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【書評ウォッチ】工業再生に立ち上がった人たち 日本のモノ作りに血路を開け

   日本でモノ作りはまだ十分にできるぞ。『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(藤沢久美著、実業之日本社)が自信を持って問いかける。工場が中国やアジアへ出ていってしまう空洞化に市役所や外郭団体の職員、中小企業の人たちや銀行員らが立ち上がった。キーワードは「密着」「おせっかい」「キャラバン隊」。役所や公務員とは正反対イメージの行動力とチームワークが、産業再生に血路を開いた。地方都市だったらこうはいくだろうかという疑問はあるが、ヒントは確実に示されている。【2014年5月18日(日)の各紙からⅡ】

中小企業と大企業、銀行、大学のネットワーク

『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(藤沢久美著、実業之日本社)
『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(藤沢久美著、実業之日本社)

   モノづくり大国ニッポンも今は昔か。そういうムードにさいなまれるなか、バブル崩壊の影響をもろに受けた川崎市で、市役所内に「ものづくり機能空洞化対策研究会」がつくられた。工業都市カワサキを信じる人たちが毎週1回、朝7時から集まる会議は、地元企業の声を聞くことから始めてやがて800回を超えた。

   これが中小企業と大企業、銀行、大学などをつなぐ絆になっていく。待ちの姿勢はとらない。生産現場、営業現場に出かけ密着して意欲と課題をかぎとる。「いける」とにらんだ企業にはメンバーがキャラバンを組んでおしかけても支援策を提案する。

   個々の企業が持つ強みを研究会のネットワークや市の認定制度などを使って「見える化」したことが成功のもとになった。製品開発には大企業や大学の技術・知的財産が、販売には金融機関のコネクションがサポートする。ネットワークはさらに拡大していった。

   こうまとめると簡単に響くが、役所の長年にわたる形式主義や上司の無理解を突破する情熱が続いてこそ得られた成果だ。景気がよくなるまで待っていたのでは、多くの中小工場が持ちこたえられなかったはずだ。

甘くない地方の現実にも期待をつなぎたい

   地方でこれができるといいのだが、情熱ある人材はいるとしても、そこに川崎のようにぶ厚い産業基盤はない。現実は、甘くはない。同時に、川崎の成功例はヒントさえない状態よりははるかにましだ。地理的な特徴や地方ならではの強みを「見える化」できればと期待をつなぎたい。「血の通った支援に一つの可能性を見て」と、朝日新聞の評者・勝見明さん。なんとかやるしかないところに一灯がともった。

   中小企業の魅力を語った『小さな会社だからこそできる』(奥長弘三著、旬報社)に東京新聞がひとこと触れている。経営者と社員の距離。その近さが強みになる。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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