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「専業主婦がイヤなら離婚」夫に言われて別れたバリキャリ女性 「愛か、仕事か」投稿が炎上! 専門家に聞くと...

   「専業主婦がイヤなら離婚だ!」

   夫にそう言われた、働くことが大好きだった29歳の女性が離婚を選んだ。

   バリキャリ生活を捨てて結婚したが、「子どもが巣立つまでは、母親は育児と家事に専念するべきだ」という思想の持ち主の夫は、まだ子どもも生まれていないのに、パート勤務さえ許さなかった。

   そんな夫を、

「私は夫を愛しています。忘れることができるでしょうか...」

   という女性の投稿が大炎上している。

   「今どき信じられない。離婚して正解」という応援エールと、「私は仕事より夫を選びました」という冷ややかな意見と......。専門家に聞いた。

  • 「専業主婦がイヤなら離婚だ」と決定的な衝突に(写真はイメージ)
    「専業主婦がイヤなら離婚だ」と決定的な衝突に(写真はイメージ)
  • 「専業主婦がイヤなら離婚だ」と決定的な衝突に(写真はイメージ)

「子どもを保育園に入れるのはもってのほか」

   話題になっているのは、女性向けのサイト「発言小町」(2021年10月20日付)に載った「専業主婦ができないことによる離婚」という投稿だ。

「もうすぐ30になる女です。結婚2年弱で、離婚が決まりました。理由は夫や義両親がパートなども禁止して専業主婦を望んだこと。夫のことは好きだったので、大好きだった仕事を手放し、家に入っていました。どうしても物足りなく感じてしまったことです。
夫や義実家は、家事は100%妻の仕事という思想なので、家事をすべてこなし、夕飯を作って夫の帰りを待ち、空き時間は習い事などで外との関わりを持とうとしました。しかし大学を出てから、かなりバリバリ働いていたので、どうしても物足りなさがなくなりませんでした」

   学生時代の友人たちは結婚や出産をしても復職して第一線で活躍しており、仕事の話をしているのを聞くと寂しさを覚えて、仕事をして充実していた結婚前のほうが幸せだったのではないかと考えてしまうのだった。

   そして、「フルタイムではなくても仕事に出たい」と伝えたが、夫は「専業主婦ができないなら離婚だ」となってしまった。夫のことは好きなので、とても寂しく、つらい選択だが、離婚という選択を受け入れたという。「時間が経てば寂しさはなくなるのだろうか」と訴えている。

「保育園に子どもを預けるなどもってのほか」と言われた(写真はイメージ)
「保育園に子どもを預けるなどもってのほか」と言われた(写真はイメージ)

   ちなみに、夫が専業主婦を望むのは、こんな理由からだという。

「これから子ども作ろうという段階にいるが、自分がかなり激務のため家事・育児を手伝えない。子どもを保育園に入れるのはもってのほか。母親は子どもが巣立つまで家事・育児に専念するのが子どものためだ。義両親がまったく同じことを言っていたので、両親に影響を受けた思想なのだと思います」

ということだった。

「籠の鳥となり、毎日夫のために歌って過ごしますか」

   この投稿に対しては、「今どき信じられない古い考え方!」という怒りの声が殺到した。

「妻は家電製品じゃありません(笑)。つまらない人とこの先過ごして、自分もつまらない半世紀を送りますか? 籠の鳥になって、毎日夫との生活だけを歌って過ごしますか? 夫にとって完璧な家政婦になりたいですか? この先、パートナーとして、『明日も一緒に頑張ってみようよ』と言い合える人が待っていますよ」
「新しい環境に移れば新しい出会いがあります。明けない夜はないのです。バリバリのキャリアウーマン格好いいですよ。そこに惚れてくれる男性がきっといます。出会えます」
「さっさと離婚して正解です。女は家事育児だけしろ! そんな人と、人生共にするなんて無理。女性の自由と尊敬を奪う、かなりのモラハラですよ。私も専業主婦にはなりたくない。仕事が楽しいし、毎日毎日大変だけど、学ぶことだらけ、刺激だらけ。仕事を奪われたらウツになりそう」
「夫は一緒にいたからって、あなたを愛するようにはなりません。夫が欲しているのは世間体を保つことと、家政婦さん代わりになるだけの妻です。妻を道具程度にしか考えてない人と一緒にいたら寂しいのは当たり前。さあ、一人に戻ってまたバリバリ働きましょう!」

   一方、投稿者の夫と同じ考えを持つ男性が意外に多いのか、「私も同じ経験をした」という声がいくつか寄せられた。

「私はそれで最初の離婚をしました。子どももいましたが、女性のキャリア形成にまだ理解が少ない時代でしたから仕方がなかったと思っています。現在は再婚もして、仕事も家庭も小忙しく動いています。仕事に復帰して頑張れば頑張るほど『寂しい』なんて言っている暇がなくなりますよ。自分の人生ですから、どうか悔いなき選択をなさってくださいね」

「仕事はすぐ見つかるが、伴侶はすぐに見つからない」

専業主婦なんて続けたくない(写真はイメージ)
専業主婦なんて続けたくない(写真はイメージ)

   投稿者の夫の考え方に理解を示す女性も少なくなかった。「私は仕事より夫を選択した」「専業主婦になったらいかが」というアドバイスだ。

「不思議ですね。専業主婦希望の妻には働けという夫、バリバリ働きたいという妻には専業主婦でいいという夫。このような組み合わせの夫婦のなんと多いことか。だからといって離婚は、極端な選択です。仕事はすぐ見つかるかもですが、伴侶は次に見つかるとは言い切れません。仕事をしたいがために大切な何かを失うような気がします」
「私は仕事よりも夫との人生を選びました。結果、キャリアは失ったけれど、自分で決めたことだから後悔していません。彼との生活のほうがかけがえのないものと感じたからです。人生ではすべては得られないのは普通ですよね」

   今回の「『専業主婦にならないと離婚だ』と夫に言われ、離婚しました」という投稿を巡る論争について、J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部は、女性の働き方に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに聞いた。

   ――この投稿と回答者たちの意見を読んで、率直にどのような感想を持ちましたか。

川上敬太郎さん「夫婦のあるべき姿や結婚観は人それぞれなのだと思いました。投稿者さんと夫との間にも違いがあり、回答者さんたちもそれぞれ異なるイメージをお持ちのようです。その違いは時に、婚姻関係を解消しなければならないほど大きな影響を及ぼすことがあるのだと感じました」

「主婦には『社会と関わりたい』という純粋な思いがある」

   ――この論争の背景には、働きたいのに専業主婦にさせられる問題がありますが、川上さんが研究顧問をされている、働く主婦層を支援する『しゅふJOB総研』で、今回のテーマに関する内容の調査をしたことがありますか。

川上さん「少し違う観点になりますが、主婦が働く動機について調査したことがあります。
参考リンク:「主婦が働く動機とは? ~しゅふJOB総研総研調べ~ 今後の生活が不安 72.8% 年代別で違い。主婦が働く理由ランキングの結果は...?」( 2016年7月27日付)

主婦が働く理由は年代別でかなり特徴があります。たとえば、20代・30代では『子供の教育費のため』など収入面の理由が1位ですが、50代では5位までに下がります。一方、『社会と関わり視野を広げたいため』という生きがいの面の理由は、20代・30代では3~4位ですが、50代では1位になっています。
アンケート結果からは、多くの主婦層の意識の根底には『社会と関わり視野を広げたい』という純粋な思いがあり、年を経るとともにその思いがより強い欲求となって表れてくるように見受けられます。
投稿者さんの場合は、収入面を動機として働く人が多い世代であり、夫としては妻が働くことで、甲斐性がないような印象を世間に与えてしまうように感じたのかもしれません」

   ――夫の考え方は、「子どもを保育園に入れるのはもってのほか」「母親は子どもが巣立つまで家事・育児をするべきだ」というもので、義両親も含めてかなり古風です。「今どき信じられない」という批判の意見が多いです。

川上さん「私も個人的には相容れませんが、それはそれで夫や義両親の価値観や考え方として尊重されるべきなのだろうと思います。古風であること自体は決して悪いことではないはずです。しかし、保育園や子育てに対する誤解や偏見を持たれているようであれば、事実を冷静に確認することが必要でしょう」

   ――「自分も同じ体験をした」という女性がけっこう多くいました。夫と同じ考えの人が多いということですが、どう思いますか。

川上さん「夫や義両親のような考え方の人は、時の移り変わりと共に少なくなってはいるのだと感じます。女性活躍推進が叫ばれ、実際に社会のさまざまなシーンで活躍する女性が増えるなかで、『専業主婦しか認めない』という考え方は、現実社会の中で、実態との乖離がどんどん大きくなっていくでしょう」

「仕事というアイデンティティを手に入れた」

バリバリ働いていた頃は幸せだった(写真はイメージ)
バリバリ働いていた頃は幸せだった(写真はイメージ)

   ―― 一方、女性の側でも夫の考え方に同調して、「私も仕事より夫を選んだ」と離婚した投稿者を批判する女性も少なからずいました。これは、どういうことでしょうか。

川上さん「長く連れ添ったご夫婦でも、相手のすべてが好きで一緒にいるということは稀だと思います。お互いに好きなところも好きでないところもあり、それらをすべて包摂して受け入れて一緒にいるのではないでしょうか。
しかし、どうしても受け入れられないこともあるはずで、投稿者さんと夫の間にでは、『専業主婦しか認めない』という考え方が、お互いにどうしても受け入れられないことでした。一方で、回答者の中には『専業主婦しか認めない』という考え方を受け入れられる女性もいるということなのだと思います」

   ――投稿者は、結局、夫を愛しながらも別れましたが、川上さんなら投稿者に対して今後の生き方、仕事との向き合い方についてどうアドバイスしますか。

川上さん「大切なことは、投稿者さん自身が自らの意思で決断したことです。誰かに無理やり引き裂かれたのはなく、考え抜いた末に自らの意思で、早い段階で決断できたからこそできることがあると思います。投稿者さんは、今回の経験を通じて少なくとも3つのことを確認できました。
1つ目は、仕事に対する思いです。投稿者さんご自身にとって、仕事をすることはアイデンティティと言っても良いほど大切なものだと、改めて気づくことができました。これからの人生の軸が何かを確認できたことは、人生をより充実させる上でとても大きな発見です。
2つ目は、今後また結婚の機会が訪れた時に、仕事に対する考え方を共有できる相手かどうかが重要な判断ポイントになると確認できたはずです。
3つ目は、考え方に違いはあったとしても、今の夫を大切に思うことができていることです。離婚という大きな決断をした一方で、憎んだり、嫌いになったりしないままでいられることは、憎しみや嫌悪を持ち続けるよりも、ずっと素晴らしいことなのではないでしょうか」

   ――なるほど。どれも大切なことばかりですね。今回の論争で特に強調しておきたいことがありますか。

川上さん「仕事に対する考え方は、人それぞれ違って当然だと思います。しかし、夫婦間で、どちらかが一方的な考えを押し付けるような関係性が生じてしまうと、その束縛によって、人は能力を発揮する機会や持てる可能性を失うことになります。
投稿者さんのように仕事がしたいのにさせてもらえない場合では、仕事を通じて花開くかもしれない能力発揮の機会を失うことになります。逆に、不必要に働くことを強要され、家事や育児に専念したいのにその機会が得られないというケースもあるかもしれません。
夫婦関係に限ったことではありませんが、話し合いの余地もなく、一方的な考えの押し付けによって人生が束縛されてしまうのは、決して健全な関係性とは言えないのではないでしょうか」

(福田和郎)