2024年 4月 20日 (土)

スマホにもない答え 宮藤官九郎さんは中1の娘に「だから面白いのだ」

   週刊文春(8月2日号)の「いま なんつった?」で、脚本家の宮藤官九郎さんが、ませた子どもの「美女談義」から書き起こしている。

「僕のクラスには美女がいない」「○○ちゃんは?」「あれは美女かなあ」「△△ちゃん」「ぜんぜん美女じゃない」「□□先生は?」「お前、美女の意味、分かってねえな」

   振り返り、速度を落として会話に聞き入る宮藤さん。登校中の男子小学生で、ランドセルの「大きさ」からして低学年らしい2人だった。

   宮藤さんの生きがいは早朝のジョギングと夕方の銭湯。ジョグでは熱中症を警戒して自販機で飲料を買い、公園の水道で顔を洗い、木陰で涼んでまた走り出す。その耳に飛び込んできた、子どもの「衝撃的なフレーズ」である。

「覚えたばかりの『美女』という言葉を使いたくて仕方ないのだろう。なおかつ彼の中でもその定義は不確かなようで『もういい』と話題を変えてしまった」

   脚本家は「僕が子供の頃だったら」と想像をめぐらせる。学校から帰って母か姉に「美女」の意味を尋ね、ひとしきり笑われ、辞書で調べて「美しい女性」という言葉にぶつかる。そして「悶々とした気持ちになり『美女』が頭から離れなくなる」と。

  • 幼いころからスマホを使う子たち
    幼いころからスマホを使う子たち
  • 幼いころからスマホを使う子たち

一瞬で解決した気に

   宮藤さんは48歳。小学生時代、テレビにミニスカのピンク・レディーが出ると、パンツが見えるかもしれないと画面を下からのぞき込んだ。それほど「美女」に飢えていたそうだ。病院や床屋の週刊誌で水沢アキや五月みどりのグラビアを穴が開くほど見つめ、「違う、これは熟女だ!」と叫びもした。

   いまの小学生は「美女」の意味を誰かに聞く前に、母親のスマホやタブレットでこっそり調べることができる。一瞬で問題を解決したうえ大量の画像に触れられる今の子と、想像力を働かせて悶々としたわが世代、「果たしてどっちが幸せなんだ?」と宮藤さんは自問する。

   仕事関係の会食だろうか、酔ったプロデューサーが声を張り上げたという。

「この世に、分からないものなんか、もうないって、思ってるんですよ、最近の若い連中は! だから理解できないものは受けつけないんです」

   宮藤さんもほぼ同じ意見らしい。

「子供達、世の中にはまだまだ解明されてない謎、理解の及ばない世界、何にも似てない表現がある。それらを『分からない』のひと言で排除するのはもったいないぞ」

   最後は、宮藤脚本で公開中の映画「パンク侍、斬られて候」である。中1の娘さんに作品を見せたら「ねえ、なんで猿が喋り出したの?」と、質問攻めにされたそうだ。

「その答えはスマホには無い...お父さんにも分からない。だから面白いんじゃないか?」

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中
カス丸

ジェイキャストのマスコットキャラクター

情報を活かす・問題を解き明かす・読者を動かすの3つの「かす」が由来。企業のPRやニュースの取材・編集を行っている。出張取材依頼、大歓迎!