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【書評ウォッチ】名作27年ぶりの改訳版 完璧なるハードボイルド刊行秘話

   おもしろい本の紹介記事があった。ハードボイルド小説「不朽の名作」といわれるダシール・ハメットの『マルタの鷹』。その改訳版を刊行した小鷹信光さんの話だ。かつて米国製ペーパーバックの原作にほれ込み日本語訳して刊行したのだが、今20年以上たってからミスを指摘されてしまった。「直さないと、死にきれない」。100カ所ほどを改めたという記事が読売新聞の日曜版に出ている。実に27年ぶりの訳し直しは、「改訳決定版」として9月にハヤカワ・ミステリ文庫から。翻訳家の完璧主義と原作本来の魅力、さらに映画でハンフリー・ボガートが演じた主人公の強烈な個性が読書の秋を飾る。【2012年10月14日(日)の各紙からII】

ミス指摘され、「ぐらついちゃった」

『マルタの鷹〔改訳決定版〕』(ダシール・ハメット著、小鷹信光・訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)
『マルタの鷹〔改訳決定版〕』(ダシール・ハメット著、小鷹信光・訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)

   記事は、読書面とはやや異なって柔らかい人物紹介風。小鷹さんは1952年に東京都内の高校へ入ったが、古本屋と映画館に通い詰める「不良」だったそうだ。ここでアメリカの作家・チャンドラーの特集雑誌と出会った。早稲田大学時代はペーパーバックをむさぼり読み、出版社勤務を経て翻訳のプロに。「私のバイブル」とまで唱えた『マルタの鷹』に翻訳テクニックをつぎ込んで1985年、いったん発刊にこぎつけた。

   ところが「その訳に読みの至らなさや細かなミスがある」と2009年に東大の諏訪部浩一准教授がネット上で「『マルタの鷹』講義」を始めた。それを知ったときの気持ちを小鷹さんは「集大成だと思っていたのだが、ぐらついちゃった」と、記事の中で吐露している。

   以来、版元の早川書房に申し出ること3年、旧版の在庫がなくなったところで改訳を世に出すことができたのだという。

「弱い、優柔不断な自分のお手本に」

   それほどにベテラン翻訳家をかりたてた『マルタの鷹』は、黄金の鷹像をめぐる欲望の争いと巻き込まれた私立探偵サム・スペードの物語。映画も不朽の名作として知られる。

   ハードボイルドとは何か。「弱かったり、優柔不断だったりする自分を理解しているから、お手本を常に教えてくれる存在」と小鷹さんに語らせた川村律文署名の記事もなかなかだ。

   ほかでは、『縮小社会への道』(松久寛編著、日刊工業新聞社)を毎日新聞が。地球の資源量や環境の制約から「縮小社会を本気で考えなければ」と試論をさまざまに展開する。

   『日本、買います』(平野秀樹著、新潮社)が朝日に。中国などの外資が日本の島や山林を買収する実態を調べた。北海道自衛隊駐屯地のそば、九州では要衝の島。したたかな連中が法の不備をつく。事態はすでに深刻だ。もう一つの「領土問題」があった。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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