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「失敗は成功のもと」と言うが、世界的企業の失敗の数々

   NHKの異色の経済番組「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」の第2回が、先月(2021年11月)末に放送された。総合楽器メーカー、ヤマハの半導体製造にかかわる過去の失敗を取り上げていた。あまり知られたくない自社の「黒歴史」の取材に協力した同社の度量の大きさに感心した。

   本書「世界失敗製品図鑑」は、世界的な規模で事業や製品・サービスの失敗を取り上げた本である。公開情報をもとに遠慮なく切り込んでいる。

   しかし、「失敗は必ずしも避けるべきではない」という前向きの姿勢で書かれているので、読んでいて気持ちがいい。有名な大企業にも失敗があったことを知ると、たいがいの失敗は許されるような気持ちになるかもしれない。

「世界失敗製品図鑑」(荒木博行著)日経BP
  • なぜ…… どうして…… 世界的企業も失敗を繰り返していた(写真はイメージ)
    なぜ…… どうして…… 世界的企業も失敗を繰り返していた(写真はイメージ)
  • なぜ…… どうして…… 世界的企業も失敗を繰り返していた(写真はイメージ)

GAFAMだって失敗した

   アップル、グーグル、トヨタ自動車などグローバル企業の「失敗」20例を取り上げている。著者の荒木博行さんは、株式会社学びデザイン代表取締役社長。住友商事、グロービスを経て、同社を設立。「世界『倒産』図鑑」などの著書がある。

   そう言えば、こんな製品やサービスがあったなあ、という感慨を持つ人も多いだろう。いつま間にか消えてしまったが、「なるほど、こういうことだったのか」と失敗の原因を納得するに違いない。

   失敗から「ユーザー視点」「競争ルール」「社内不全」「大きな力学」を、それぞれ学ぶという4つのパートからなる。

   今をときめく「GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック=現メタ、アップル、マイクロソフト」の失敗例も登場する。グーグルが2011年に立ち上げたグーグルプラスと名付けたSNSは、フェイスブックに対抗するものとして一時、存在感を高めたが、グーグルプラスのアカウントがないと、Gmailが使えないようにするなどの施策がユーザーの反発を買い、伸び悩んだ。

   2018年に個人情報の管理体制が問題になり、19年に閉鎖された。荒木さんは「グーグルにとってはSNSサービスを始める必然性があり、明確な意図があった。その意図が強かったこそ、失敗したという皮肉なストーリー」と書いている。フェイスブックから乗り換えてまでグーグルに貢献する必要もない、とユーザーは冷めた目で見ていたのだ。

   アマゾンも17年にスマートフォン「ファイアフォン」を発売した。カメラでDVDや書籍の表紙を撮影することで購入できるため、「電話もできる携帯レジ端末」と表現された。しかし、ほとんど話題にならず、わずか1年で撤退した。買い物機能はスマートフォンの多くの機能のうちの一部分でしかなく、ユーザーにとって重要な機能ではなかったのだ。「自社視点で描く未来」に偏りすぎた失敗だった、としている。

   マイクロソフトのウィンドウズフォンは「初期段階の出遅れを挽回できず失敗」、任天堂のWiiUは、「理想を追求しすぎて仲間を作れず失敗」、NTTドコモのNOTTVは、「成功体験にとらわれて失敗」、セガ・エンタープライゼスのドリームキャストは「構想に対する実行力が伴わず失敗」と、いずれも「競争ルール」に失敗したからだと総括している。

   だが、任天堂はWiiUの失敗を経験したことにより、ソフトを開発するサードパーティーとのバランスを取るようにするなど、プラットフォーマーとしての立ち位置を修正。決して無駄な失敗ではなかった、と荒木さんは見ている。

社内の論理で失敗したセブンペイ

   失敗の原因が、ユーザー軽視や同業他社との競争にあれば、まだ救われるかもしれない。しかし、「社内不全」が原因だったとしたら、深刻だ。その例を19年にセブン-イレブン-ジャパンが始めた「セブンペイ」に挙げている。

   ペイペイ、ラインペイなどが乱立する「ペイ戦争」に遅れる形で参入した。2段階認証を導入しなかったため、犯罪集団のターゲットにされ、わずか3か月でサービスは廃止に追い込まれたことは、まだ記憶に新しいだろう。

   失敗の直接の要因は、セブンペイの方針をアプリの新規開発から既存のセブン-イレブンアプリへの統合へと転換したことにある。すでに会員数1000万人を超えるセキュリティ・レベルの低いアプリに決済というハイリスクのサービスを乗せるという決断の誤りだった。

   荒木さんは、セブンペイの社長の記者会見での発言を踏まえ、「我が社は他社と違う」「我が社のロジックだから問題ない」という極めて狭い視野でしか事業を考えていなかった、と厳しく指摘している。いわゆる「我が社の論理」だ。

「社員は企業の外側で起きていることに関心が向かなくなり、他社や一般的な定石を学ぶ意義が感じられなくなっていくでしょう。そして、内部の調整ごとばかりが業務の主体になる『内向きな組織』ができあがるのです」

   日本の企業が陥りやすいケースと思ったら、動画ストリーミングサービスで大成功しているネットフリックスも過去にクイックスターというDVD郵送事業で大失敗していることを紹介している。

   ビジネスモデルをストリーミングに移行するという方向性は正しかったが、タイミングや伝え方が最悪だった、と書いている。トップが社内の反対意見を無視して暴走したのだ。その後、同社は新らたなアイデアが出た場合には必ず反対意見を受け入れるプロセスを組み込んだという。

   大衆車パブリカの失敗を生かして成長したトヨタ自動車のような参考例も多いが、衛星携帯電話「イリジウム」の失敗で転落したモトローラなど、取り返しのつかない失敗例もある。新規事業、新製品を開発している人に多くの気づきを与えるくれる本だろう。

「世界失敗製品図鑑」
荒木博行著
日経BP
1980円(税込)