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【書評ウォッチ】人切り、追い出し部屋、辞めるまでいやがらせ 働く人の悲鳴を記録

   「○○社は人を生かす」「人間大事の経営」と言われた大企業で何が起きたか。人と会社の関係を見つめた『限界にっぽん??悲鳴をあげる雇用と経済』(朝日新聞経済部著、岩波書店)が、働く人たちの最前線から告発する。

   出向派遣に人切り・追い出し部屋、辞めさせるためのいやがらせの数々。今はアベノミクスで一見賃上げ回復ムードの産業界も、リーマンショック後にやったのは、なりふりかまわぬ人間つぶし。外向けの甘い顔やお題目の経営理念など、いざとなればたちまち吹っ飛ぶ。経済変動の際ばかりではない。国際化と呼ばれる海外進出と国内の空洞化で、こういう実態が深いところで進んでいる。【2014年6月1日(日)の各紙からⅠ】

理不尽な行為がいつまた再燃するかも?

『限界にっぽん??悲鳴をあげる雇用と経済』(朝日新聞経済部著、岩波書店)
『限界にっぽん??悲鳴をあげる雇用と経済』(朝日新聞経済部著、岩波書店)

   「追い出し部屋」の言葉は、このごろあまり聞かれない。景気回復で余裕ができたのか、イメージダウンを恐れたか、企業が露骨なことを避けたがり、実態が表面に出なくなった。しかし、日本の代表的企業で何かあったかを忘れてはいけない。その傷にさいなまれる人は今も多く、理不尽なブラック的な行為がいつまた再燃するかもわからない。

   「かつて『ソニーは人を生かす』という本が出たが、そのソニーに「追い出し部屋」がある。パナソニックにも、リコーにも、NECにも」と、毎日新聞で評者・伊東光晴さん。どれも驚きの実態だ。

   本は企業名をあげて、どこでどんな人切りが上司とのどういうやり取りで行われたかを具体的に記録した。再就職を「全力で支援なんてウソだ」「国内に残すなら賃下げ」「会社は解雇なんて簡単」といった刺激的な殺し言葉がちらつく世界だ。この国の、それも代表的な企業にあった。掲げてきた経営理念との、あまりの違い。ごまかされてはいけない。

空洞化の実態は雇用不安そのもの

   恐ろしいのは、原因が一企業の経営失敗だけではないことだ。大中小の企業が低賃金や経済成長を求めて生産拠点を中国や東南アジアに移した結果、日本から工場が消え、国内で働く人たちもアジアなみの低賃金や重労働を求められる。こんな構造が定着しつつある。「空洞化」というだけでは漠然とするが、実態は雇用不安そのものだ。

   韓国や中国の新興企業におされたためだとも言われるが、よく見れば、陰で協力して利潤を得た日本企業もある。なんだか自縄自縛の際限ない現実をも、本は指摘している。

<もう一冊>『日本の雇用と中高年』(濱口桂一郎著、ちくま新書)は、欧米では若年層から、日本では中高年から進む人切りの流れを考えた。朝日新聞に小さく、評者無署名。

(ジャーナリスト 高橋俊一)