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【書評ウォッチ】自己啓発書は気持ちいいだけの「ポルノ」だ 下品で字少なく余白多い

   珍しいぐらい主張のあるタイトルと内容の本が出た。『キャリアポルノは人生の無駄だ』(谷本真由美著、朝日新書)が朝日新聞に小さく載っている。読むだけでやる気になれますヨという触れ込みの自己啓発書は欲望を刺激する娯楽にすぎない点でポルノと同じ。下品、字が少ない、余白が多い。そんなものに頼らず、「あなたはあなた、成功者は成功者」と違いを自覚しよう。ブームにのせられて買いあさる依存症患者にズバリ、そう言い切る。【2013年9月8日(日)の各紙からⅡ】

「キャリアポルノはドラッグの代わり」

『キャリアポルノは人生の無駄だ』(谷本真由美著、朝日新書)
『キャリアポルノは人生の無駄だ』(谷本真由美著、朝日新書)

   著者は、ツイッターのフォロワー数約4万5千、ビジネスパーソンを中心に支持を受けるというロンドン在住の元国連職員「May_Roma」さん。facebookで7千以上「いいね!」が押され、4千回以上リツイートされたブログ記事を本にした。

   自己啓発書には、さまざまある。新タイプの生き方論や仕事論、人の動かし方からビジネストーク、英語の習得術まで。疲れ気味の就活生や若いビジネスマンに今ブームだ。読めば「オレって何かスゴイかも」と成功しそうな気分になれる。しかし、これはもう立派な自己啓発書依存症。マネジメント不在を社員の「やる気」でカバーする日本の労働環境にマッチしただけのことと考える著者の舌鋒は鋭い。

   うっかりのせられてはいけない。本は「キャリアポルノはドラッグの代わり」「実は成功していないキャリアポルノの著者」と厳しく指摘。非正規雇用の恐怖から日本の若者が自己啓発にすがりつく、努力しない人や現実を直視できない人が多いとも分析する。

   著者自身の海外脱出体験や日本的な労働観を抜け出るまでにも触れ、キャリアポルノにはノウハウのすべてが書かれているわけではないことを示して、自分を受け入れて他者との違いを自覚する必要を説く。こうした解説を踏まえて自己啓発書と本書とを読み分ければ、しごく当然の内容とうなずける。ブームへのきっちりした反論と同時に、迷う人へのエールにもなっている。書評は無署名。

日本の技術をとりこんだアップル

   『アップル帝国の正体』(後藤直義、森川潤著、文芸春秋)を読売新聞が。今をときめくiPhone技術の多くが実は日本で培われたことを実例とともに語る。評者は開沼博さん。

   張り巡らされたアップルの情報網が高い技術力の日本企業を探し出し、大量発注をかけつつハイテク技術を短時間で吸収してしまう。そのしたたかさ。アップル製品の、これもブームの実態を掘り下げた一冊だ。日本企業は何をし・何をされたのか、考えなければ。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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