固型で食べられない多くの食べ物を「DeliSofter」が柔らかくする

日本は、超高齢化社会に突入。65歳以上の総人口に占める高齢者の割合(高齢化率)は26.7%となった。(※平成28年版高齢社会白書より)加齢により身体機能が落ち、様々な日常の行為が難しくなる。その中で発生する1つの障害に対し、強い解決策を提示しようとしているのがパナソニック アプライアンス社が推進する新規事業創出プロジェクト「Game Changer Catapult(以下GCカタパルト)」で選出された「DeliSofter」だ。このコンセプトはいかにして生まれたのか?サウス・バイ・サウス・ウエスト(以下SXSW)でどのような展示を行うのか?今後の開発目標などをチームケア家電の水野時枝さん、小川恵さん、遠矢大さんに話を伺った。

プロジェクトのメインメンバーの遠矢大さん(左)と水野時枝さん(中)と小川恵さん(右)


嚥下障害により諦めていた「あの食事」に挑戦可能に

嚥下というのは、人が口から食べ物を摂取し、歯で噛み砕き、食道を通り胃まで流れるプロセス。高齢者になると舌の運動能力低下や唾液量の減少などにより、食べ物がつかえたり、ひどくなると誤嚥をしてしまい肺炎になったり、窒息する危険性も発生する。この嚥下障害になると、通常のご飯を食べるというのが困難になってしまう。だが、「DeliSofter」を使えば食べられる可能性が増すという。

水野「嚥下障害になってしまった場合は、食べ物をより柔らかくし飲み込みやすく誤嚥をしないように食道を通りやすくしなければいけません。食べ物にとろみをつけたり、食べ物自体をミキサーにかけて流動食にしたりといった形です。『DeliSofter』は、第三の選択肢として短時間で見た目と味をそのままに、料理を柔らかくする事を目指しています。普段食卓で食べている料理を、独自の技術で、見た目を崩すことなく軟かくします」



小川「『DeliSofter』は実験段階まで入っており、実際に動くプロトモデルまで完成しています。現在は原理モデルで野菜であれば10分程度、肉であれば20分程度で柔らかな食べやすい状態になります。から揚げの様な衣につつまれたお肉や、餃子の様な分厚い小麦粉の皮で餡が包まれているものであっても、味はそのままにしっかりと柔らかくすることができます。なぜ、肉にこだわるかというと、嚥下障害になると、今までお肉で摂取していたタンパク質が疎かになりがちです。タンパク質が摂れないと、筋力や免疫力や栄養の低下にもつながります。『DeliSofter』を使えば、形がそのままに、料理を芯まで柔らかくすることができます。肉の種類などにもよりますが、箸やフォークで少し力を入れるだけで切る事が可能になる柔らかさです」


原理モデル完成までには、沢山の苦労と失敗の連続だった

軟かくする事により、嚥下障害になった際に発生する課題へ、解決の道筋が出来つつある。チームケア家電の着眼点は素晴らしいが、そもそもなぜ嚥下障害に着目したのだろうか。その原点を伺った。

小川「企画の背景は、急に私自身が親の介護をしなければならなくなってしまったという点からです。父が突然嚥下障害になってしまい、普段の食事が突然食べられなくなってしまいました。嚥下障害を持つ家族をもって初めて分かったのですが、流動食にする為には食事に時間とお金がかかるという事が判明しました。嚥下障害向けの食事というのは、家族が手間ヒマかけて調理するか、介護職の人がレトルトを宅配するかしかありません。すべてレトルトで済ませようとしたら、多い時で1食1,000円を超え月間の1人の食費で10万円を超える事になってしまいます。そうした状況を打破したいと思い開発しました」



水野「最初は、柔らかくする調理家電ではなく、万能鍋の様なモノを作るのを目指していました。食材を投入するだけで、完成まで自動的に作ってくれるという魔法の調理家電です。

色々とケア家電というテーマに沿って調査していくと、嚥下障害の為に別で食材を用意する事自体も手間になっているという現場の課題に行きつきました。もちろん万能鍋があれば調理の作業自体は短縮されますが、家族全員の料理を作らなければいけない時には2倍の手間が発生します。病院や介護施設に訪問してお話を聞く中で今の形となりました」



小川「製品開発においては、多くの苦労がありました。例えば、病院などでのテスト調理は、想定通り上手くいかないこともありました。各レシピは、東京の医師の先生や大阪の管理栄養士の先生などに試食してもらって評価してもらっています。評価テストの際に、上手く調理できなかった際には、翌週には東京に出張して再評価いただくなど、スピーディにテストトライアルに協力いただきました」



水野「一日中サバの固さについて調査していた際。夕方近くになった時には、部屋中魚と蒸気で何とも言えない香りに包まれていました。もちろん、気持ちのいい匂いではありません。(笑) 蒸し器や電子レンジなど様々器具でのテストなど、『DeliSofter』が今の形になるまでには色々な挑戦と失敗があったのが印象的です」



小川「そうした苦労の反対側では協力してくれる人々が沢山いらっしゃいました。GCカタパルトにおいては、パナソニック中の色々なチームが出展していましたので、技術やマーケティングなどの知見があるチームと同じレベルを求められました。毎回の審査会でも、同じレベルの宿題を投げられる為、どうしても周りの力や繋がりに頼る事が多かったです。累計100名以上の方に試食をして頂き、意見を頂きましたので、その方々全てが本プロジェクトに関わっていると思います。そういった人々に報いる為にも、『DeliSofter』を製品化まで繋げていきたいです」


「DeliSofter」で調理する事で想像以上の柔らかさを体験した

小川「折角なので『DeliSofter』で調理した料理を食べてみてください」

「DeliSofter」の最終モデルは、海外に向けて発送されてしまっている為試作モデルで調理していただくことに。こちらが、ゆでる前のブロッコリー。ビタミンB・Cやミネラルを豊富に含む栄養が多い緑黄色野菜だが、野菜の中でも固めで、長い時間ゆでてもあまり崩れない印象。当たり前ですが触ってみると固かった。



そして10分弱調理したブロッコリーがこちら。


食材自体の見た目は茹でて変色した事以外は、ほとんど変化を感じられない。だが、フォークを乗せるだけでホロホロと食材が崩れる。ゼリーや水ようかんなどよりも柔らかいブロッコリーだ。味も殆ど、そのまま。ほとんど水っぽさはなくブロッコリーそのものといった印象だった。


今までだと、とりあえずミキサーにかけてスープにするしか食べる方法がない野菜だったが、「DeliSofter」を使用すれば、嚥下障害を抱える人や、入れ歯が顎に障害を抱える人に対しても多くの可能性が見いだせると筆者自身は感じた。何より、今までミキサーでしか行えなかった食事に対して新たな選択肢を示している。

今後の製品販売の為には、トレーニング機能と小型化がカギに

嚥下障害の人向けの家電として「DeliSofter」が挑戦する世界観は素晴らしいものだ。従来の調理法で解決出来なかった問題を、調理家電で本格的に解決できるとなれば、必需品として世界に広まっていく気がする。そんな「DeliSofter」は、SXSWでどの様にアピールしていくのだろうか。

小川「実際に調理前と調理後の体験をしてもらって、食材がここまで柔らかくなるというのを体験してもいただく予定です。普段は、工場での品質管理の業務を行っているためプレゼンテーションも英語も経験が全くない為、身振り手振りでコミュニケーションを取って行きたいと思います」



水野「サポートしてもらっているメンバーには、残念ながら業務の関係で一緒にSXSWに行く事ができません者もいます。その分までしっかりアピールしてきたいと思います」



SXSWでも、今回の試食の様なトライアルに挑戦するという。一口食べてみれば、きっとこの製品の凄さや可能性を感じる事ができると私は確信している。そんなケア家電チームに「DeliSofter」の今後について最後に伺ってみた。



水野「嚥下障害になると、食べられる食事が増えるという点だけでも画期的と感じてもらえると思います。

従来の嚥下障害を抱えた人向けの食事は柔らかいゼリーやミキサーしたものが殆どでした。ゼリーになれてしまうと、どんどんと筋力や飲む力が衰えて行ってしまいます。そもそも、食べる人の嚥下障害レベルというのも時々で変化する為、『DeliSofter』を使って調子が良い時には少し固めのオカズにしてみるといった事が出来る様にしたいです。『食べられる』と『食べられない』の間にある『チャレンジして食べてみる』トレーニング的な使い方もしてもらいたいと思います」



小川「家庭用としつつも、小型化については挑戦していきたいと考えています。例えば家族旅行で旅館にいったとき、一人だけゼリーだけだと味気ないですよね。車や電車などにも持っていけるサイズの『DeliSofter』があれば、卓上に置いて少し調理するだけで同じ食べ物を食べる事ができる可能性が増します。この調理器具を使って、今まであきらめていたことにもっと挑戦してもらえる環境づくりをしていきたいと思います」



「DeliSofter」は単に食べ物を柔らかくする家電ではなく、我々の料理や飲食について挑戦を助ける家電と言えるだろう。まだまだ全ての料理に対応しきってはいない。だが、今回試食したブロッコリーを含め、多くの料理を柔らかくする事に挑戦している。もしかしたら、皆が期待する未来もすぐそこにやって来ようとしているのかもしれない。


文・写真:佐藤大介



第1話

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パナソニック株式会社 アプライアンス社

代表者: 本間 哲朗
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住所: 滋賀県草津市野路東2-3-1-1号
概要: 家電領域におけるコア技術の研究・開発、
            顧客ニーズに応える商品企画、効率性の高い生産システムの構築。
            

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