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【書評ウォッチ】「外国人犯罪増加」「有害物質の雨」 3・11で飛び交ったデマを分析

   3・11が近づいて、東日本大震災にからむ企画記事が各紙各面で目立ち始めた。読書面では『検証 東日本大震災の流言・デマ』(荻上チキ著、光文社新書)を日経新聞が。あの日の直後からネットにあふれた災害流言のメカニズムを解説する一冊だ。だまされない、広めないための基礎知識を語っている。【2013年3月3日(日)の各紙からI】

えっ「一番役に立ったのはラジオ」

『検証 東日本大震災の流言・デマ』(荻上チキ著、光文社新書)
『検証 東日本大震災の流言・デマ』(荻上チキ著、光文社新書)

   チェーンメールやリツイートにのるデマは、拡大して流言となった。「有害物質の雨が降る?」「放射性物質にヒマワリが効く?」「被災地で外国人犯罪が増えている?」「あの政治家がこんな失言をした?」……どう生まれ、どう広がるのか、本が扱う実例には注意喚起として広まるデマもあれば、救援を誇張するデマもあるという。

   「あの緊急時に人々の足がいかに引っぱられたかがわかる」と、日経の評者・坂村健さん。緊急事態のときにはネットの情報が諸刃の剣になるとの本の指摘に、有事と平時の両面に素早く対応できるデュアル・モード国家、そのための技術と制度の整備を提唱する。

   いっしょにとり上げられた『3・11被災地の証言』(情報支援プロボノ・プラットフォーム編著、インプレスジャパン)は、情報空白地帯の問題に触れる。いざというときに頼れるのは電話かメールかツイッターか。震災発生から3か月間、3000人の行動をまとめた。一番役立ったのはラジオ、次がテレビとワンセグだったのだそうだ。

ネットの可能性はバラ色か灰色か

   ネットが使えない地域もあったためだろう。だからといって、ネットなしでこと足りるわけがない。ネット情報はつながりさえすれば、早く、大量で、しかも双方向のやり取りもできる。

   この視点から『しなやかな社会への試練』(京大・NTTリジリエンス共同研究グループ著、日経BPコンサルティング)は、クラウド・コンピューティングを通じた防災の可能性に期待を寄せる。

   ネットの威力論なら、もう子どもだって感じている。それだけ悪用された場合の害も大きい。こう考えると、デマ検証本の問題提起に戻ってしまう。災害に備える情報社会の建設は始まったばかり、本格的にはまだこれからだ。まずは流言対策、なんとかしなければバラ色の可能性も灰色になってしまう。

   このほか『東北発の震災論』(山下祐介著、ちくま新書)が朝日に。中央のために地方がリスクを負う「広域システム災害」として東日本大震災をとらえた。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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