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【書評ウォッチ】「ノルマを達成できないなら自腹で買え」だと 自爆営業の実態を告発

   勤労者の心と体が破たんするまでこき使って絞りとるブラック企業は、告発されながらもまだ根絶されない。それどころか、名だたる大企業も似たことをやっているとの指摘もつづく。それらに連なるノルマ押しつけ職場の実態を『自爆営業』(樫田秀樹著、ポプラ新書)が暴きだした。郵便局、コンビニ、アパレル業界……商品を社員やアルバイトにまで自腹で買わせ、恥じない企業。理不尽な悪習が、「経済再生」「競争力強化」「成長戦略」の勇ましい掛け声とともに、この国にはびころうとしている。【2014年6月1日(日)の各紙からⅡ】

コンビニ、アパレル、外食産業でも

『自爆営業』(樫田秀樹著、ポプラ新書)
『自爆営業』(樫田秀樹著、ポプラ新書)

   年賀はがきを大量に金券ショップへの持ち込んだ郵便局員がいて、昨年11月、暮れへ向けての話題になった。販売促進にノルマを課され、さばききれずに自腹で買いとっていたのだ。1万枚もの年賀はがきを持ち込むケースもあって、世間の批判を浴び、官房長官が異例のコメントを出す騒ぎまで起きた。

   ノルマは支店にもよるが、正規職員で1万枚、非正規で7000枚が相場という。都内のある非正規雇用局員の場合、金券ショップに1枚43円で売った。7000枚で5万円の自腹となる。こうしたシステムが「自爆」営業だ。年賀はがきはまだしも需要もあるが、「かもめーる」「ふるさと小包」となると、さらに売値は下がるだろう。しかし、売りさばかなければ職場にいにくい雰囲気に、弱い立場の人は涙をのむしかない。

   郵便局だけではない。1個3000円のクリスマスケーキのノルマがアルバイトに各17個のコンビニ、自社製品を毎月「試販」として自腹で買わされるアパレル会社、消費期限切れの食品を買いとらされる外食産業もある。

パワハラやサービス残業、低賃金がつきまとう

   見逃せないのは、こうした自爆営業にはパワハラや長時間のサービス残業、低賃金がつきまとうことだ。これがブラック企業でなくてなんだ?  5年をかけて取材した著者は「いったいどれだけ多くの人が、心と尊厳を傷つけられ、体が悲鳴を上げ、精神を病み、休職に追い込まれたことだろうか」(あとがき)と告発する。

   原因はもちろん、やむなく従う労働者がいるからだし、それにつけこむ悪質経営者や管理職のせいだが、アベノミクス以来の企業優先ムードや政策も無縁ではない。

   残業代ゼロ制度や企業減税に積極的な政府にサービス残業や自爆営業防止策を求めないと、総ブラック化にこの国はなりかねない。小さな無署名書評が朝日新聞の新書欄に。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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