数独物語
〔第2章〕数独の誕生
―アメリカ人の建築家が作った売れないパズル ―

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株式会社ニコリでパズル誌の発行に携わり、現在は一般財団法人日本数独協会の代表理事の後藤好文さん。数独を愛し、20年以上にわたりその魅力を世界に広め続ける後藤さんが、数独のはじまりから現在にいたるまでの数々の歴史を、ご自身の体験を交えて語ります。

   アメリカにデル・マガジンズ(Dell Magazines)という出版社があった。設立は1921年というから、ちょうど第一次大戦と第二次大戦の間である。発売当初はミステリー集やユーモア集などを刊行していたが、折からのクロスワードパズルのブームに乗り、パズル誌を発行するようになる。その後、同じパズル誌を出版するペニープレス社に合併吸収されるが、雑誌のタイトルに「デル」の名は今も残っている。

 

   さて、このデル・マガジン社発行の雑誌「ペンシルパズルス・アンド・ワードゲームズ」1979年5月号に「ナンバープレイス」というパズルが掲載された。今から40年近くも前のことである。

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デル・マガジン社発行の雑誌「ペンシルパズルス・アンド・ワードゲームズ」

   ルールを読むと、各タテ列、各ヨコ列そして小さな9つのボックスの中に、1から9の数字を重複しないように入れなさい、と書いてある。全く数独と同じ盤面、同じルールである。即ち、数独がこの世に誕生した瞬間である。この問題には更にヒントとして、盤面の中に丸印があり、ここから始めると解きやすいですよと、入る数字まで示されている。

   数独ファンのみなさんには、このヒントに従い丸印から先に数字を入れ、是非最後まで解ききって欲しい。これがあなたを虜にして離さない数独の、世界最初の問題である。

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数独の世界最初の問題

   ところが、この「ナンバープレイス」というパズルは、当時のアメリカではほとんど人々の関心を引かず、わずか数年で姿を消すことになる。そのため、このパズルを誰が考案したのか、それさえも話題にならなかった。

   後に、数独が世界的なブームになったとき、ニューヨーク・タイムズのパズル編集長ウィル・ショーツがこの調査に乗り出した。「ペンシルパズルス・アンド・ワードゲームズ」という雑誌は巻頭に、パズル作家の名前の一覧表があるだけで、誰がどのパズルを制作したのか特定することができなかった。そこで私は1979年から1980年代全部の雑誌をくまなく調べ、一人の名前にたどり着いた。」とショーツは語っている。その名前がハワード・ガーンズ(Howard Garns)である。「ナンバープレイスが掲載されている号には、ハワードの名前があり、逆に掲載されてないときにはハワードの名前がなかった」。

   彼こそが、9×9のラテン方陣を3×3のブロックで9つに分割し、更にそのブロックの中も1から9の数字を重複させないように入れるというアイデアを考え出した人物である。ショーツは「ハワードは80年も前のフランスの新聞は見ていないだろう。ただラテン方陣については知識があったと思われる」(第1章参照)と言っている。

   残念ながら彼は癌を患い1989年にこの世を去っており、何をもととして、このアイデアに至ったかは不明であるが、少なくとも、ラテン方陣に制約を加えることで、入れられる数字が限定され、それがロジックパズルとなること、その論理性の美しさに気がついていた人であろう。

   ハワード・ガーンズは1905年アメリカ・インディアナ州コナーズビルに生まれる。父親は建築家で、その影響でイリノイ大学では建築学の修士を取得、卒業後も父の経営する会社で働いていた。第二次世界大戦が始まると、陸軍航空軍で技術者として勤め、大佐にまで昇格した。戦後は建築会社に就職し、定年まで勤め上げる。数学にも、パズルにも、出版にも全く縁のない人生を過ごしてきたのである。そして退職後、ようやく趣味であったパズルに没頭する時間が持て、74歳のときに、デル社のマガジンに生涯の傑作「ナンバープレイス」を投稿したのである。

   しかし、既に述べたように、これほどのパズルがほとんど誰にも注目されず、数年間でわずか1ダースほどの作品が発表された後、掲載が中止となった(あるいは、ハワード自身が病に冒され、作品が作れない状態だったのかも知れない)。そのままであれば、ナンバープレイスは数多あるペンシルパズルの一つとして、歴史の中に埋もれてしまう運命だった。

 

   ところが、ここで奇跡が起こった。太平洋を隔てた極東の島国でこのパズルをたまたま解いた男がいたのだ。

   「数独物語」第3章に続く


   「数独物語」

〔第1章〕数独のルーツ ― 中国の占いから生まれた数独の原型 ―

〔第3章〕数独のデビュー ― 「数独」と「ナンプレ」生んだ、2人の日本人 ―

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