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【書評ウォッチ】認知症の母、死の恐怖なし? 「究極の自由人」と暮らす映画監督

   認知症の母を主人公にしたドキュメンタリー映画で話題をよんだ女性監督が、その介護シーンをユーモアいっぱいに書きつづった。『ボケたっていいじゃない』(関口祐加著、飛鳥新社)が、否定的に考えがちな認知症問題にポーンと一石を明るく投じた。

   大変なこともあるけれど、ネバーギブアップ。すると、認知症の人たちが「究極の自由人」に見えてくるというのだ。日経新聞の「あとがきのあと」コーナーに著者の笑顔が載っている。【2013年6月23日(日)の各紙からII】

50万アクセスの動画をエッセイに

『ボケたっていいじゃない』(関口祐加著、飛鳥新社)
『ボケたっていいじゃない』(関口祐加著、飛鳥新社)

   映画は「毎日がアルツハイマー」。YouTubeにアップした動画が累計50万アクセスを突破したという。その監督でもある著者は1957年横浜生まれ、大卒後、オーストラリアへ渡って「戦場の女たち」などの映画をつくってきた。ところが、米穀店を切り盛りしていた母の宏子さんが突然、異変をきたした。家の電話線を引っこ抜き、トイレをトイレットペーパーでぐるぐる巻きに。驚いた著者は帰国して介護しながらカメラを向けた。

   宏子さんは現在82歳、アルツハイマー歴3年。その記録からまとめたドキュメンタリー・エッセイがこの一冊。患者と一緒に泣く一人称スタイルではない。一歩離れて客観的に見る。「枠にはめようとしてもはまらない」「丸ごと受け入れ、母の心を安定させることが大切」という紙面の言葉に実感がこもる。

   実生活では対処手段を一つに限定せず、いくつか用意しておくといいそうだ。これは映画制作の経験から学んだ。認知症とは何? 死の恐怖からも解放された「ストレスフリー」に見えるという。映画は各地を巡回上映中、続編の撮影も始めたことが日経紙面にある。

「へたな教科書より、百倍有益な漫画本」

   ほかでは、沖縄問題の関連本を琉球大学の我部政明さんが朝日新聞の読書面トップで。理論研究や歴史の教訓を知る参考に『沖縄/基地社会の起源と相克』(鳥山淳著、勁草書房)や『基地の政治学』(川名晋史著、白桃書房)、さらに『「尖閣問題」とは何か』(豊下楢彦著、岩波現代文庫)を薦める。

   『恋いのうた。』(渡部泰明著、杉田圭画、メディアファクトリー)を万葉学者の上野誠さんが「へたな和歌史の教科書より、百倍有益な漫画本」として読売新聞でとりあげている。和歌研究の第一人者と和歌の恋愛世界を描かせて人気の漫画家がコラボした。詠み上げCDつき。いにしえの恋や複雑な男女関係がブームとなるだろうか。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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