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過去最多の6211人が立候補!女性は3割を越え、若返りも進む ードイツ総選挙を数字で振り返る【2】(高橋萌)

   また来るだろうと思ってはいましたが、想像以上の大波がやってきました。

   2021年11月18日、ドイツの新規陽性者数がついに6万5000人を突破し、過去最多を更新!

   9月に行われた連邦議会選挙の後、政治的空白が生まれたドイツを新型コロナウイルスが容赦なく襲っています。総選挙の投開票が行われた9月26日の直前には、約6500人と新規陽性者数が報告されていたので、この間に10倍も膨れ上がったことになります。

   街ではクリスマスマーケットの準備が進み、あちこちで屋台が立ち始めた矢先のことです。南部を中心に、各地でクリスマスマーケット中止が発表され、一度設置した会場を撤去しているところも。必要な措置と頭では理解しつつも、人々の落胆と戸惑い、社会の分断は深まるばかりです。

   疫病や自然災害に相次いで見舞われる中、政治がいかに生活と密接に関わっているかをまざまざと思い知らされ、ドイツでは選挙への関心が近年で一番の高まりを見せました。前回は、「選挙権」に焦点を当て、投票率と有権者から2021年のドイツ総選挙を振り返ったので、今回は「被選挙権」を行使した候補者に注目してみましょう。

  • 2021年ドイツ総選挙の大型ポスター。運転中の有権者にアピールするため交通量の多い通り沿いに設置される。ドイツでは街宣車での選挙運動は見たことがない。
    2021年ドイツ総選挙の大型ポスター。運転中の有権者にアピールするため交通量の多い通り沿いに設置される。ドイツでは街宣車での選挙運動は見たことがない。
  • 2021年ドイツ総選挙の大型ポスター。運転中の有権者にアピールするため交通量の多い通り沿いに設置される。ドイツでは街宣車での選挙運動は見たことがない。

若者や女性が増加、候補者が過去最多の6000人超

   小選挙区299席、比例代表299席の合計598議席をめぐり、今回の立候補したのは47の政党から6211人。前回((2017年、4827人)から大幅に増加し、連邦議会選挙としては過去最多の人数となりました。

   同じく2021年秋に投開票された日本の総選挙(衆院選、定数465人)では1015人が立候補。この数字は、小選挙区制が導入された1996年の衆院選以降で最少だったそうです。

   この背景をひと言で説明するのには無理がありますが、日本とドイツの違いの一つに「供託金」の有無があります。

   日本では、衆院選の小選挙区に立候補するには300万円、比例代表に立候補するのに600万円を供託金として国に預けることになっています。そして、選挙結果が有効投票総数の10%に満たない場合は全額が没収されてしまいます。

   売名目的での立候補などを避けるための制度だそうですが、これはかなりハードルが高いですね。政党からのサポート、もしくは無所属なら相当の覚悟が必要です。

   一方、ドイツに供託金はありません。必要なのは、各選挙区で行われる党の集会で選出されることです。候補者を選ぶ方法も無記名投票を採用し、党内における民主主義を徹底しています。

   2021年、ドイツの総選挙に立候補した人の平均年齢は46歳。日本の総選挙の候補者の平均年齢が54.2歳だったので、その差は約8歳です。

   25歳以下の候補者は471人にのぼり、最年少候補者はカイ・ファクラー氏(自由民主党=FDP)、ミュンヘンの大学で法学を学ぶ19歳は今回、残念ながら当選とはなりませんでしたが、17歳でFDPに入党した彼のキャリアはまだまだ始まったばかりです。

   そして、選挙の結果、31歳以下の議員70人が誕生し、そのうち6人は25歳以下の議員です。

2021年ドイツ総選挙、当選者の生まれ年(政党別)。社民党(SPD)、キリスト教民主同盟(CDU)、緑の党(GR?NE)、自由民主党(FDP)、ドイツのための選択肢(AfD)、キリスト教社会同盟(CSU)、左派党(DIE LINKE)、その他
2021年ドイツ総選挙、当選者の生まれ年(政党別)。社民党(SPD)、キリスト教民主同盟(CDU)、緑の党(GR?NE)、自由民主党(FDP)、ドイツのための選択肢(AfD)、キリスト教社会同盟(CSU)、左派党(DIE LINKE)、その他

「私たちの声を代弁してくれる候補者はいるかな?」

   女性の政治参加も進み、全候補者における女性の割合は33%で過去最多。女性候補者の割合が一番多かったのは緑の党で、その数は54%とついに半数超えました。

   当選した女性の割合は35%に上り、前回(2017年)の31%を上回り、女性が一番多く当選した2013年の36.3%という数字に迫りました。

ドイツ連邦議会、議員の性別の割合(1949年?2021年)。濃い青:小選挙区・男性、薄い青:比例代表・男性、オレンジ:小選挙区・女性、黄色:比例代表・女性
ドイツ連邦議会、議員の性別の割合(1949年?2021年)。濃い青:小選挙区・男性、薄い青:比例代表・男性、オレンジ:小選挙区・女性、黄色:比例代表・女性

   候補者の職業の多様性も広がりました。伝統的な弁護士や経済学者、経営者といった職業のみならず、教師や看護師が候補者の職業の上位に入り、386人の学生、17人の主婦も立候補しました。

   選挙は、自分の「声」を代弁してくれる人を選ぶ場なんだと、ドイツの候補者の背景を追いながら、基本に立ち返る思いがしました。

   「政治家の先生に庶民の痛みは分からない」ではなく、同じような生活の悩みや問題意識を持つ同年代や同性、同業者の立候補者がいたら、日本でも選挙がもっと身近になるんじゃないか......。

   ドイツにおいてもシルバー・デモクラシーへの危機感を持つ若い世代は多く、今回の総選挙も若年層にフェアな結果ではなかったという声もあります。

   それでも、投票率76.6%。1980年以降に生まれた議員(41歳以下)が3割を超えているという数字に一筋の希望を感じました。

(高橋萌)