあり、従業員全体における女性の割合は2021年4月時点で22%、管理職に占める女性の割合は7%とまだ低いのが現状です。これを2025年度までに女性の従業員比率を30%、女性の管理職比率を20%、役員に占める女性・外国人比率を20%にする、という非常に難易度の高い目標を掲げています」

―― 目標達成への具体的な施策はありますか。

杉崎さん「社内での登用を積極的に進めるのはもちろんのことですが、採用の強化を図ることも考えています。新卒もキャリア採用もですが、技術系人材はどうしても男性が多くなってしまいがちなので、いわゆる理系女子や女性の採用も積極的に進めていきたいと考えています。同時に、迎え入れる職場側の意識も変えていかなければいけません。管理職へのアンコンシャスバイアス研修や、多様な人材に対するマネジメント研修も強化していく必要があります」

―― I&Dを一層進めるために、新たな取り組みも始めたとのことですが......。

杉崎さん「2021年4月から、人事部門とコミュニケーション部門横断のI&D変革チームを立ち上げました。先日、このI&D変革チームが主体となり、社長とCHRO (チーフヒューマンリソーシズオフィサー)、人事部門トップを委員とし、副会長とシニアポジションの女性たちをアドバイザーに迎えて、第1回I&D推進委員会を開き、現状の課題について共有しました。こうした取り組みをはじめ、会社全体にI&Dが浸透し、多様な社員がビジネス成長に向けて持てる力を最大限発揮できる職場環境づくりを進めたいと考えています。 最近では、女性の部長や事業部長が、自発的に部下の女性たちに声がけをして、数名でキャリアについての会話の機会を作るなど、女性社員の中での草の根的な動きも活発になりつつあります。NECは約2万人の社員を有するので、トップダウンでの推進にも一定の時間がかかりますが、こうしたボトムアップとトップダウンの取り組みを合わせて、Inclusion & Diversity推進の大きな流れを作っていけたらと思っています」

(聞き手 戸川明美)


プロフィール
杉崎真美(すぎさき・まみ)
NEC 人材組織開発部シニアマネージャー
大学院卒業後、NECにSEとして入社。50社近くのデータウェアハウスシステム構築や分析コンサルティングなどを経験。その後、マーケティング部門、新事業開発プロセス設計およびDX人材育成に従事。その後、人事部門で社内のI&D推進に携わる。2019年10月から現職。