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【書評ウォッチ】スカイツリー新名物は「エビぞりのおじいちゃん」?! ユーモラス、でも真剣だ

   心をいやす独特の風景を写真や絵や随筆でギュッとおさめた本の紹介が、今週の読書面には目立つ。『原風景のなかへ』(安野光雅著、山川出版社)を朝日新聞が、『東京スカイツリーを撮影している人を撮影した本』(太田友嗣著、産業編集センター)と『風景は記憶の順にできていく』(椎名誠著、集英社新書)を読売新聞が、それぞれ紹介している。秋近く、身近な景色をじっと眺めてみるのもよいかもしれない。【2013年9月15日(日)の各紙からⅡ】

みんなタワーが大好きなのだ

『東京スカイツリーを撮影している人を撮影した本』(太田友嗣著、産業編集センター)
『東京スカイツリーを撮影している人を撮影した本』(太田友嗣著、産業編集センター)

   中でもユニークなのがスカイツリーの周囲でカメラを手に大まじめに上を向く人々を、著者本人は上を向くこともなくじっと観察し、パチリととらえた『東京スカイツリーを……』。話題のスカイツリー自体はいっこうに出てこないという写真集だ。

   ここの主役はツリーの全景をカメラに収めようと奮闘している方々。とにかく「みんなタワーが大好きなんだなぁ」と読売の読書面記事。ご存じ高さ世界一634メートルのツリーを撮影中の人ときたら、よりよいアングルを得ようと、皆すごい。

   地べたに寝転がるなんて当り前で、エビぞりのおじいちゃん、ベンチに横たわるオバチャマ、集団数人が申し合わせたように同じ角度で携帯カメラを向けるご一行も。今やツリーと並ぶ新名物という。ユーモラス、でも、どなたも真剣だ。

   概して国籍、年齢関係なし。そうした内外の老若男女132人を、著者は「男子シングルス」「女子シングルス」「ダブルス」「団体戦」「外国人枠」に分け、臨床心理士や整骨院院長へのインタビューもまじえてまとめた。

   まあ普段はとてもやらないであろう格好に「目を凝らした著者に、拍手を送りたい」という「恵」一文字署名の書評も軽妙。本の雰囲気をよく伝えている。

日本の風景、それぞれの視点で

   『原風景のなかへ』は、心に残る景色や場所を求めて二本各地を歩いた画家初の画文集。火山や河川、山ふところの神社、延々と連なる棚田など。熊本県阿蘇の根子岳、千葉の佐原、山梨の笛吹川、東京なら佃島、奈良の明日香村もある。ただし、単なる写実ではなく、「むしろ見えないものを描くもの」と著者。「淡く、澄んだ色調になる。独特の安野ワールド」と、評者の原真人さんが称賛している。

   『風景は記憶の順にできていく』は、かつていた思い出の地を再訪した作家の一冊。なつかしさと変化。新橋、国分寺、武蔵野、四万十川など。変わったのは風景か、それとも人間か。「現代日本の風景論」「省察の本でもある」という評者は政治学者の宇野重則さん。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

   J-CASTニュースの書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。