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スーパーテクでヨーロッパを熱狂させたパガニーニ

   音楽の父バッハは、さまざまな曲を作ることによって、後世の音楽家たちに影響をあたえましたが、そのすさまじいばかりの演奏技術で、同時代の作曲家のみならず、以後の音楽家たちに影響を与えた音楽家がいます。今日の主人公は、18世紀後半~19世紀前半に活躍したイタリア・ジェノヴァ出身のヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニです。今日の1曲は、彼の代表曲「24のカプリース」です。

   パガニーニは、ヴィオラも弾き、ギターも弾き、作曲もする人でしたが、ヴァイオリンの演奏技術が同時代の演奏家に比べて飛びぬけて素晴らしく、ヨーロッパ中で熱狂の嵐を巻き起こしました。現代のように、作曲家と演奏家が完全分業となる以前の時代ですから、作曲者が自ら演奏したり、演奏家専業でない音楽家があたりまえで、パガニーニ本人も、ヴァイオリニストだけで活動していたわけではないのですが、あまりにもその技術がすさまじいために、聴衆が放っておきませんでした。ちょうど、ヨーロッパでは市民革命が進み、それまで貴族の庇護下にあった音楽家が街に出始め、市民が、演奏会にチケットを買って聞きに行く、というスタイルが定着してきたことも、彼の活躍を後押ししました。

  • パガニーニのカプリースに刺激されて後に作られた曲は多い。写真はブラームスのピアノのための「パガニーニ変奏曲」のもの
    パガニーニのカプリースに刺激されて後に作られた曲は多い。写真はブラームスのピアノのための「パガニーニ変奏曲」のもの
  • パガニーニのカプリースに刺激されて後に作られた曲は多い。写真はブラームスのピアノのための「パガニーニ変奏曲」のもの

シューベルトは演奏聴くため私財売り払い...

   マスコミがまだ発達していない時代にもかかわらず、パガニーニのすごさは、ヨーロッパの隅々まで伝わり、音楽愛好家のみならず、同時代を代表する作曲家として名を残すことになる音楽家たちも、こぞって、パガニーニの演奏を聴きに行ったと伝えられています。貧乏だったシューベルトはパガニーニを聴くために家財を売り払ったといわれていますし、後に、同じようなスーパーテクニックのピアニストとして、パガニーニと同じく、ヨーロッパを熱狂の渦に巻き込むことになる、フランツ・リストも、パガニーニの演奏を聴いて、「私はピアノのパガニーニになる!」と誓いを立てたといわれています。

   その技術が、卓越していたために、既存の曲では飽き足らず、彼自身のヴァイオリンの技巧を披露するために、無伴奏のヴァイオリン曲集である「24のカプリース」は企画されました。現代でも、ヴァイオリニストにとって、この24曲をただ一人で弾く、というのは大変なチャレンジです。そして、最終24曲目は、「主題と変奏」という副題を持った大きな曲となっていますが、ヴァイオリンの技巧を余すところなく発揮するように、有名なメロディーと華麗な11の変奏からできており、たくさんの後世の音楽家を刺激しました。すなわち、上記リストのほか、ブラームス、ラフマニノフ、イザイ、ルトスワフスキ、そして、数多くのポピュラー音楽の作曲家たちが、「パガニーニのテーマによる○○」と題した曲を、オマージュとして、新たに作り出しているのです。

演奏家としても作曲家としても後世に多大な影響

   パガニーニが活躍した19世紀半ば以降、演奏には高度に専門的な技術が必要となってきたため、クラシック音楽において「演奏家」は、作曲家や編曲家と独立した職業となってゆきますが、パガニーニはその分岐点にあって、演奏家としても作曲家としても、後世の音楽に多大なる影響を与えた音楽家といえます。

   活躍した人のエピソードには、大体尾ひれがつくものですが、パガニーニも、「至高の演奏技術を手に入れるために、悪魔と取引をした。彼が悪魔的に見えるのはそのせいだ...」と噂されました。おそらく、ファッションでも、「天才演奏家」を演出していた、彼の作戦にまんまとのせられた、というのが真相でしょうが...はたして?

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。