2024年 4月 17日 (水)

新たな世界システムの中で日本は何をすべきか 冷戦後の「世界情勢」を知る指南書

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   ■『新しい中世 相互依存の世界システム』(田中明彦著、講談社学術文庫)

   ■『ケインズとその時代を詠む』(大瀧雅之・加藤晋編、東京大学出版会)

   週刊エコノミスト(毎日新聞社)を読む楽しみの1つは、その読書欄にある。複数の有識者が順繰りに執筆する「読書日記」というコラムには、以前、気鋭のイスラム学者池内恵氏(東京大学准教授)も書いていた。

   池内氏は、過去に読売新聞などの書評委員を務めたことがあり、毎日書評賞を受賞した「書物の運命」(文藝春秋 2006年)は、残念ながら絶版であるが、読書を好きなものの座右にあるべき1冊である。

   池内氏の薦める本は歯ごたえがあるが、読んで絶対に損にはならない。2015年5月19日号の週刊エコノミストの「読書日記」で紹介された2冊は、「国際社会論 アナーキカルソサエティ」(へドリー・ブル著 岩波書店 2000年)と、「新しい中世 相互依存深まる世界システム」(田中明彦著 日経ビジネス人文庫 2003年)であった。

   国際政治学を誕生させた、E.H.カーの流れをくむ「イギリス学派」のブルの本は、この「読書日記」の後、2016年5月に、岩波書店などが取り組む10出版社共同復刊事業の「書物復権」で第九刷が出た。そして、なんと、「新しい中世」が講談社学術文庫の8月の新刊「新しい中世 相互依存の世界システム」として再び世に出された。

世界を3つに分類したら...

   北朝鮮の核問題、中国の軍事進出の脅威など、アジア・太平洋の情勢は、なかなか険しい。そのような中、「新しい中世」という視点、すなわち、国境が薄れ、法の支配など自由民主主義が定着し、複雑な相互依存が成り立つ「新中世圏」、近代に成立した国民国家(主権国家)が重要な主体として成立する「近代圏」、秩序が崩壊し、近代が達成したものまで失われている「混沌圏」の3つに、世界の国々を分類し、我々にも、この情勢を分析する手立てを示してくれる。「中世」というのは、「ヨーロッパ中世」との対比からきているが、非国家主体の重要性の増大、イデオロギー対立の終焉で類似し、グローバリゼーションでは違いがあるという。

   このような分析枠組みで、アジア・太平洋地域で、日本のとるべきは、「新中世圏」では、日米安全保障条約の実効性の確保、ヨーロッパ・オーストラリアの重視、「近代圏」では、勢力均衡(安保条約の実効性確保を含む)、多国間協議、ロシアとの関係改善、「混沌圏」は、日本の対応が最も遅れている分野で、国際平和維持活動への参加、経済援助・人的協力の拡大、となる。

   それぞれの圏域(スフィア)に応じた対処は、とかくわかりやすさを性急に求め勝ちな、我々の頭を冷やしてくれる。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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