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村上春樹氏はなぜ受賞逃したか 過去の「ノーベル賞作家」読み「傾向」探る

   今年(2012年)のノーベル文学賞は『赤い高粱』で知られる中国の莫言氏に決まった。最有力と期待された日本の村上春樹氏は残念ながら受賞を逃した。ノーベル文学賞の基準とは、どんなものなのか。過去の受賞作家の作品を読んでみる。J-CASTニュースの新書籍サイト「BOOKウォッチ」(http://books.j-cast.com/)でも特集記事を公開中。

「東洋のオデュッセイア」

『霊山』
『霊山』
『霊山』

   莫言氏のノーベル賞受賞は、中国国籍の作家として初めての受賞だが、中国系の作家としてはフランスに亡命した高行健氏が2000年に一足早く受賞している。しかし、中国政府は反体制的だった高氏の受賞を黙殺した。高氏は1940年に江西省南部に生まれ、北京でフランス語を学ぶが、文化大革命で下放によって山岳地帯で教師を経験する。その後、北京に戻り劇作家として活躍するが、西欧的との批判を受けパリに渡りフランス国籍を取得した。

   集英社からの『霊山』(著・高行健、訳・飯塚容、3360円)は、ノーベル賞受賞を決定づけた代表作といわれる。がんを宣告された男が霊山を探し求めてさすらう魂の彷徨を描いた長編小説で、ホメロスの叙事詩に擬せられ、「東洋のオデュッセイア」と評価された。

映画でも話題を読んだグラスの出世作

『ブリキの太鼓』(第1部)
『ブリキの太鼓』(第1部)
『ブリキの太鼓』

   1999年にノーベル文学賞を受賞したのは現代ドイツを代表する作家、ギュンター・グラス。集英社文庫の『ブリキの太鼓』(著・ギュンター・グラス、訳・高本研一、1部740円、2部840円、3部720円)は映画でも話題になった出世作だ。3歳で成長のとまったオスカルがブリキの太鼓の音色にのせて語る猥雑で奇怪な物語が、激動のポーランドを舞台にナチス勃興から戦後復興までの30年を背景にダイナミックに展開される。

   グラスは作家活動だけでなく、アメリカのアフガニスタン侵攻に異議を唱えたり、今年(2012年)4月にはイスラエル批判の詩を発表したりするなど政治的発言にも積極的なことで知られる。2006年には若いころナチスの武装親衛隊に入隊していたことを告白して論議を呼んだこともあり、その言動は常に刺激的だ。

「秘密の花園」描き一大センセーション

『乙女の港』
『乙女の港』
『乙女の港』

   日本人作家として初めてノーベル文学賞に輝いたのは、1968年の川端康成。受賞記念講演「美しい日本の私」も話題を呼んだ。新感覚派の代表的作家といわれ、繊細な日本の美を追求、美しい文章で多くの名作を残した。『伊豆の踊子』『雪国』『千羽鶴』『山の音』など、映画や教科書でもお馴染だ。

   実業之日本社の文庫『乙女の港』(著・川端康成、画・中原淳一、800円)は、昭和12年(1937年)から翌年にかけて、少女向け雑誌『少女の友』に連載された少女小説。横浜のミッションスクールを舞台に女学生同士の疑似恋愛的な「秘密の花園」の世界を描き、中原淳一の優美な挿絵の魅力もあって、女学生の間で一大センセーションを巻き起こした。川端はまだ名の知られていなかった作家中里恒子の草稿をもとに書いたといわれる。