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【書評ウォッチ】「給料は学歴より住所で決まる」 日本にもドンピシャリの指摘

   どこに行ったら高収入を得られるかという、えらくゲンキンな研究が一冊にまとまった。『年収は「住むところ」で決まる』(エンリコ・モレッティ著、プレジデント社)にはドライすぎるとの批判も出そうだが、極めて現実的な話でもある。ハイテク・イノベーション産業は製造業の3倍の雇用を生むとの分析。そうした街のほうが、給料は高く、死亡率や離婚率は低いというのだ。「給料は学歴より住所で決まる」だって? 極論だと片づけるわけにはいかない説得力で語りかけてくる。【2014年6月15日(日)の各紙からⅠ】

イノベーション産業はサービス業の職場も生む

『年収は「住むところ」で決まる』(エンリコ・モレッティ著、プレジデント社)
『年収は「住むところ」で決まる』(エンリコ・モレッティ著、プレジデント社)

   活気にあふれて「浮かぶ都市」と、さびれて「沈む都市」。アメリカで両極端に分かれた例を、本はとりあげる。

   かつて製造業で栄えたデトロイトは20年以上も人口流出に悩む。一方、シアトルやオースティンは雇用増、投資拡大が続く。IT産業のイノベーション・技術革新が新たなハイテク企業や他の産業を引きつけ、その活況はサービス業にまでおよんでいる。

   シアトルにマイクロソフト社がやってきてから、アマゾンのようなIT関連産業だけでなく、スターバックスもここから。イノベーション産業によって生み出されるサービス業の職場は製造業による場合の3倍もあるそうだ。イノベーション系の仕事1件に対し、地元のサービス業の雇用が5件増えると、著者は語る。

   「浮かぶ都市の高卒者は、沈む都市の大卒者より給料が高い」とも。また、製造業が低賃金の労働力を求めて他国へ出ていくのに、イノベーション産業は安直に動かないという。このへんは日本も参考にできる。いや、ドンピシャリあてはまるセオリーではないか。

優秀な人材をいつかせるには?

   「安い労賃でもうけよう」と海外に出るメーカーを相手に立地条件で競っても、中国や東南アジアと勝負にならない。しかし、優秀な人材は快適な環境にいつく。だだっ広い工業団地よりも住む魅力にあふれた都市環境が新しい産業を呼ぶ。そこに新時代の地域振興策が見えてくる。これなら日本国内でも十分にやれる。朝日新聞の評者は森健さん。

   政府が「残業手当ゼロ」の構想を打ち出したのに反応してか、『雇用改革の真実』(大内伸哉著、日経プレミアシリーズ)や『労働時間の経済分析』(山本勲、黒田祥子著、日本経済新聞出版社)が日経新聞に。それも、わざわざ別々の欄・コーナーで。

   労働制度を変えるかどうかの議論が始まると、「表面的な議論を超えて」「科学的な分析を」といった本やリポートが必ず出る。もっともらしい用語や解説で論じるのだが、実は企業論理のお先棒かつぎが珍しくない。非正規雇用の導入時を考えればわかる。今度はどうか、しっかり見きわめないといけない。

(ジャーナリスト 高橋俊一)